News & Views

いたずらな微生物

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190936

原文:Nature (2019-06-27) | doi: 10.1038/d41586-019-01851-x | Microbes make metabolic mischief by targeting drugs

Kim Lewis & Philip Strandwitz

細菌が医薬品を代謝できるかどうか、さまざまな腸内細菌と広範な種類の医薬品について試験したところ、全ての細菌が複数の医薬品を代謝し、さらに、半数を超える医薬品が代謝されることが分かった。

拡大する

KATERYNA KON/SPL/Getty

全ての人にはそれぞれ違いがあり、薬物治療に対する反応にも、当然、個人差がある。通常、この差は主に、摂取した分子の解毒に特化した肝酵素の違いによるものと考えられている。そのような酵素は医薬品を代謝することがあり、その結果、医薬品の効果が低下もしくは消失したり、毒性が現れたりする。従って、ある医薬品に個人がどのように反応するかを知っておくことは、治療計画を立てる上で重要だ。しかし、この分野については古くから研究されてきたにもかかわらず、体内における医薬品の運命に関する我々の知識は依然として初歩的なものである。このほど、医薬品がどのように代謝されるかを理解するために、エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)のMichael Zimmermannら1はヒトの腸内細菌にスポットライトを当て、Nature 2019年6月27日号462ページで報告した。

腸内に生息する細菌の集団、すなわち腸内細菌叢が医薬品に影響を及ぼし得ることが明らかにされている例は、これまでほんの一握りしかない。古典的な例は、広く使われるようになった最初の抗生物質であるプロントジルだ。1930年代に微生物学者Gerhard Domagkは、プロントジルがマウスの化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)感染症に有効であることを発見した2。その後、プロントジルは腸内細菌によって代謝され、抗菌活性を持つ分子であるスルファニルアミドに変換されることが明らかになった3。興味深いことに、もし化膿連鎖球菌に対するプロントジルの抗菌活性を今日のように試験管内で評価していたとしたら、抗生物質を生み出すその能力は見逃されていただろう。

腸内細菌が医薬品に影響を及ぼす別の例として、心疾患の治療に使われているジゴキシンの微生物による不活性化4、中毒性副作用を引き起こす化学療法薬イリノテカンの細菌による修飾5などが挙げられる。今回、Zimmermannらは、腸内細菌叢による医薬品の代謝がどれほど広範に起こっているのかという未解決の問題に取り組むため、大規模なアプローチを考案した。

Zimmermannらはまず、主要な細菌分類群を網羅した68種にわたる76のヒト腸内細菌株について、271種類の医薬品を代謝する能力をin vitroで評価した(図1)。対象とした医薬品の分子構造や効能分類は多種多様である。Zimmermannらは、試験した医薬品のうち176種類が少なくとも1つの細菌株に代謝され、活性分子濃度の有意な低下が見られたと報告している。また、試験したどの細菌株も複数(11~95種類)の医薬品を代謝した。試験が多種多様な医薬品について行われたことを考えると、この結果は注目に値する。なぜなら、医薬品の大半は腸内細菌叢によって代謝される可能性があることを示しているからだ。この種の試験は、腸内細菌叢によって不活性化される可能性が高い医薬品を知るためにも有用な方法となるだろう。

図1 腸内細菌による薬物代謝の研究
a ヒトの腸内細菌による医薬品の代謝がどれほど広範に起こっているのかを調べるために、Zimmermannら1は主要な細菌分類群を網羅した68種にわたる76の細菌株について、多様な構造と機能を持つ271種類の医薬品を代謝する能力を試験した。その結果、試験した医薬品のうち65%が代謝を受けることが明らかになった。これは予想外に高い数値である。一部の医薬品からは複数の代謝産物が生成し、どの細菌も試験した医薬品のうち複数を代謝した。
b 薬物代謝に関与している細菌酵素を同定するために、Zimmermannらは多くの医薬品を代謝した腸内細菌バクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)に注目した。まず、B. テタイオタオミクロンのゲノム断片を単離し、それらをプラスミドと呼ばれる小型の環状DNAに挿入して大腸菌(E. coli)に導入した。操作された大腸菌はB. テタイオタオミクロンのDNAにコードされている酵素などのタンパク質を発現した。これらの大腸菌を試験した医薬品の1つであるジルチアゼムに曝露させると、一部の大腸菌はジルチアゼムを代謝しなかったが、ジルチアゼムを代謝した大腸菌の解析から、代謝に関与しているB. テタイオタオミクロンの酵素を同定することができた。 | 拡大する

次にZimmermannらは、代謝された176種類の医薬品の代謝産物を質量分析法で解析した。その結果、これらの医薬品に由来する868種類の分子が明らかになった。この数は、腸内細菌による代謝によって、一部の医薬品からは複数の代謝産物が生成し得ることを示している。また、生じた多様な化学修飾の種類(酸化、還元、アセチル化〔C2H3O基の付加〕など)も明らかにした。医薬品に対するこの予想外に多様な修飾の全貌解明までには、もちろん、まだしばらく時間がかかるだろう。Zimmermannらは差し当たり、いくつかのケースを選んで薬物代謝の詳細を検討し、報告している。

さらに薬物代謝に関与している細菌酵素を同定するために、Zimmermannらは腸内細菌バクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)をピックアップして詳細に検討した。B. テタイオタオミクロンは、試験した医薬品のうち46種類という多くの医薬品を代謝した細菌である。Zimmermannらは、B. テタイオタオミクロンが高血圧の治療薬ジルチアゼムをどのように代謝するかを調べた。まず、B. テタイオタオミクロンのゲノム塩基配列の一部を発現するように大腸菌(Escherichia coli)を操作し、大腸菌がジルチアゼムを代謝できるかどうかを試験した。その結果、ジルチアゼムの代謝にはB. テタイオタオミクロンのbt4096遺伝子が必要であることが分かった。

これを裏付けるために、ZimmermannらはB. テタイオタオミクロンを操作してbt4096を欠損させた菌株を作製し、欠損型または野生型B. テタイオタオミクロンのいずれかを無菌マウスに感染させた後、全てのマウスにジルチアゼムを投与した。これにより、bt4096がジルチアゼムを代謝する酵素をコードしていることが確認できた。同様のアプローチにより、B. テタイオタオミクロンが修飾できる医薬品のうち18種類について、その代謝に必要な遺伝子が同定された。

このような戦略により、臨床で使用されている医薬品や開発中の治療用分子を代謝できる腸内細菌酵素の同定が、一般に可能となるはずである。そうした情報はまた、治験薬の臨床試験の際に、薬物を不活性化させやすい腸内細菌を被験者が保有しているかどうかを調べる場合にも有用だろう。

Zimmermannらの研究は、体内の薬物動態に関する我々の理解を大きく進めるものである。そして薬物代謝に対する微生物の影響を研究する新興領域において、今後の研究の出発点ともなるだろう。しかし、せっかちな読者はすでにお気付きかと思うが、この研究の着眼点と規模は見事なものだとはいえ、多くの疑問点が残されている。考慮すべき問題の1つは、多くの医薬品が経口ではなく注射によって投与されており、腸内細菌に接触するとは考えられないということだ(注射剤の中には、腸に入ってから血流中に再吸収されるものもあるが)。ただ、一般的に医薬品は経口投与が好まれる傾向があり、経口投与を促進する先進的な手法も開発されつつある6,7。そのうち、注射剤の使用から経口投与への大規模な移行が起こるかもしれない。そうなったら、薬物代謝における腸内細菌叢の役割の理解は、今にも増して喫緊の課題となってくるわけだ。

細菌叢が人体に影響を及ぼす機構のリストは増えつつあるが、今回、そこに腸内細菌による薬物代謝が付け加わることになる。腸内細菌叢にはかなり大きな個人差が認められ、それがおそらく薬物代謝の個人差にも関係している。さらに、腸内細菌叢の組成は食事によって大きな影響を受ける可能性がある8。食事は、腸内細菌叢に影響を与えることで、医薬品の効果にも影響を及ぼすだろうか? このような問題は、個別化医療を行うに当たって患者の細菌叢を考慮することの複雑さを際立たせている。この分野が向かう先はおそらく、患者の腸内細菌叢の薬物代謝に対する個別アプローチをはじめ、細菌叢を目的に応じて適応させることだろう。

(翻訳:藤山与一)

Kim Lewisはノースイースタン大学(米国マサチューセッツ州ボストン)に所属、Philip Strandwitzはホロビオーム社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)に所属。

参考文献

  1. Zimmermann, M. et al. Nature 570, 462–467 (2019).
  2. Domagk, G. Dtsch. Med. Wochenschr. 61, 250–253 (1935).
  3. Tréfouël, J. et al. C. R. Soc. Biol. 120, 756–758 (1935).
  4. Haiser, H. J. et al. Science 341, 295–298 (2013).
  5. Guthrie, L. et al. NPJ Biofilms Microbiomes 3, 27 (2017).
  6. Abramson, A. et al. Science 363, 611–615 (2019).
  7. Banerjee, A. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 115, 7296–7301 (2018).
  8. David, L. A. et al. Nature 505, 559–563 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度