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IoP:植物のインターネット

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190707a

レモンを小さな“ラジオ局”にして水やりの必要性を伝える試み。

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BRZOZOWSKA/E+/GETT

植物はラジオを聞かない。だがギリシャの研究者チームは最近、レモンを小さな“ラジオ局”に変えて、そのレモンがなっている木の水分含有量についての情報をスマートフォンに送信する方法を開発した。これは、同チームがIoT(モノのインターネット)ならぬ「IoP(植物のインターネット)」と呼んでいるものを作る第一歩となる。

樹木の水分量を計測するためにセンサーを取り付ける試みは以前にもあったが、「植物の間に無線ネットワークを作り上げ、わずか数マイクロワットの消費電力、たった数ドルの費用で情報を送信したのは私たちが初めてです」と、プロジェクトリーダーを務めるクレタ工科大学(ギリシャ)の電気工学・コンピューター工学の教授Aggelos Bletsasは言う。

このネットワークはいくつかの基本要素からなる。既存のFMラジオ放送局、木に実っているレモンに取り付けたアンテナ、そのレモンの中の湿度センサー、アンテナに接続されたトランジスター、FM受信機(スマートフォンに内蔵されている類いのもの)だ。まず、アンテナがFM局からの信号を受信する。アンテナはこの信号をトランジスターに伝える。トランジスターは湿度センサーによって変調されており、トランジスターのオン・オフが植物の水分レベルに応じた速度で切り替わる。つまり、土壌や空気が湿っていると低速、乾燥していれば高速になる。最後に、この情報がアンテナから携帯電話の無線受信機に送信される。

単純なハードとわずかな電力で

このようにして、植物は水が欲しいかどうかを農業者に伝えることができる。「このモバイルFMラジオと1個3ユーロ(約370円)のセンサーを使って、植物の水分を“聞く”ことができるのです」とBletsasは言う。「農地1エーカー(約40アール)ごとにこうしたセンサーを2個設置すれば、営農方法と植物を“理解”する方法が変わるでしょう」。ただし最大限の結果を引き出すには面積当たりのセンサー数をもう少し増やす必要がありそうで、傾斜地で均等な水やりができない場合は、特にその可能性が高いと彼は指摘する。こうしたリアルタイムの情報を利用すれば、空気中と土壌中の水分の管理が向上する他、農薬の使用量を減らし、施肥を最適化できる可能性があるという。

一般的なブルートゥースなどの無線技術を使わずに、わざわざ面倒な手順を踏んだのはなぜなのだろうか。「私たちの技法はもともと周囲の環境にある信号を使うだけなのであまり複雑にならない上、ブルートゥースに基づくセンサーは約22ユーロ(約2700円)もします。私たちの最終目標は1ドル未満のセンサーを市場に出すことなのです」とBletsasは言う。

この考えは高く評価されている。「Bletsasのチームは非常に単純なハードウエアと驚くほどわずかな電力を使って、環境センシングに大変革をもたらしています」と、テキサス大学オースティン校(米国)の電気工学・コンピューター工学の准教授Alexandros Dimakisは評する。「彼らの研究は農業と環境モニタリングに向けたIoT技術になるでしょう」。

(翻訳:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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