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コドンを修正した大腸菌ゲノムの全合成

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190831

原文:Nature (2019-05-23) | doi: 10.1038/d41586-019-01584-x | Construction of an Escherichia coli genome with fewer codons sets records

Benjamin A. Blount & Tom Ellis

アミノ酸をコードするコドンの種類を通常より少なくした、これまでで最大の合成ゲノムが作製された。この成果により、非天然のアミノ酸残基を含むタンパク質をゲノムにコードできる可能性が高まった。

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A.B. DOWSETT/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library / Getty Images Plus/Getty

過去10年間で、DNA化学合成のコストが低下し、またDNA断片をアセンブリーする方法が改良されたことで、合成生物学の技術は全染色体や全ゲノムを作製できるレベルにまで高まった。これまでのところ、合成DNAは最大100万塩基対まで構築されていて、出芽酵母の1つの染色体セットや、細菌であるMycoplasma mycoidesのいくつかの改変ゲノムが合成されている1,2(2014年6月号「酵母の染色体1本を人工合成することに成功」、2016年6月号「遺伝子を限界まで削ぎ落とした人工生命」および2019年2月号「生命を1から組み立てる」参照)。このほど、大腸菌の400万塩基対からなる合成ゲノムの作製が完了したことを、MRC分子生物学研究所(英国)のJulius FredensらがNature 2019年5月23日号514ページで報告した3。これは、合成ゲノミクスという新興分野における画期的な成果であり、ついに、合成生物学の手法を、大腸菌——研究に最も貢献している細菌——に適用したのだ。

合成ゲノミクスは生命の法則を理解するための新しい方法となり、そして合成生物学は設計した情報をゲノムに書き込める未来に向かっている。この分野の先駆者である、J・クレイグ・ベンダー研究所(米国メリーランド州ロックビル)の研究者らは、合成生物学の手法を用いて、自由生活性の細胞に必要な最小限の遺伝子セットを特定した。彼らは、コンピューターによりゲノムの一部の領域を再設計し、それらの断片を化学合成して組み立てるといった手法を採用することで、M. mycoidesのゲノムサイズを約50%まで縮小することに成功した2。一方、大腸菌を用いた過去の研究から、ゲノム編集ツールのみを用いて同様の縮小を行うことははるかに骨の折れる作業だと考えられる。実際、遺伝子欠失法では最大でもゲノムの15%しか除去されないことが実証されている4

Fredensらは、ゲノムを縮小させ最小化する別の手法として、コドンの削減を考え、この大腸菌の縮小ゲノムを合成ゲノムの鋳型に用いた。遺伝暗号には固有の冗長性があり、64通りのコドン(塩基3つを1組とするトリプレット)に、20種類のアミノ酸と、タンパク質をコードする一連の塩基配列の始まりを示す開始点および終わりを示す終止点がコードされている。冗長性とは例えば、アミノ酸のセリンをコードするコドンは6通りあり、可能な終止コドンは3通りある、などということを意味している。Fredensら3は、大腸菌ゲノムを設計し、合成し、組み立てて、64通りのコドンのうち61通りのみを用いてゲノムを構築することができた。これは、2通りのセリンコドンと1通りの終止コドンを同義コドン(トリプレットの塩基は異なるが同じ指示を与える)に置き換えることで達成された。ゲノム編集ツールを使った過去の研究で、すでに63通りのみを用いて合成大腸菌が作製されている。しかしこの場合、終止コドンのTAG(ゲノムに321カ所しか存在しない)が置き換えられただけだった5。61通りに減らすには、1万8214カ所という膨大な数のコドンを変化させなければならず、ゲノム合成の手法が必要となる。

Fredensらは、大腸菌におけるコドン変化の限界を調べるのに開発してきた大規模なDNAアセンブリー法やゲノムインテグレーション法6を用いて、合成大腸菌ゲノムを構築した。この手法(図1c)では、まずDNAはコンピューターで設計され、化学的に合成された後、出芽酵母内で100キロ塩基の断片としてベクター中に組み立てられた。次にこれらのベクターを大腸菌に取り込ませ、天然ゲノム内の同等の場所に直接組み込んだ。この過程を5回繰り返し、500キロ塩基の天然DNA部分を合成DNAに置き換えた。この方法で8株の大腸菌を作製したが、各株は異なるゲノム領域に合成DNA部分を保有していた。次に、これらの大腸菌株を接合させて合成DNA部分を連結し、完全な合成ゲノムを作製した。

この大規模なDNA構築は、困難ではあったが、オフターゲット変異率が非常に低く、見事に成功した。大腸菌ゲノムの多くの遺伝子は、部分的に他の遺伝子と重なっており、91カ所の重複領域に、変化させる必要のあるコドンが含まれていた。これは複雑な状況である。なぜなら、1つの遺伝子のタンパク質コーディング配列としては同義変化であっても、別の遺伝子にとっては重なっている配列にコードされるアミノ酸が変化してしまう可能性があるからだ。Fredensらは、この問題に取り組むために、ゲノムの79カ所で「リファクタリング」を行った。これは、重なっている領域の塩基配列を2つに複製してから、その部分を別々に再配列して分離する方法である(図1b)。リファクタリングは大筋では成功したが、遺伝子調節が変化する場合もわずかにあったため、慎重なデバッグ作業が必要であった。

図1 再コードされたゲノムの設計と構築
a Fredensら3は、大腸菌(Escherichia coli)のゲノムにおいて、3通りのトリプレット(3つ1組の塩基、これが1つの符号、すなわちコドンとなる)を同一の機能を持つ別のコドンに再コードした。具体的には、アミノ酸のセリンをコードするTCGとTCAをそれぞれAGCとAGT、タンパク質コーディング配列の終わりを示す終止コドンであるTAGをTAAに再コードした。
b ゲノムのいくつかの位置では、オープンリーディングフレーム(ORF;タンパク質コーディング領域)が重なっていて、1つのORFのコドンを変化させると、重なっているORFに望まない変化を生じさせることがある。Fredensらは、ORF1とORF2(左側の2つのORFは同方向に読み取られる。右側の2つのORFは逆方向に読み取られる)を「リファクタリング」することで分離した。
c 再設計されたDNAを合成し、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)内で100キロ塩基のDNA部分に組み立てた。次にこのDNA部分を結合させてDNA領域にし、大腸菌ゲノムに組み込んだ。DNA領域はまとめて完全な機能的合成ゲノムに構築された。 | 拡大する

最終的に得られた株は生存可能であることが証明され、典型的なさまざまな実験室条件で、対応する天然株よりもやや遅いが増殖することができた。この大腸菌株では、終止コドンTAGも、2通りのセリンコドンTCGとTCAも、もはや使用されていない。従って、これらのコドンを認識する細胞機構を利用すれば、ゲノムを欠失させることや、ほとんどの生細胞が使用する通常の20種類のアミノ酸とは異なる「非カノニカル(非標準)」なアミノ酸を誘導するのに、再度コドンとして割り当てることができる。このような非カノニカルなアミノ酸の誘導は、すでに63通りのコドンを用いる合成大腸菌で、バイオテクノロジーにとっても、バイオセーフティーという観点からも有用であることが示されている。というのも、バイオテクノロジーのプロジェクトでは、目的の位置の配列に非カノニカルなアミノ酸をコードさせることで、天然タンパク質では不可能な化学反応に関与できる残基を提供できるからである。また、バイオセーフティーという点では、このような合成大腸菌は、自然界の生物とわずかに異なる遺伝暗号で機能しているので5、自然界のDNAにコードされた情報を合成大腸菌が取り込んだり、反対に、合成大腸菌の情報が自然界に流出したりすることは限られているからだ。これらは全て、61通りのコドンを用いる新しい合成大腸菌に拡大適用される予定である。この大腸菌には、最大3つの非カノニカルアミノ酸を使用したタンパク質をコードしたり、(64通りのコドンのうちの3通りが認識されないので)より厳密な遺伝的ファイアウォールを作り出せたりする可能性がある。

400万塩基対からなるゲノムの合成と遺伝暗号を61通りのコドンに削減できたことは、合成ゲノミクスの新記録であるが、この記録はそれほど待たずに塗り替えられるかもしれない。国際Sc2.0コンソーシアムは、出芽酵母の全16本の染色体、1200万塩基対のゲノムの合成に近づいている。これは、真核生物の最初の合成ゲノムとなる。また、57通りのコドンだけを用いる大腸菌ゲノムの合成も進行中である1,7。ネズミチフス菌では、天然より2つ少ないコドンを使用するゲノムも構築されている8。将来的には、合成ゲノムを持つ細菌が細胞ベースの技術として、ヒトの腸で使用できるかもしれない。

技術的な観点から見ると、これら異なるプロジェクト全てで最も興味深いのは、合成ゲノム構築のワークフローが非常に類似していることである。つまり、キロ塩基の合成DNA断片を酵母細胞中で50~100キロ塩基のDNA部分に組み立て(相同組換えの過程)、次に、標的とする生物内の天然の塩基配列をこれらのDNA部分に置換する(選択可能な組換え法)ことだ。方法を標準化することで、段階の自動化が可能になり、より多くの研究グループがこの分野に参入できるようになると考えられる。ゲノムの最小化とコドンの削減は、この新しい技術使用のほんの始まりである。いずれは、機能的に再編成されたゲノムや、細胞に特殊な機能の実行を指示するよう特注設計されたゲノムが実現可能になると考えられる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Benjamin A. Blountはロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)、 Tom Ellisはロンドン大学インペリアルカレッジおよび ウェルカムトラスト・サンガー研究所(英国)に所属

参考文献

  1. Richardson, S. M. et al. Science 355, 1040–1044 (2017).
  2. Hutchison, C. A. III et al. Science 351, aad6253 (2016).
  3. Fredens, J. et al. Nature 569, 514–518 (2019).
  4. Pósfai, G. et al. Science 312, 1044–1046 (2006).
  5. Lajoie, M. J. et al. Science 342, 357–360 (2013).
  6. Wang, K. et al. Nature 539, 59–64 (2016).
  7. Ostrov, N. et al. Science 353, 819–822 (2016).
  8. Lau, Y. H. et al. Nucleic Acids Res. 45, 6971–6980 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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