100万の生物種が絶滅の危機に
地球の生態系の現状に関するこれまでで最も包括的な報告書によると、現在、100万種もの動植物が人間の活動の影響で絶滅の危機に瀕していて、その多くは数十年以内に絶滅するだろうという(2015年3月号「地球上の生物――その現状は?」参照)。
生物種が絶滅する速度は、すでに過去1000万年間の平均の数十~数百倍も速くなっている。研究成果を基に政策提言を行うことを目的として国連により設立された政府間組織「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services:IPBES)」は、動植物の生息地を保全するために思い切った行動に出ないと、絶滅の速度は高まる一方だろうと予想している(2017年2月号「南極海に巨大な海洋保護区」参照)。
2019年5月6日に発表された研究の摘要(go.nature.com/2v4zbn9参照)によると、陸上領域の約75%と海洋領域の約66%が人間の活動によって「著しく変化」させられており、その主な原因は農業であるという。IPBESの報告書は、生物種や生息地の喪失は、地球上の生命にとって気候変動に匹敵する大きな危険になるとしている。
今回の分析は1万5000件近い研究と政府による報告書の知見をまとめたもので、自然科学と社会科学、先住民共同体と伝統的農業共同体からの情報を統合している。生物多様性の大規模な国際評価としては、この報告書は2005年以来のものだ。2019年4月28日から1週間、フランス・パリで開催されたIPBES総会第7回会合には世界132カ国の政府の代表が参加し、報告書を仕上げて承認した。
報告書の編集に協力した国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature:IUCN、スイス・グラン)の主任研究員であるThomas Brooksは、「各国政府が、地球上の生命が直面する危機をごまかすことなく明示する統一した声明を出したことは、これまでありませんでした。今回の報告書の本当の新しさは、この点にあると思います」と言う。
IPBESの委員会は、世界の経済・社会・政治システムの「抜本的な変化」によってこの危機に対処しない限り、生物多様性の大規模な喪失は2050年以降も続くだろうと予測している。
分析結果の完全版は年内に公表されるが、2019年5月に発表された摘要では、生物多様性の喪失と気候変動は切り離せない問題だとしている。温室効果ガスの排出量を大幅に削減しない限り、世界の気温は数十年後には産業革命以前に比べて2℃以上高くなる可能性があり、IPBESはこの閾値を超えると全ての種の約5%が絶滅の危機にさらされると見積もっている(2019年1月号「1.5℃の壁を越えないために人類がなすべきこと」参照)。
2019年5月6日にパリで開かれた記者会見で、IPBES事務局長のAnne Larigauderieは、生物多様性の危機は気候の危機と共に世界が解決すべき課題の最上位に置くべきだと語った。「私たちはもはや、知らなかったと言うことはできません」。
Brooksは、IPBESの報告書が、2020年に中国で開催予定の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で、各国政府が次の10年間の保全目標の交渉を行う際の議題の設定に役立つだろうと期待している。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190809
原文
Humans are driving one million species to extinction- Nature (2019-05-06) | DOI: 10.1038/d41586-019-01448-4
- Jeff Tollefson
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