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背丈の「失われた遺伝率」が見つかる

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190710

原文:Nature (2019-04-23) | doi: 10.1038/d41586-019-01157-y | Genetic study homes in on height’s heritability mystery

Linda Geddes

2万人分のゲノム解析から、稀な遺伝子バリアントによって形質が受け継がれる仕組みの一端が見えてきた。

背丈は、一般的な遺伝子バリアントとまれなバリアントの両方が混ざり合うことによって受け継がれる。 | 拡大する

SHOMOS UDDIN/GETTY

背の高さが遺伝性であることは家系を見れば分かる。そして、一卵性双生児と家系の研究でその推測が裏付けられている。しかし、ヒトゲノムの塩基配列解読が最初に行われてから20年近くたつにもかかわらず、遺伝学者たちはいまだにその原因となる遺伝因子を完全には特定できずにいる。

この遺伝率の源を突き止めるために行われてきた多くの研究では、一般的な遺伝子バリアントに焦点が合わせられてきた。しかし、背丈に関連する一般的なバリアントは数百個特定されているが、それぞれの遺伝子による影響はごくわずかで、全て合わせても家系研究で予測されるような遺伝的関与には達しなかった。このような現象は他の多くの病気や形質にも見られ、「失われた遺伝率」と呼ばれている。

今回、ある研究で、背丈とBMI値については、何人かの研究者が推測していたように、失われた遺伝率の大部分が、これまで発見されていなかった稀な遺伝子バリアントに起因することが示唆された。

「これは安心を与えてくれる論文です。遺伝学研究に何かひどい誤りがあるわけではないことを示唆してくれたのですから」と、ロンドン大学キングス・カレッジ(英国)の遺伝疫学研究者Tim Spectorは言う。「ただ、それを選び出すのが思っていたよりも複雑だったということなのです」。この研究は、2019年3月25日にbioRxivに投稿された(P.Wainschtein et al. bioRxiv https://doi.org/10.1101/588020; 2019)。

ゲノムをくまなく探す

疾患や形質の原因となる遺伝因子を見つけるために、遺伝学者たちは全ゲノム関連研究(GWAS)として知られる大規模検索を頼っている。この研究では、通常数万人、時には100万人以上もの人のゲノムを探索して、特定の病気の患者でよく見られる、あるいは背丈などの一般的な形質を説明し得る遺伝子や遺伝子以外の場所にある単一塩基の変化(一塩基多型;SNP)を探し出す。

しかし、GWASには限界がある。何千人もの人の全ゲノム塩基配列解読は高価であるため、GWAS自体がスキャンするのは、各人のゲノムについて戦略上選択された50万組程度のSNPのみだ。それは、約60億個のヌクレオチドのスナップショットにすぎない。そして、これらの50万個の一般的なバリアントはわずか数百人のゲノム塩基配列解読から見つけられてきたのだろうと、エクセター大学(英国)のヒト遺伝学者Timothy Fraylingは言う。

クイーンズランド脳研究所(オーストラリア・ブリスベン)のPeter Visscherが率いる研究チームは、GWASで通常スキャンされるSNPよりも稀なSNPの方が背丈とBMIの失われた遺伝率を説明できるかどうかを調べるため、2万1620人の全ゲノム塩基配列の60億個の塩基全てを解読することにした。

彼らは、全ての人はある程度血縁関係があり、DNAを使えば近縁の程度を計算できるという単純な原理を用いた。そうすれば、それらの人々の背丈とBMIの情報を合わせることで、関与している可能性のある一般的なSNPと稀なSNPの両方を特定できる。例えば、またまたいとこ(祖父母同士がいとこの関係)のペアが、異なる家族のまたいとこ(親同士がいとこの関係)のペアよりも背丈の差が少ないとしよう。それは、またまたいとこのペアの背丈の原因はほぼ遺伝的なものであるという証拠であり、この相関関係の程度から遺伝的な関与の大きさが計算できる。

その結果、Visscherらは、5000人に1人にしか起こらない遺伝的相違を捉えることができた。

そして、Visscherらは一般的なバリアントと稀なバリアントの両方の情報を使用することによって、背丈の遺伝率は79%、BMIについては40%と見積もった。これは、双生児研究で示された結果とほぼ同様の値である。つまり、大人数の集団で調べた場合、背丈の違いの79%は、栄養などの環境要因よりも遺伝子に原因があることを意味する。

Visscherらはまた、稀なバリアントが形質に関与する仕組みについても提案している。まだ仮説段階ではあるが、これらのバリアントがゲノムのタンパク質コード領域にわずかに多く集まっていたことから、こうした領域において障害の可能性を増加させているとみている。

多くのありふれた疾患において、治療法を開発するためには疾患の根源を明らかにする必要がある。遺伝率の複雑さは、解明にもっと多くの時間や資金が必要であることを意味している。

「次のステージは、形質や、治療薬開発を目指している病気にとって重要なのは、これらの稀なバリアントのうちのどれなのかを調べることです」と、Spectorは言う。

(翻訳:古川奈々子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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