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電解液の「血液」で泳ぐロボット魚

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190802

原文:Nature (2019-06-19) | doi: 10.1038/d41586-019-01951-8 | Robo-Fish powered by battery ‘blood’

Nick Howe

魚型のソフトロボットに複数の機能を果たす人工の血管系を組み込むことで、長時間にわたる電力供給と稼働が可能になった。

James Pikul

体内を循環する電解質の「ロボット血液」によって、充電することなく長時間テザーなしで泳ぐことのできるロボット魚が作製され、Nature 2019年7月4日号51ページで報告された1。今回開発された、全長約40cmのミノカサゴ型ソフトロボットには、いわゆる従来型の電池は使われていない。代わりに、このロボット魚の内部では、エネルギー貯蔵とひれの動きの制御という2つの機能を兼ね備えた特殊な液体が循環していて、これが長時間の泳ぎを可能にしている。この「ロボット血液」は、電解質の循環により酸化還元反応を進行させて充放電を行う「レドックスフロー電池」に着想を得たもので、より小さな空間により多くのエネルギーを蓄えることで、重くてかさばる電池パックを用いることなく、より長時間の稼働が可能になった。

このロボット魚を作製した研究チームの一員、コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)のロボット研究者Robert Shepherdは、今回のイノベーションによって、人間の介入や指示なしに課題を遂行する完全自律型ロボットの実現に一歩近づいた、と述べている。

ロボットを長時間にわたり自律的に駆動させることは、ロボット工学における主要な課題である。聖アンナ高等師範学校(イタリア・ピサ)のロボット研究者Cecilia Laschiは、「自律型ロボットには、捜索救助活動や深海探査など無数の応用が考えられます」と言う。ただ、その実現には、エネルギー貯蔵問題という大きな障壁が立ちはだかっている。自律型のロボットには、途中で充電を行わずに最後まで任務を遂行できるだけの電力が必要だが、単純に電池パックの追加で対処するとロボットのサイズや重量が大きくなり、それに対応するためにより大きな電力が必要となってしまう。

この問題の解決策としてShepherdらが目を向けたのが、動物の血管系だった。動物の血管系は、酸素や栄養の運搬、老廃物の除去から、内部体温の調節、疾患や感染との闘いにおける補助的役割など実に多様な機能を担っている。従来の機械では、作動油を循環させて目的の部位を動かす油圧装置が使われるが、今回Shepherdらは、この作動油の代わりにレドックスフロー電池の電解液を用い、電力の供給と力学的な駆動を1つのシステムに収めることにした。この「人工血管系」によって、ひれを動かすための2つのポンプと電子機器に電力が供給されると同時に、押し出された電解液の流れによって圧力が伝達され、ロボット魚はテザーなしで泳ぐことができるようになった。

Shepherdらによると、この手法でロボット魚に貯蔵できるエネルギーは、電池と作動油システムを別々に搭載した場合に比べて325%増大するという。また、研究チームは、このロボット魚は充電を行うことなく37時間稼働できると計算している。

Laschiも、今回の人工血管系ロボット魚が完全自律型ロボットの実現に向けた大きな前進であると同意する。「独創性のある、素晴らしいアイデアだと思います」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Aubin, C. A. et al. Nature 571, 51–57 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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