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欧州研究会議ブルギニョン議長来日!

―― 今回の来日の目的は?

ジャン・ピエール・ブルギニョン議長

ブルギニョン: Horizon2020について日本の研究者に説明するのと、2021年から始まる後継計画「 Horizon Europe(ホライズン・ヨーロッパ)」の紹介が目的。Horizon2020はフレームワークプログラム(FP)7の後継で、2014~2020年の7年間で総額750億ユーロ(約9.2兆円、当初は800億ユーロ)の予算を投じ、科学研究基盤の強化、産業への応用、社会問題の解決を3本柱に据えている。

―― ERCの役割と助成の内容は?

ブルギニョン: ERCは、Horizon2020の一部を担う。2007年の創立以来、EU加盟国を含め78カ国の9000人のPI(研究主宰者)に助成し、4万人を超える科学者が参画。10万件の論文を発表し、1000以上の特許を取得。多くの企業がこの枠組みから育っている。引用回数が上位1%の重要論文も5500を超え、助成した研究者にはノーベル賞受賞者が6人いる。

若い博士研究者対象の「Starting Grants」[助成金は5年間で最大150万ユーロ(約1.9億円)]、中堅の「Consolidator Grants」[同5年間で最大200万ユーロ(約2.5億円)]、過去10年間に画期的な業績を上げた研究者の「Advanced Grants」[同5年間で最大250万ユーロ(約3.1億円)]がある。助成したPIの3分の2は、40歳以下だ。

世界に開かれていることが特色で、ERCの発足以来、EU以外の国への助成も全体の8%超の730人に達する。新しい助成として「Synergy Grants」が始まる。これは分野の異なる2~4人のPIとそのチームを対象に、6年間で最大1000万ユーロ(約12億円)を支援する。文字通り、異分野の知恵を融合させた相乗効果でブレークスルーを実現しようというものだ。もちろん日本のPIにも門戸は開かれている。

―― 日本人研究者への助成は?

ブルギニョン: ERCは、FP7とHorizon2020を合わせて32人の日本人研究者に助成した。半年以上の欧州滞在などが条件で、大半は若手。生命科学分野が最も多く19人、物理・工学10人、社会・行動科学3人の順。アメリカの約300人、カナダ84人、ロシア、インド52人、中国38人に比べると少ないが、素粒子分野をはじめ欧州に滞在する日本人は多い。2019年3月時点で、日本からは104の大学・研究機関が、117のプロジェクトに参加している。日本とは連携の実施取極を、2015年に日本学術振興会(JSPS)、2018年に日本科学技術機構(JST)と交わし、交流が深まっている。今回のシンポジウムもJSPSとJSTとの共催だ。

―― 最近、日本人の若手は海外に行きたがらないが。

ブルギニョン: 日本人は控えめで、海外まで行かなくてもいいと思っているのだろうが、異質な所で揉まれてもいいと思う。もっと野心的になれと言いたい。欧州の若手は、大学の単位互換制度などもあり自国以外で研究や教育を受けることが多い。若い人は自信を持って、自分の信じる道を進んでほしい。

―― Horizon Europeはどんなものに?

ブルギニョン: Horizon 2020より野心的で、ボトムアップな内容となる。EUの政治執行機関である欧州委員会(EC)の予算決定は今秋になるが、一部は承認された。イノベーションにつながる研究、安全保障研究の強化もうたわれている。英国のEU離脱(BREXIT)によって、27カ国で1000億ユーロ(約12兆円)の予算が提唱されるが、BREXITの行方も予断を許さず、難しい政治交渉が待っている。Horizon Europeは2021年1月から始まる。日本からも積極的な応募を期待する。欧州の多彩な研究者との連携を進めてほしい。

聞き手は玉村 治(サイエンスライター)。

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190815