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全身のPETスキャンがわずか数十秒で!

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190911

原文:Nature (2019-06-12) | doi: 10.1038/d41586-019-01833-z | Whole-body PET scanner produces 3D images in seconds

Sara Reardon

最短20秒で全身を画像化できるPETスキャナーが開発された。臨床診断での放射線被曝を大幅に低減できるだけでなく、さまざまな医学研究にも利用できると期待される。

改良型PETスキャナーは、薬剤の追跡や細菌感染の特定に使える可能性がある。 | 拡大する

UC DAVIS; ZHONGSHAN HOSPITAL; UNITED IMAGING HEALTHCARE

全身の三次元(3D)画像を最短20秒で得ることのできる、改良型の陽電子放出断層撮影(PET)装置が、カリフォルニア大学デービス校(米国)の生物医学工学者Ramsey Badawiらによって開発された。従来のPET装置では全身のスキャンに平均で20分かかるが、時間が著しく短縮されたことで、検査時の被曝線量を大幅に低減できる。この改良型PETスキャナーは、2019年6月5〜7日に米国メリーランド州ベセスダで開催された、米国立衛生研究所(NIH)のコモンファンドプログラム「ハイリスク・ハイリワード研究(High-Risk, High-Reward Research)」のシンポジウムで紹介された。

PET検査では、被検者は計測が終わるまで装置の中で動かずにいる必要があるが、子どもにはこれが難しく、撮像中に動いて測定が台無しになる場合がある。今回の改良型スキャナーは、この問題を解消できるだけでなく、薬剤がどのように体内を巡るかを調べる研究などで役立つ可能性があると、ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)の小児感染症専門医Sanjay Jainは評価する。

標準的なPET検査では、まず、トレーサー(陽電子を放出する放射性同位体で標識した薬剤)が被検者に投与される。これらのトレーサー分子が被検者の細胞に取り込まれると、放射性核種から陽電子が放出され、それらが体内で近くの電子と結合して消滅(対消滅)する際に高エネルギーのγ線が放出される。このγ線の角度と速度を、被検者の周囲に設置したリング状の検出器で計測することで、γ線源の体内での分布状況が3D的に再構成される。

従来のPET装置のリング状検出器は、奥行き(筒の長さ)が25cm程度で、一度に画像化できるのは人体のほんの一部にすぎない。また、トレーサー分子中の放射性核種はすぐに崩壊するため、γ線のシグナルは急速に減衰する。従って、撮像範囲をより広くするには、放射性トレーサーの投与量を増やし、検査台を装置内で前後に移動させる必要がある。

従来のPET装置は奥行きがないため、全身など広い範囲をスキャンする際は検査台を装置内で前後に移動させる必要がある。 | 拡大する

Mark Kostich/E+/Getty

Badawiらは今回、PET装置のリング状検出器を8個つないで長さ2mの円筒にし、全身を同時に画像化できる改良型スキャナーを開発して、これらの問題を解決した。この新型装置は、従来の装置の40分の1の時間で全身の3D画像を生成でき、トレーサーの投与量も40分の1で済むため、被曝線量を大幅に低減できる。さらには、被検者を装置内で動かす必要もないため、トレーサーが体内で移動する様子を長時間にわたり経時的に追跡することも可能だ。

この改良型スキャナーは、2018年12月に米国食品医薬品局(FDA)によって米国内での使用が承認されており、シンポジウム後には、実際に患者の検査に使用された。現在は、カリフォルニア大学デービス校のヘルスセンター「UC Davis Health」で臨床での本格的な使用が始まっている。

「この全身撮像装置で、医用イメージング界に新たな飛躍的進歩がもたらされました」とペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の放射線科医Abass Alaviは言う。彼は、Badawiと共同で、改良型スキャナーを用いたアテローム性動脈硬化症(動脈内にプラークが蓄積する状態)の研究を進めようとしている。Alaviによると、この装置で薬剤の効果を経時観察することで、ゆくゆくは特定の薬剤が動脈閉塞症の治療に役立つかどうかを確認できるようになる可能性があるという。

従来のPET装置は通常、こうした目的では使用されない。コストが高く、被曝線量も多くなってしまうからだとBadawiは説明する。

Jainは、この装置を用いて、自らが開発した新たな放射性トレーサーを試験したいと考えている。一般的なPET用のトレーサーにはブドウ糖が使われているが、Jainのトレーサーには、哺乳類細胞には取り込まれず細菌にのみ取り込まれるマンニトールやソルビトールといった糖が使われている。細菌感染が疑われる被検者にこのトレーサーを投与すれば、細菌が集中している場所を明らかにできると考えられる。Jainの研究室ではさらに、細菌の種類をPET検査で特定するためのトレーサーも開発中だ。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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