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世界屈指のゲノミクス研究所が動物実験施設閉鎖を発表

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190814

原文:Nature (2019-05-30) | doi: 10.1038/d41586-019-01685-7 | Genomics institute to close world-leading animal facility

Holly Else

サンガー研究所の決定に、一部の科学者から懸念の声が上がっている。

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MAURO FERMARIELLO/SPL/Getty

世界の主要なゲノミクスセンターの1つであるウェルカム・サンガー研究所(英国ヒンクストン。以下、サンガー研究所)は、設立されてから13年になる動物実験施設の閉鎖を決めた。この施設は動物研究に特化していて、世界中の何千人もの遺伝学研究者にマウスを供給している。

2006年に3000万ポンド(約42億円)の費用をかけて創設されたこの動物実験施設では、研究に使われるマウス、ゼブラフィッシュ、ラット、およびカエルを飼育しており、約70人が雇用されている。

サンガー研究所によれば、2019年5月16日に発表された施設閉鎖は、遺伝学研究において、細胞株やオルガノイド(シャーレで成長させることができる三次元的な生物学的構造物)などの動物実験代替法の利用に向けた動きの結果であるという。とは言っても、サンガー研究所の科学者たちが研究しているがんなどの複雑な病気の解明には、生物個体全体の中で遺伝子がどのように相互作用するかを理解することが求められる。施設が閉鎖される遅くとも2022年までは、研究所内の個々の実験室でマウスが使用されるだろう。また彼らは、近くの研究所で何らかのマウス研究を継続する可能性もある。所長のMike Strattonは、「この決定は、研究所の科学的戦略によって推し進められたもの」であり、厳格な審査と協議に基づいて行われたと言う。

サンガー研究所は、ヒトのDNA塩基配列の3分の1を解読したヒトゲノム計画における役割によりその名がよく知られている。この研究所の最も有名な動物研究の取り組みの1つは、マウスゲノムのあらゆる遺伝子を1つずつ「ノックアウトする」プロジェクトの一部であった。

「現在のトレンドは、ヒト生物学の研究にin vitroの系を使うことであり、そちらへの移行が進んでいます」と、ノッティンガム大学(英国)の発生生物学者Ramiro Alberioは言う。彼は、閉鎖のニュースを聞いても驚かなかった。

しかし、一部の科学者たちからは、サンガー研究所が動物実験を縮小させることは時期尚早ではないか、そしてこうした動きは、同研究所が有する最先端の科学研究を行う能力を低減させるのではないか、という懸念の声が上がっている。現段階では、最先端研究は疾患の動物モデルを使った実験に依存しているからだ。

閉鎖は、「大きな後戻り」であり、10年あるいは20年早過ぎると、研究に動物を使っているホワイトヘッド生物医学研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のがん生物学者Robert Weinbergは言う。科学者は、がんなどの疾患に関して知れば知るほど、ゲノム解析だけで全ての答えが得られるわけではないことをますます強く実感するようになると、彼は言う。マウスは複雑な組織を研究するのに特に有用だ。「マウス・モデルは置き換え可能なものではなく、複雑なデータセットがあるからといって不要になることはありません」と彼は言う。

サンガー研究所の動物施設は世界で最良の施設の1つだと、トロント小児病院(カナダ)の分子遺伝学者Monica Justiceは言う。サンガー研究所の動物施設は、マウスの遺伝子の働きを解明するのを助けるために立ち上げられた。こうした研究は「機能ゲノミクス」と呼ばれ、この分野の多くのマウスプログラムが今、成果を上げて終わろうとしているとJusticeは述べる。しかし彼女は、他の研究所ではマウス研究の拡張が進められていると言う。マウス・モデルは、例えば前臨床研究などでますます利用が増えているからだ。

(翻訳:古川奈々子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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