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グーグル出資の研究で常温核融合は見いだせず

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190807

原文:Nature (2019-05-27) | doi: 10.1038/d41586-019-01683-9 | Google revives controversial cold-fusion experiments

Elizabeth Gibney

常温核融合を検証する研究にグーグル社が出資し、実験が行われてきたが、核融合が起こっているという証拠は見いだされなかった。

常温核融合を見いだしたと1989年に主張した米国の化学者Martin Fleischmann(左)。右は米下院議員(1989年当時)のMarilyn Lloyd。 | 拡大する

MARGOT INGOLDSBY/AP/SHUTTERSTOCK

常温核融合の検証実験にIT大手のグーグル社(本社・米国カリフォルニア州マウンテンビュー)が2015年から出資し、カナダや米国の大学の研究者らによって実験が行われてきたが、核融合の証拠は見いだせず、その総合報告がNature 2019年6月6日号に掲載された。研究チームは、今回の研究は測定技術や材料科学の進展に貢献し、今後のエネルギー関連技術の研究に役立つはずとしている。

核融合は太陽のエネルギー源である物理過程だ。常温核融合は、高温を必要とせずに卓上の実験装置で核融合を起こすもので、実現すればエネルギーを安価にほぼ無限に得られる可能性がある。30年前、米国の2人の科学者がこの現象を初めて見いだしたというセンセーショナルな報告をしたものの、彼らの結果はすぐに誤りと結論され、現在ではその話題は科学界のタブーともみなされている。

グーグルは今回、常温核融合の検証プロジェクトに1000万ドル(約11億円)を出資し、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)やマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)などの約30人の研究者からなるチームが実験を行ってきた。研究費の9割以上がグーグル出資金で賄われたという。研究チームは、常温核融合が起こるとされていた3種の実験を行ったが、核融合の証拠は得られなかった。研究結果はこの2年間に12本の論文として公表された。

グーグルの研究プログラムマネジャーであるMatthew Trevithickは「グーグルの研究プロジェクトは、これまで信頼できる科学的データがなかった領域において、常温核融合の可能性を厳密に検証することを目指したものです」と説明する。彼は「この研究は、常温核融合の実現を目指すだけのものではありません。もしも実現だけが目標だったら、この有能な研究チームの興味をこれほど長く維持できなかったでしょう」と話すが、「(もしも核融合が実現した場合に)得られるものが非常に大きいことも確かに、私たちが常温核融合に関心を持った理由の1つです」とも話す。研究チームは、他の研究者たちに常温核融合について再検討を促す効果もあると期待する。

30年前の事件

1989年3月、米国の2人の化学者、Stanley PonsとMartin Fleischmannは、液体の重水[水分子の水素が、水素の同位体であるデューテリウム(重水素)に置き換わったもの]の中でパラジウムを電極にして電流を流すと、余分な熱と核反応生成物、つまり核融合の兆候が得られたと発表した。他の科学者たちはすぐに、彼らの実験に問題点があることを指摘し、また、米国エネルギー省の調査でも核融合の証拠は得られなかった。しかし、常温核融合(現在は一般に低エネルギー核反応と呼ばれる)を実現したと主張する研究者はその後も現れ続けた。

核融合は、太陽内部のような極端な環境でのみ起こると考えられている。太陽内部では、高温により、水素原子核(陽子)が互いの反発力に打ち勝って核融合を起こしてヘリウム原子核を生成し、莫大な量のエネルギーを放出する。太陽よりもずっと低い温度で原子核が融合する確率は、無視できるほど小さいと考えられている。しかし、もしも低温での核融合が可能であれば、地上で核融合を起こすために必要と考えられている莫大なエネルギーや設備が不要になる。

初期の再現実験に関わった、オックスフォード大学(英国)の理論物理学者Frank Closeは、「科学界の主流が常温核融合から距離を置いたのには正当な理由がありました。その現象を誰も再現することはできなかったし、もっとやりがいのある研究テーマが現れたからです」と話す。

グーグルの研究チームは今回、3種の実験を行った。第一の実験では、彼らは核融合を引き起こすのに必要とされていた量のデューテリウムをパラジウムに取り込ませようとした。しかし、高濃度のデューテリウムを含む安定した試料を作ることができなかった。

第二の実験では、パラジウムにデューテリウムイオンのパルスをぶつけた。これは、1990年代に米国の物理学者たちが行った研究の検証実験であり、1990年代の研究では異常なレベルのトリチウム(三重水素。もう1つの重い水素同位体)が得られたとされていた。しかし、研究チームはトリチウムが生成した兆候を見いだせなかった。

第三の実験では、水素が豊富な環境でニッケルなどの金属粉を加熱した。現在の常温核融合の支持者の一部は、このプロセスで未解明の余分な熱が生まれ、核融合が起こった結果であるとしている。研究チームは420回の実験を行い、余分な熱の発生を見いだすことはできなかった。

再検証の意義

しかし、これらの再現実験を行った研究者たちは、パラジウムを使った2つの実験はさらに研究が必要だと話す。トリチウムが得られるとされる実験の効果は、現在の装置で測定するには小さすぎる可能性があるという。また、デューテリウム濃度が非常に高い安定した試料を作れるかもしれず、その濃度では興味深い効果が表れるかもしれないという。

Trevithickは「極端な実験条件下でわずかな余分な熱も検出できる、世界最高の熱量計の開発など、全ての実験が実験方法の進歩に貢献しました」と話す。こうした技術は、常温核融合を実現したとする今後の研究結果の検証に使われるだろう。

しかしCloseは、「あるアイデアを完全に除外できないからといって、そのアイデアを追究する理由にはなりません。もしも、私のお金を投資した研究者が常温核融合の研究を始めたとしたら、私は資金を引き揚げるでしょう」と話す。

ブリティッシュ・コロンビア大学の化学者で、グーグル研究プロジェクトの研究責任者(PI)の1人であるCurtis Berlinguetteは、かつて報告された常温核融合については懐疑的だ。しかし彼は、「この研究を批判する者もいるでしょうが、単に、偏見のために調べられていなかった未開拓の領域を調べたにすぎません。これは、科学者としてはやるべきことなのです」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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