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デニソワ人化石をチベットで発見

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190806

原文:Nature (2019-05-02) | doi: 10.1038/d41586-019-01395-0 | Biggest Denisovan fossil yet spills ancient human’s secrets

Matthew Warren

チベットで見つかった下顎骨はデニソワ人のものであることが、タンパク質解析だけで確認できた。今回の発見で、デニソワ人がシベリア以外にも広く分布していたことが裏付けられた。

標高3000mを超えるチベット高原で発見されたデニソワ人の下顎骨。 | 拡大する

DONGJU ZHANG, LANZHOU UNIV.

デニソワ人として知られる謎の古代ヒト族集団の骨として、史上最も完全に近いものがチベット高原の高地で発見された。年代が16万年以上前と測定されたその下顎骨は、シベリアの洞窟以外の場所で発見された最初のデニソワ人標本となっただけでなく、デニソワ人は化石記録から推測される以上に広く分布していたのではないかという仮説を裏付けるものとなった。

今回の研究は、タンパク質解析のみに基づいて古代人が同定された最初の例となった。解析可能なDNAが試料中に存在しなかったため、この標本の歯に含まれるタンパク質が分析されたのだ。この手法を用いれば、DNAが保存されていない化石でも同定されるものが増えるのではないかという期待が出てきた。

「これは素晴らしい成果です。調べる場所が正しかったことが示されたのです」。マックス・プランク人類史科学研究所(ドイツ・イェーナ)の考古学者Katerina Doukaはこう語る。Doukaは今回の研究には関与していない。

これまでデニソワ人については、ロシア・アルタイ山脈のデニソワ洞窟から出土したわずかな歯や骨の断片から分かったことが全てだった。しかし、別の場所でデニソワ人の痕跡が発見されるのは時間の問題だと考える研究者は多かった。アジアやオセアニアの現代人の中にはデニソワ人のDNAの痕跡を持つ人がおり、デニソワ人がシベリアから遠く離れた地に住んでいた可能性が指摘されていたのだ。また、中国で発見された未分類のヒト族化石がデニソワ人かもしれない、と考える研究者もいた(2016年10月号「忘れられた大陸」参照)。

Nature 2019年5月16日号で発表された今回の化石1は、下顎骨の片割れであり、完全な歯が2本付属している。1980年に中国・白石崖鍾乳洞で僧によって発見され、蘭州大学に譲渡された。しかし、考古学者の張東菊(Dongju Zhang)らがその骨を調べ始めたのは、2010年代に入ってからのことだった。

研究チームは、ある問題に直面した。デニソワ洞窟で見つかった骨が全て同定できたのは、ある程度のDNAがその骨に残っていたからだ。DNAがあれば、他の古代人の遺伝子配列と比較することができる。しかし、今回の下顎骨にはDNAが残されていなかった。

そこで研究チームは、DNAの代わりに古代のタンパク質を探った。タンパク質はDNAよりも長く残る傾向がある(2014年3月号および4月号「リンネのゾウ標本をめぐる物語」参照)。その結果、研究に適したコラーゲンタンパク質が歯の象牙質から見つかった。このタンパク質を、デニソワ人やネアンデルタール人、大型類人猿において対応するタンパク質と比較したところ、デニソワ人試料の最も近くに位置付けられることが明らかになった。

これ以前にも、タンパク質とDNAの両方を使ってネアンデルタール人の骨を同定した研究が行われている2(2018年11月号「古代人類の混血第一世代を確認」参照)。しかし、自然史博物館(英国ロンドン)の古人類学者Chris Stringerによれば、今回の研究の成功により、DNAが得られていない化石からの古代タンパク質の回収がさらに注目されるようになるかもしれないという。例えば、さらに古い試料や、DNAが極めて高速で分解される高温地方の試料で、特に有用になると考えられる。

世界の屋根

研究者たちを驚かせたのは、新たに見つかったデニソワ人居住地の標高が海抜3280mであったことだ。「古代人がそんな高地にいたなんて驚きです」とStringerは話す。そしてこの事実は、現代チベット人に対するデニソワ人の遺伝的寄与の謎を解明するのに役立つ。

一部のチベット人は、EPAS1と呼ばれる遺伝子に関してあるバリアント(多様体)を有している。このバリアントがある人は、酸素運搬タンパク質であるヘモグロビンの血中量が低く抑えられていて、低酸素の高地でも生きられる。彼らが高地での生活に適応できたのはデニソワ人由来のバリアントのおかげかもしれないと、ある研究チーム3は考えていた(2015年10月号「現代人の体質や病にネアンデルタールDNAの影」参照)。だが、デニソワ洞窟の標高は700mと比較的低かったため、この仮説を説明することが難しかった。今回の論文の共著者であるコペンハーゲン大学(デンマーク)の分子人類学者Frido Welkerによれば、この研究結果は、デニソワ人がその適応をチベット高原で進化させ、今から約4万~3万年前にこの地にやってきたホモ・サピエンスにそれを伝えたことを示唆しているという。

アジアのデニソワ人が高地に適応していたとすれば、似たような場所にその骨がもっと眠っている可能性がある。そして、今回の下顎骨は、他の古代人骨についても分類の見直しを促しそうだ。トロント大学(カナダ)の古人類学者Bence Violaは、「化石記録を調べていけば、デニソワ人と結び付けられる標本が増えてくるのではないでしょうか」と話す。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Chen, F. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-019-1139-x (2019).
  2. Welker, F. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 11162–11167 (2016).
  3. Huerta-Sánchez, E. et al. Nature 512, 194–197 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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