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中国にフロンの違法排出源

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190704

原文:Nature (2019-05-22) | doi: 10.1038/d41586-019-01647-z | Rogue emissions of ozone-depleting chemical pinned to China

Jeff Tollefson

近年急増しているフロンの1種「CFC-11」の排出源は、中国北東部の工場とみられる。

CFC-11は、断熱材であるウレタンフォームの発泡剤として使われてきた。こうした製品の製造や使用でCFC-11が大気中に排出されている可能性がある。 | 拡大する

MirageC/Moment/Getty Images

トリクロロフルオロメタン(CFC-11)は、オゾン層破壊ガスであり、南半球上空の成層圏にオゾンホールを形成する作用が特に強い化学物質である。CFC-11は、以前は冷蔵庫や建材用の断熱材発泡剤として広く使用されていたが、その製造は、オゾン層を保護するために1987年に採択された国際的な取り決めである「モントリオール議定書」により、2010年までに段階的に中止された。だが2018年に、その排出量が不可思議に急増していることが報告された1。これを受けて、このほど新たな追跡調査が行われ、その結果がNature 2019年5月23日号で報告された2。その論文によると、排出源は中国北東部であるという。

2008〜2012年と2014〜2017年のCFC-11排出量を比較した図。赤色が濃い地域ほど、CFC-11排出量が増加していることを示している(青は減少)。●は波照間島(日本)、▲は済州島(韓国)のモニタリングステーション。 | 拡大する

Nature 569, 546–550, M. Rigby et al.

2018年5月に、ハワイのモニタリングステーションで採集された大気試料に基づき、東アジアから新たにCFC-11が排出されていることが報告された(2018年8月号「フロン排出量が増加している」参照)。今回の研究では、韓国(済州島)と日本(波照間島)の大気試料に基づく最新の分析結果から、CFC-11の排出量は、2013年ごろから年間約7000tも急増しており、急増分の半分以上が中国の山東省と河北省から来ていることが明らかになった(図)。

論文の筆頭著者であるブリストル大学(英国)の大気化学者Matthew Rigbyは、「疑いの余地はありません」と言う。4つの独立したモデリンググループが大気の循環パターンを分析し、韓国と日本に漂ってきたCFC-11の排出源を突き止めた。Rigbyによると、全てのグループが同じ答えを導き出したという。

排出源を探す

今回の知見は、数年にわたる科学的追跡の成果である。きっかけは、CFC-11の製造が全廃されたにもかかわらず、大気中のCFC-11量の減少ペースが予想外に遅くなっていることを示す分析結果だった。大気中のCFC-11濃度は、2012年以前は1年当たり約0.8%低下していたが、2013年になると低下速度が半減したのだ。この変化を説明するには、新たな排出源ができたと考えるしかない。

研究者たちは、CFC-11が中国北東部でどのように使用されているかを突き止めたわけではない。また、4000tと見積もられる残りの違法なCFC-11排出源も特定できていない。それでも、この最新の証拠は政治的な影響を持つことになるだろう。これまでのところモントリオール議定書はほぼ目論見通りに機能していて、各国は議定書を順守しようと努力しているからである。

モントリオール議定書の科学評価パネルの共同委員長を務める米国海洋大気庁(NOAA;コロラド州ボールダー)の大気化学者David Faheyは、「これまでにモントリオール議定書違反を指摘された国はありませんでした。フロンの排出を地図上で示された国はなかったからです」と言う。彼はまた、モントリオール議定書締約国は2018年11月にCFC-11の排出に関する分析を委託しており、今回の研究はこの分析に情報を提供することになるだろうと言う。

中国当局は、モントリオール議定書に基づいて組織された会合において、自分たちは違法なCFC-11の製造を数件特定し、関係者を訴追したと報告した。しかし、報告されていないCFC-11製造の性質と規模、および中国政府にそれを止めることができるかどうかは不明である。

時限爆弾

CFC-11の排出源を探してきた科学者たちは、中国北東部の工場が、フロン類が禁止されるまでよく建材に使われていたCFC-11を発泡剤とする断熱材の製造を再開したのではないかと考えている。そうだとすると、CFC-11の排出問題は現在の見積もりよりもはるかに大規模になるかもしれない。発泡剤として使用されたCFC-11の大半は発泡剤中に閉じ込められているので、時間の経過とともにゆっくりと漏れ出すからだ、とNOAAの化学者Stephen Montzkaは説明する。彼は、未報告のCFC-11の排出が存在することを最初に立証した2018年の研究を率いた人物で、最新の研究の共著者でもある。「私たちが大気中で検出するものは、実際に製造されたもののごく一部です」とMontzkaは言う。

Rigbyは、違法に排出されたCFC-11の残り4000t分の発生源を特定するには、まだ多くの研究が必要だと言う。それでも最新の研究は、中国当局が違法なフロン製造業者を探すのに役立ち、科学者たちは今後、中国がフロンの違法製造を停止したかどうか見極められるようになるはずだ。「今後の成り行きを見守るつもりです」とRigbyは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Montzka, S. A. et al. Nature 557, 413–417 (2018).
  2. Rigby, M. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-019-1193-4 (2019).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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