News & Views

なぜ褐色脂肪には多くの神経が分布しているのか

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190828

原文:Nature (2019-05-09) | doi: 10.1038/d41586-019-01278-4 | Why brown fat has a lot of nerve

Rejji Kuruvilla

哺乳動物の褐色脂肪は、熱を発生させることで、蓄積されていたカロリーを燃やす。この過程は、褐色脂肪組織に侵入している神経によって制御される。褐色脂肪の神経分布と熱発生を調節するタンパク質が発見された。

褐色脂肪細胞 | 拡大する

JOSE LUIS CALVO MARTIN & JOSE ENRIQUE GARCIA-MAURIÑO MUZQUIZ/istock/Getty

肥満の劇的な増加によって、糖尿病と心血管疾患が世界的に増えている。哺乳動物では余分なカロリーはトリグリセリド分子として白色脂肪組織(白色脂肪とも呼ばれる)の中に蓄積される。対照的に、褐色脂肪組織(BAT;褐色脂肪)は、適応型の非ふるえ熱産生と呼ばれる過程で脂肪とグルコース分子を燃やして熱を発生させる1。BATの熱産生を活性化することは、肥満治療の戦略候補となり得るため、BATの発生と生理学的特徴を理解することへの関心は高まっている。今回、ダナ・ファーバーがん研究所(米国マサチューセッツ州メドフォード)およびハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)に所属するXing ZengらはNature 5月9日号229ページで、褐色脂肪細胞中に見られるタンパク質のカルシンテニン3β(CLSTN3β)が、増殖因子の1つ(S100bと呼ばれるタンパク質)の分泌を制御することによってBATの神経分布と熱発生の重要な調節因子の1つと働くと報告している2

BAT熱発生の主要な調節因子は交感神経系である3。交感神経系は闘争・逃走反応としてよく知られている、ニューロンとホルモンのストレスに対する応答を仲介する。交感神経は、白色細胞よりもはるかに多くBATに分布していて、ノルアドレナリン分子を放出する。放出されたノルアドレナリンはBAT熱産生細胞(褐色脂肪細胞;図1)上のアドレナリン受容体に結合して活性化させる。活性化したアドレナリン受容体は、ミトコンドリア(エネルギーを発生させる細胞小器官)の生化学的事象を開始させることによって熱を発生させる。これを助けるのが、UCP1(uncoupling protein 1)と呼ばれるミトコンドリアの特殊タンパク質だ。

図1 カルシンテニン3βタンパク質は褐色脂肪の神経分布を調節する
褐色脂肪には交感神経系(闘争・逃走反応を制御する神経系)の神経が非常に多く入り込んでいる。交感神経ニューロンから放出されたノルアドレナリンは、褐色脂肪細胞上のアドレナリン受容体と結合して活性化させる。アドレナリン受容体の活性化は、エネルギーを発生させる細胞小器官、ミトコンドリアでの生化学的過程の引き金となり(図には示されていない)、それによって脂肪細胞は脂質として蓄積されていたカロリーを燃やし、熱を発生させる。Zengら2は、褐色脂肪細胞の小胞体(ER、細胞小器官)で発現するカルシンテニン3β(CLSTN3β)と呼ばれるタンパク質を特定した。彼らは、カルシンテニン3βが増殖因子タンパク質であるS100bの褐色脂肪細胞からの分泌を助けること、そしてS100bはニューロンからの突起の成長を促すことを報告している。 | 拡大する

Zengらは、まず、BATの神経分布を制御する過程を調べることにした。そして、褐色脂肪細胞で産生されたすべてのRNA転写物を解析することによって、これまで特徴が明らかになっていなかった哺乳類特異的な遺伝子、Clstn3bを特定した。この遺伝子は、褐色脂肪細胞で高度かつ選択的に発現している。彼らはまた、Clstn3bの発現が寒冷暴露によってベージュ脂肪でも誘発されることを観察した。ベージュ脂肪は、寒冷などの刺激で熱発生が引き起こされ得る白色脂肪中の脂肪細胞からなる4

ZengらがClstn3bを欠失する「ノックアウト」マウスを遺伝子工学的に作成したところ、驚くことに、それらのマウスは急激な寒冷に応答して、急速に低体温を発症したのである。これは、Clstn3bノックアウトマウスには熱発生に欠陥があることを示唆している。また、これらのマウスは、対応する野生型のマウスよりも体重があって、脂肪沈着が増加していた。さらに、褐色脂肪細胞での酸化活性が低下していて、高脂肪食によって肥満になり血糖値が上がっていた(グルコース不耐性)。逆に、褐色脂肪細胞でClstn3bが過剰発現する遺伝子組換えマウスは、野生型マウスよりも体重が少なく、耐寒性が向上しており、食餌で誘発される肥満とグルコース不耐性に抵抗性であった。総合すると、これらの結果は、Clstn3bはBAT熱発生と全身のエネルギー消費に必要かつ十分であることを示している。

カルシンテニン3βはどのようにBATの機能を制御するのだろうか? Clstn3bノックアウトマウスでは低温感受性が変化しているにもかかわらず、同マウスから単離した褐色脂肪細胞はノルアドレナリンで急性処理すると、通常の呼吸応答(ミトコンドリアの酸素消費量)を示した。また、ノックアウトマウスにアドレナリン受容体活性剤を投与すると全身レベルで同様の結果が得られ、ノルアドレナリン応答機構は障害されていないことが示された。しかし、Zengらは、BATの交感神経分布がClstn3bの発現レベルに影響されることを見つけた。野生型マウスと比べて、Clstn3bノックアウトマウスでは交感神経繊維の密度が低下していたが、Clstn3b過剰発現マウスでは増加していたのだ。

また、カルシンテニン3βが褐色脂肪細胞の小胞体(ER)の膜内にあることも分かった。小胞体は細胞小器官で、内部では多くの分泌タンパク質や膜タンパク質が合成される。では、カルシンテニン3βはどのようにBATの神経分布に影響を及ぼすのか? 彼らは、Clstn3bノックアウトマウスのBATで、最も強く発現が減少しているタンパク質がS100bであることを発見した。S100bは星状細胞と呼ばれる脳細胞に豊富に存在する5。興味深いことにZengらは、カルシンテニン3βがS100bと物理的に結合してシャペロン・タンパク質として働き、新たに生成されたS100bの小胞体からの分泌を指示して、それを助長することを見いだした。

さらにZengらは、培養された交感神経ニューロンを可溶性のS100bで処理すると、神経突起の伸長が促されることを発見した。その上、S100bを欠失するマウスのBATの神経分布は野生型マウスと比べて減少していたが、唾液腺など他の器官の神経分布には影響がなかった。特にClstn3bノックアウトマウスにおいて、褐色脂肪細胞のS100bを強制発現させるだけで交感神経分布と熱発生における障害を修正できたことは、重要である。つまり、褐色脂肪細胞とそれに分布する交感神経繊維との間のクロストークを、脂肪細胞が仲介するというメカニズムが見えてきたのである(図1)。

しかしながら、Zengらの研究結果からはいくつかの疑問が生じる。例えば、カルシンテニン3βの発現は褐色脂肪細胞でどのように調節されているのか? 彼らは、このタンパク質の上流の調節因子の1つがLSD1(Lysine-specific demythylase 1)であり、これが褐色脂肪とベージュ脂肪の分化を仲介していることを突き止めた。マウスで脂肪特異的にLSD1を欠失させると、BAT特異的遺伝子群の発現が低下し、白色脂肪組織で通常見られる遺伝子群の異常な誘導が起こるのだ6

交感神経ニューロンの成長は主に、神経成長因子(NGF)と呼ばれるタンパク質に依存している。NGF欠損マウスでは、多数の末梢組織において交感神経分布の異常が顕著に見られるが7、このような状況においてBATの神経分布が特に調べられたことはない。NGFはS100bと協同で働いてBATの神経分布を調整するか、あるいは気管の神経分布の場合7のように、特に重要ではないのかはまだ分かっていない。末梢組織に由来する他の因子が、特定のターゲットの交感神経分布を制御するという可能性はあるのだろうか? もしそうだとすれば、そうした因子は、個々の組織において、目的の交感神経分布を操作したり、その役割を研究したりするための有用な手段になるかもしれない。

交感神経分布は、熱発生と褐色およびベージュ脂肪の分化に関わる遺伝子群の発現を制御する4。しかし、Zengらによって、Clstn3bの欠失は、UCP1をコードする遺伝子など、脂肪細胞の発生、熱発生またはミトコンドリア機能に関わる遺伝子の発現に影響しないことが明らかになった。Clstn3bの欠失または過剰発現によって著しく変化するのは、甲状腺ホルモンの活性化型を産生する酵素をコードするDio2遺伝子の発現だけである。Dio2タンパク質はBATで豊富に存在し、Dio2を欠失するマウスは、Clstn3bノックアウトマウスと同様に、熱発生に異常が見られ、耐寒性が低下して、食餌で誘発される肥満になりやすい8。従って、カルシンテニン3βが存在しないときに、甲状腺シグナル伝達の変化がBAT機能不全に関与しているのかもしれない。

Zengらの研究から生じる最後の問題は、カルシンテニン3βがどのようにS100bの分泌を促進するか、である。細胞分泌を運命付けられたタンパク質の生成は、細胞質で開始される。新しくできたタンパク質は通常シグナル・ペプチドと呼ばれるアミノ酸配列を含んでいて、シグナル・ペプチドによって、まだそのタンパク質が合成されている最中に分泌の最初の過程として細胞質からERへと送られる。しかし、分泌タンパク質の中にはシグナル・ペプチドを含まず、合成された後にERに輸送されるものもある9。S100bはペプチド・シグナルを欠いているため、今回の新しい研究結果から、カルシンテニン3βが、シグナル・ペプチドを欠いているタンパク質の分泌のための一般的なERシャペロンとして機能するか、あるいはS100bに特異的なのかという疑問が浮上する。

ヒトでは、BATは乳児だけに存在すると考えられていたが、イメージング研究で成人にも熱発生を起こす褐色脂肪が存在していることが明らかになった10Clstn3bはヒトの脂肪組織で発現しており、マウスの場合と同じく、BATの神経分布の調節に関わっているのかもしれない。従って、Zengらの研究は、交感神経分布を促進し、BATの熱発生能を利用して肥満とその結果起こる代謝異常を治療するための戦略のヒントになるかもしれない。

(翻訳:古川奈々子)

Rejji Kuruvillaは、ジョンズホプキンス大学 (米国メリーランド州ボルティモア)に所属。

参考文献

  1. Cannon, B. & Nedergaard, J. Physiol. Rev. 84, 277–359 (2004).
  2. 2 Zeng, X. et al. Nature 569, 226–235 (2019).
  3. Bartness, T. J., Vaughan, C. H. & Song, C. K. Int. J. Obesity 34, S36–S42 (2010).
  4. Wang, W. & Seale, P. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 17, 691–702 (2016).
  5. Ludwin, S. K., Kosek, J. C. & Eng, L. F. J. Comp. Neurol. 165, 197–207 (1976).
  6. Duteil, D. et al. Cell Rep. 17, 1008–1021 (2016).
  7. Glebova, N. O. & Ginty, D. D. J. Neurosci. 24, 743–751 (2004).
  8. Hall, J. A. et al. Endocrinology 151, 4573–4582 (2010).
  9. Rabouille, C. Trends Cell Biol. 27, 230–240 (2017).
  10. Nedergaard, J., Bengtsson, T. & Cannon, B. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 293, E444–E452 (2007).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度