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タンパク質でできたアルキメデスの立体

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190833

原文:Nature (2019-05-16) | doi: 10.1038/d41586-019-01407-z | Protein assembles into Archimedean geometry

Todd O. Yeates

天然のタンパク質を改変して金属と相互作用させることで、生体分子では前例のない特異な構造を持つケージ状集合体が作製された。

タンパク質を構成要素とするナノスケール材料の設計は今、幾何学やコンピューター科学、分子生物学から得られた数々のアイデアによって黄金時代を迎えつつある1。天然に存在する細胞やウイルスの構造からは、タンパク質分子から多様な構造が形成できることは明らかで、望みの形状に作り上げた「デザイナー」タンパク質で実現し得るさまざまな技術的応用も示唆されている2。そんな中、大阪大学の岩崎憲治(現 筑波大学所属)とヤゲロニアン大学(ポーランド・クラクフ)および理化学研究所のJonathan Heddleらの研究チーム3は今回、前例のない特異な構造と特性を持つタンパク質ケージを自己集合により作製し、Nature 2019年5月16日号438ページで報告した。計264個のタンパク質サブユニットからなるこの集合体は、11個のサブユニットで形成される24のリングが、計120個の金原子でつなぎ留められており、幾何学的には「アルキメデスの変形立方体」4に属する他、化学的および熱的に極めて安定だが還元剤の存在下で容易に解離するという可逆的特性を有する点で非常に興味深い。

タンパク質を用いて幾何学的な構造を作製する取り組みではこれまで、対称な三次元形状に重点が置かれてきた。特に、「プラトンの立体」4と呼ばれる正多面体(正四面体、立方体、正二十面体など)は、その形状の単純さ故に一連の設計戦略における目標であった5。プラトンの立体は、構成要素となるタンパク質サブユニットが集合体の中でそれぞれ同一の空間的位置を占めるように配置することで実現できる。

例えば、立方体(正六面体)は、タンパク質の三量体(同一のタンパク質サブユニット3個からなる複合体)から作られる6–8。この構造では、各三量体が立方体の角を占めており、全体では8個の三量体が必要となる(図1a)。このとき、三量体中の各サブユニットは立方体の各辺上で、隣り合う三量体中のサブユニットの1つと接触しており、これらのサブユニット間相互作用が集合体を1つにまとめる働きをしている。

図1「プラトンの立体」および「アルキメデスの立体」に属するタンパク質集合体
a 代表的なプラトンの立体である立方体は、タンパク質の三量体を立方体の各頂点に配置することで作れる。立方体の双対(頂点と面を入れ替えた立体)は正八面体である。
b 岩崎ら3は今回、細菌由来のリング状タンパク質(11個の同一サブユニットからなる十一量体)を構成要素として、アルキメデスの立体である変形立方体を作製した。変形立方体の双対は五角二十四面体である。 | 拡大する

これまでに、プラトンの立体によって具現化される3種類の対称性全て(正四面体群、正八面体群、正二十面体群)が、タンパク質から組み立てられている6–9。しかし、プラトンの立体は5種類しかないため、作製可能な構造が限られる上、構成要素として使えるタンパク質の形状も制限されてしまう。では、プラトンの立体の形成に向かない形状のタンパク質を使った場合、どのような形状の集合体ができるのだろうか。この疑問に対しては2014年、膜タンパク質から多面体が作製され、数々の特異な構造の実現可能性を示す証拠が得られていた10

今回、岩崎らが作製したタンパク質集合体は、細菌由来のTRAPと呼ばれるタンパク質を出発物質としている。TRAPは、11個の同一サブユニットがリング状に連なった十一量体である。研究チームは、TRAPの塩基配列を改変し、側鎖にチオール(SH)基を持つシステインというアミノ酸残基を導入することで、十一量体リングの外縁に11個のチオール基が等間隔で並ぶようにした。チオール基は金属と結合できるため、金属が存在すれば、導入したチオール基を通して複数のTRAP変異体を集合させ、より大型の構造を形成することができる。

実際、岩崎らが、チオール基で覆われたTRAPを金(または水銀)の供給源と混ぜ合わせたところ、それらが自己集合してケージ状構造を形成することが確認された。11回対称であるTRAPがプラトンの立体の組み立てに向かないことは明白だったが、金属を介する相互作用には柔軟性と可逆性があるため、別のタイプの構造が形成される可能性は大いにあった11。研究チームは早速、得られた集合体の構造解析に挑み、最終的にクライオ電子顕微鏡法を用いることで原子レベルでの可視化に成功した。

明らかになった構造は、分子系ではまさに前例のないものだった。24のTRAP変異体リングからなるそのケージ状集合体は、各リングが5つのリングと金原子の「ホチキス」でつなぎ留められており、幾何学的には「アルキメデスの立体」4に属する「変形立方体」という非常に特異な形状をしていたのである。プラトンの立体では全ての頂点が等価(頂点形状が合同)で全ての面も合同であるのに対し、アルキメデスの立体では全ての頂点は等価だが、面は2種類以上の正多角形からなる。

変形立方体では、各頂点から他の頂点へと延びる辺同士がなす角は、プラトンの立体のように全てが同じではなく、5つの角のうち1つは他よりも大きい(図1b)。今回のタンパク質集合体では偶然にも、これらの辺は、TRAP変異体リングでチオール基が形成する十一角形において中心から各辺へと延びる「車輪のスポーク」状の線の約半数(11本のうち5本)と、うまく一致していた。つまり、リングの中心が変形立方体の24の頂点に合うようにそれぞれ配置して互いに接触させると、60の辺ができ、ちょうど変形立方体の双対(頂点と面を入れ替えた立体)である五角二十四面体になる。

この構造では、各リングの11個あるチオール基のうち10個だけが金原子のホチキスで留められており、残る1個は相互作用せずに正方形の空間に向いている。この特徴は、集合体の形成に金属を用いた結果として生じたものだ。つまり、今回の戦略では「結合が可能でも実際には金属と相互作用しない」ことが許容されている。これは、タンパク質のサブユニット同士を直接相互作用させる手法6とは対照的だ。そうした手法では、サブユニット間の相互作用を媒介する疎水性表面は、「相互作用しない」ことが許されないために、乱雑に凝集することがある。

今回の集合体ではまた、各リングを構成する11個のサブユニットはそれぞれ異なる空間的位置を占め、隣接するリングと異なる様式で連結しているため、系の対称性は破れている。こうした対称性の破れは、多くのウイルスキャプシド(ウイルスゲノムを取り囲むタンパク質の殻)の構造の特徴でもある。多様なウイルスキャプシドは、単純な正二十面体が、例えばそれを構成する三角形をより小さく分割することなどによってさらに複雑化した系として捉えられる12。そうした系では、表面に多数のタンパク質サブユニットを並べられるため、サブユニット間の角度の違いやそれらが占める位置の違いはわずかである。こうした「準等価性」12故に、キャプシドではサブユニット間の相互作用が途切れることなく全体的に維持され、結果として本質的に立体の殻が形成される。

これに対し、岩崎らのタンパク質集合体では、一部のチオール基が相互作用しないことで系の対称性が破られている。その結果、形成されたアルキメデスの立体には大きな穴が開いており(図1b)、構造的には殻というよりケージに近い。興味深いことにこうした穴は、準等価性から外れた大型人工タンパク質の殻でも観察されていた13

岩崎らの今回の発見は、「自然界ではなぜ(我々の知る限りではあるが)、アルキメデスの立体形状をしたタンパク質構造が進化しなかったのか」という疑問への答えを暗示してもいる。ウイルスで何度も進化してきた準等価性の正二十面体とは対照的に、こうしたアルキメデスの立体では開口部の形成が不可避なため、中に物を収める「容器」としてはあまり適切でなかったのかもしれない。

岩崎らはさらに、この特異な構造を持つタンパク質集合体の安定性についても調べ、この集合体は高温やタンパク質変性剤への曝露、pHの変化に対しては極めて安定だが、還元剤がわずかでも存在すると容易に解離する、という興味深い可逆性を見いだしている。これを利用すれば、タンパク質ケージの自己集合と解離を制御して、薬剤の送達などに応用できる可能性がある。

今回の成果は、セレンディピティ(偶然の発見)的なものだが、今後の研究では、別のタンパク質サブユニットを構成要素として、同様の結果が予想通りに得られるかどうかについて取り組む必要がある。実はその手掛かりもまた、岩崎らによってすでに示されている。彼らはコンピューターモデルを用いて、七角形、十角形、十六角形の「リング」を用いれば、立方八面体などの特異なアルキメデスの立体の数々を形成できると予測しているのだ。これらの構造を実際に組み立てることができれば、タンパク質集合体設計の分野において、また1つエキサイティングな進歩となるだろう。

(翻訳:藤野正美)

Todd O. Yeatesは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)に所属。

参考文献

  1. Yeates, T. O. Annu. Rev. Biophys. 46, 23–42 (2017).
  2. Aumiller, W. M., Uchida, M. & Douglas, T. Chem. Soc. Rev. 47, 3433–3469 (2018).
  3. Malay, A. D. et al. Nature 569, 438–442 (2019).
  4. Holden, A. Shapes, Space, and Symmetry (Columbia Univ. Press, 1971).
  5. Padilla, J. E., Colovos, C. & Yeates, T. O. Proc. Natl Acad. Sci. USA 98, 2217–2221 (2001).
  6. King, N. P. et al. Science 336, 1171–1174 (2012).
  7. Lai, Y.-T. et al. Nature Chem. 6, 1065–1071 (2014).
  8. Sciore, A. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, 8681–8686 (2016).
  9. Bale, J. B. et al. Science 353, 389–394 (2016).
  10. Basta, T. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 111, 670–674 (2014).
  11. Salgado, E. N., Radford, R. J. & Tezcan, F. A. Acc. Chem. Res. 43, 661–672 (2010).
  12. Caspar, D. L. & Klug, A. Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 27, 1–24 (1962).
  13. Sasaki, E. et al. Nature Commun. 8, 14663 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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