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遺伝子編集ベビー問題に本腰を入れるWHO

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190609

原文:Nature (2019-03-19) | doi: 10.1038/d41586-019-00942-z | World Health Organization panel weighs in on CRISPR-babies debate

Sara Reardon

WHOの諮問委員会は、ヒトゲノム編集に関わる研究の登録システムが必要だとする見解を示した。

ヒト胚(写真)のゲノム改変はその後の世代に受け継がれる可能性がある。 | 拡大する

JIM DYSON/GETTY

世界保健機関(WHO)の諮問委員会は2019年3月19日、WHOはヒトゲノム編集に関わる研究を登録する国際的なシステムを作るべきであり、研究資金の提供機関や学術出版社は、研究者がこのシステムに登録することを求めるべきだとする見解を発表した。

2018年11月に中国の科学者が、ゲノム編集ツールであるCRISPRを使ってヒトゲノムを改変し、双子の女児を誕生させた。これを受けて、WHOは同年12月にヒトゲノム編集に関する諮問委員会を設置した。諮問委員会はその声明の中で、ヒトの卵や精子、胚(これらの細胞は生殖系列と呼ばれる)のゲノムを、次世代に改変が受け継がれるようなやり方で変えてしまう臨床応用研究に対して、反対の姿勢を取ることも明らかにしている。「この諮問委員会では、現時点で誰かがヒト生殖系列のゲノム編集の臨床応用を進めることは無責任だ、ということで意見が一致しました」と、委員会の共同委員長で米国医学アカデミーの国際部長でもあるMargaret Hamburgは話す。

ただし、諮問委員会はそうした研究の恒久的な停止を求めているわけではないことを彼女は強調する。「我々は、より広い視野で責任ある管理のための枠組みを検討しようとしているのです」と、米国食品医薬品局(FDA)の長官を務めたこともあるHamburgは話す。「漠然とした停止措置では、今何をしなければならないかという問いに対する答えにはならないと思います」。

WHO諮問委員会は現在、ヒトへの遺伝子編集技術の使用を統制するための国際的な枠組みを構築しているところであり、今後18カ月でWHOの事務局長に最終勧告を提出する予定である。

Hamburgは、遺伝子編集を統制する拘束力のある国際協定を結んだり、各国政府が既存の法律を確実に強化できるようにしたりするための方策を、WHOが検討しているかどうかについては語らなかった。WHOに対する諮問委員会の要求には、ヒトゲノム編集研究の規制の仕方が国によってどう違うかを把握することも含まれていると彼女は話す。「とても骨の折れる仕事ですが、一連のプロセスはそこから始まります。我々は、使えそうな戦略を全て把握しているわけではないのです」。

中国の生物物理学者Jiankui He(賀建奎)は、HIV耐性を持たせるという理由でヒト胚のゲノム編集を行い、双子の女児を誕生させたことを2018年11月に明らかにした。それを知ったWHOは、ゲノム編集を巡る議論に本腰を入れることを決めた。Heがヒトにゲノム編集技術を使ったことに対して、ほぼ全ての方面から非難の声が上がり、南方科技大学(中国・深圳)は2019年1月にHeを解雇した。2019年2月下旬には中国衛生部が、ヒトへの遺伝子編集技術の使用を制限する規制指針案を発表した(2019年2月号「ゲノム編集ベビー誕生の報告に非難殺到」および3月号「CRISPRベビー誕生と科学コミュニティーに求められる対応」参照)。

しかし、生殖系列ゲノム編集の臨床使用を完全に停止することが妥当かどうかに関しては、研究者の意見が分かれている。例えば、Nature 3月14日号のCommentでは、倫理学者と科学者からなるグループ(CRISPRの発明者を何人か含む)が、「ヒト生殖系列へのゲノム編集の臨床使用を一切許さないような一定の停止期間」が必要だと述べている(E. S. Lander et al. Nature 567, 165–168; 2019)。一方、同号のCorrespondenceでは、米国医学アカデミーや米国科学アカデミー、英国王立協会の代表者らが、そうした停止期間を設ける案に反対しており、「遺伝性のあるゲノム編集が社会全体に及ぼす影響を考えると、何らかの決定を下す前に広く社会的合意を形成する必要がある」と述べている(V. J. Dzau et al. Nature 567, 175; 2019)。

WHO諮問委員会が推奨する登録システムは、ヒトでの遺伝子編集を統制するための枠組みについて世界的合意に至るまでの「つなぎ」的な試みの1つである。諮問委員会によれば、この登録システムによって、ヒトゲノム編集の臨床応用研究を広くカバーできるはずだという。その中には生殖系列の改変も含まれるが、遺伝しない形で遺伝子を改変する手法も含まれる。後者の手法は、まだ広く議論されていない。

また、WHO諮問委員会が推奨する「透明性」は正しい取り組み方だと、CRISPRを研究するロンドン大学ユニバーシティカレッジの分子遺伝学者Helen OʼNeillは話す。「研究者と彼らの研究について話し、話した内容を明らかにすることは、議論を二極化するのではなく議論を促進するための最善の方法となります」と彼女は説明する。

WHO諮問委員会には、時間をかけて国際的な統制のための勧告を仕上げてほしいとOʼNeillは考えている。それが決着するまでは、Heの研究に対して否定的な反応を示したりメディアが注目したりすることで、他の研究者がHeと同様の研究に着手することを抑止する必要があるだろうとOʼNeillは話す。

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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