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フィリピンの洞窟で発見された未知のヒト属

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190606

原文:Nature (2019-04-10) | doi: 10.1038/d41586-019-01152-3 | Unknown human relative discovered in Philippine cave

Nic Fleming

ルソン島で見つかった骨片は5万年以上前に存在していた短身種であることが明らかになり、ホモ・ルゾネンシスと命名された。

Détroitらは、フィリピン・カラオ洞窟で発掘された歯と足指の骨を他のヒト族のものと比較検討して新種であることを確認し、ホモ・ルゾネンシスと名付けた1。 | 拡大する

Nature 568, 176–178

新たなヒト族種の骨がフィリピンの洞窟で発掘され、人類の系統樹に新たな枝が加わった。恐らく体が小さかったと考えられるこの新種は、ホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis)と命名された。Nature 2019年4月11日号181ページにて発表された今回の発見1は、古いヒト近縁種が最初にアフリカを離れた時期を巡る議論を再燃させるだろう。また、この人骨の年代は、6万7000年~5万年前と推定され、かつて東南アジア各地に複数種の人類が共存していたことが示唆される。

この新種の存在を示す痕跡がフィリピン・ルソン島のカラオ洞窟で最初に見つかったのは10年以上前のことである。研究チームは2010年、この骨が6万7000年以上前のものと推定される足の骨であり、骨の主の種は特定に至らなかったが、小型のホモ・サピエンスに似ていると発表した2

カラオ洞窟の発掘を進めた結果、少なくとも成人2体と小児1体に由来する大腿骨1点と歯7点、手と足の骨各2点が発見された。国立自然史博物館(フランス・パリ)の古人類学者Florent Détroitらを中心とする研究チームはこれらの特徴について、既知のヒト近縁種のものとは異なると主張する。

レークヘッド大学(カナダ・サンダーベイ)の古人類学者Matthew Tocheriは、「総合的に、研究チームは新種であることを強く主張しています」と話す。

ヒト族の歴史

ホモ・ルゾネンシスは、東南アジアで近年に同定された第2のヒト属(Homo)新種だ。最初の種はホモ・フローレシエンシス(Homo floresiensis)で、2004年に別の研究チームによって報告された3。身長が1m程度だったと考えられ、「ホビット」という愛称でも知られるこの種は、インドネシアのフローレス島に生息していた(2016年9月号「ホビットの祖先? 小型成人の骨発見」参照)。

Détroitの研究チームは、今回のカラオ洞窟の骨が、身長は同程度であるもののホモ・フローレシエンシスのものではなく、また約200万年前にアフリカを離れた最初のヒト近縁種と考えられているホモ・エレクトス(Homo erectus)など、他のヒト族種(2016年10月号「忘れられた大陸」参照)とも異なるという主張の根拠として、いくつかの特徴を挙げている。

今回発見された大臼歯は、他の古いヒト近縁種と比較すると極端に小さく、また大臼歯の隆起した咬頭はホモ・サピエンスに近く、それ以前のヒト族ほど顕著ではない。また大臼歯のエナメル質内側の形状は、アジアで発見されたホモ・サピエンスとホモ・エレクトスの両方の標本と異なっている。小臼歯は小型で、ホモ・サピエンスとホモ・フローレシエンシスの範囲内に収まっているが、全体的な歯の大きさは大臼歯と小臼歯のサイズ比とともに、他のヒト属種とは異なると報告している。

ホモ・ルゾネンシスは、足の骨の形状も異なっている。最も近いのは、最後までアフリカを離れなかったと考えられている原始的ヒト族のアウストラロピテクス属(有名な化石「ルーシー」がこれに属する)だ(2016年12月号「3D印刷で『ルーシー』の死因を探る」参照)。手足の指の骨の湾曲は、ホモ・ルゾネンシスが木登りに長けていた可能性を示唆している。

発見された骨の数はまだわずかであるため、研究チームは、ホモ・ルゾネンシスの身長の推測には慎重だ。しかし、小さな歯と、2010年に発表された足の骨から、Détroitは、その体の大きさは小柄なホモ・サピエンス(ルソン島を含むフィリピンの一部に現在も居住しており「フィリピン・ネグリト」と総称されることもある土着民族集団の構成員など)の範囲内だったと考えている。ルソン島在住のこの集団の平均身長は、男性が約151cm、女性が約142cmと記録されている。

系統樹での位置付け

ホモ・ルゾネンシスをヒトの系統樹にどう組み込むかについて、研究者の見解は割れている。Détroitは、ホモ・エレクトスの体が祖先とは異なる姿へと徐々に進化してきたことから、その仲間から今回の新種が生まれたという見方を支持する。ウーロンゴン大学(オーストラリア)の古生物学者Gerrit van den Berghは、「島嶼ではさまざまな進化の道筋が生まれます」と語る。「ホモ・エレクトスは、ルソン島やフローレス島のような島に到達すると、持久走をする必要がなくなった代わりに、樹上での夜間生活に適応しなければならなくなったと想像できます」。

しかしTocheriは、アウストラロピテクスとの類似性を踏まえて、カラオ洞窟の住人たちがホモ・エレクトス以前にアフリカの外へ移住した系譜に由来する可能性も視野に入れている。

骨から遺伝物質が得られれば、他のヒト族との系統関係の解明に役立つが、今のところ作業は難航している。しかし、骨や歯の年代については5万年以上前と推定されており、この種がホモ・サピエンスやホモ・フローレシエンシス、そしてデニソワ人として知られる謎の集団(このヒト族のDNAは、現代の東南アジア人の中に認められている)と同じ時代に東南アジアに居住していた可能性が示唆される。

「東南アジア島嶼部は古生物学的な驚きに満ちていることが分かってきました。それがヒトの進化に関するシナリオを複雑にしています」と、ストーニー・ブルック大学(米国ニューヨーク州)の古人類学者William Jungersは言う。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Détroit, F. et al. Nature 568, 181–186 (2019).
  2. Mijares, A. S. et al. J. Hum. Evol. 59, 123–132 (2010).
  3. Brown, P. et al. Nature 431, 1055–1061 (2004).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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