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ファージ感染した緑膿菌は免疫系から逃れやすい

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190602

原文:Nature (2019-03-28) | doi: 10.1038/d41586-019-00991-4 | Virus tricks the immune system into ignoring bacterial infections

Sara Reardon

細菌とウイルスの共生関係を加味することで、一部の微生物が体内で免疫寛容状態になる機序が説明できるかもしれない。慢性感染症のより良い治療法につながる可能性もある。

緑膿菌は褥瘡などの創傷における持続感染の原因となり得る。 | 拡大する

BSIP/UIG/GETTY

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は抗生物質治療に耐性を示すことが多く、米国では院内感染の約10%を占めている。このほど、緑膿菌に特定のウイルスが感染していると、ヒトの免疫系がこの緑膿菌を見逃しやすくなることが分かった。

細菌に感染するウイルスはファージとして知られている。緑膿菌に、繊維状ファージであるPfファージが感染していると、ヒトの免疫系は緑膿菌ではなくファージを追跡し、結果として緑膿菌の排除が減弱することが、Science 3月29日号で報告された1。この緑膿菌とPfファージのような共生関係は、これまで考えられていたよりも微生物の世界で広範に見られる事象なのかもしれない。この発見は、腸内細菌などの有用な細菌を免疫系が寛容する理由を説明するのに役立ち、また、より優れた感染症治療法につながる可能性がある。

ファージには、細菌宿主に感染することで宿主を死滅させる溶菌性ファージと、宿主を死滅させずに細菌内で共存する溶原性ファージがある。このような共存は、ウイルスが細菌に何かしらの利益をもたらしていることを意味するのではないかと、長い間考えられていた。

傷口の細菌

スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の免疫学者Paul Bollykyらは、細菌とヒト宿主との相互作用の仕組みにファージが影響を及ぼすかどうかを調べるために、感染熱傷などの慢性創傷がある111人について拭き取り検査を行った。このうちの37の創傷で緑膿菌が検出された。

創傷で採取された緑膿菌の68%には Pfファージが含まれていることも分かった。Bollykyらは次に、Pfファージ陽性あるいはPfファージ陰性の緑膿菌をマウスの傷口に植え付けて比較を行った。すると、Pfファージ陽性緑膿菌では、感染の確立に必要な細菌数がPfファージ陰性緑膿菌よりも少なく、また、Pfファージ陽性緑膿菌を植え付けたマウスは、Pfファージ陰性緑膿菌を植え付けたマウスよりも死亡率が高いことを明らかにした。

細菌が感染すると、体内では食細胞と呼ばれる免疫細胞が感染部位に誘導される。食細胞は通常、細菌や死んだ細胞などの大きな粒子は取り込むが、ウイルスほど小さいものは取り込まない。Pfファージ陽性緑膿菌が感染した傷口では、食細胞は少数の細菌を貪食するのみで、傷口からすぐに移動してしまった。これは、傷口で感染細菌を貪食した食細胞が、細菌に加えてファージのRNAも認識したことで、ファージに対する免疫応答が誘導され、その結果、細菌の貪食が抑制されたことによると見られる。

そこでBollykyらは、Pfファージに対するモノクローナル抗体を作製し、マウスにPfファージ陽性緑膿菌を感染させる前に、ワクチンとして接種した。すると、この緑膿菌による感染を低減できた。

ヒトでの実践

Bollykyらは、Pfファージが、免疫系に攻撃を開始させる二本鎖RNAを食細胞を利用して作り出すことで、ヒトに感染するウイルスを模倣していると考えた。Bollykyは、ヒトの体内に存在する正常で有用な細菌が免疫系により寛容されることについて、同様の機構により部分的に説明できるかもしれないと考えている。

ポーランド科学アカデミー(ヴロツワフ)の細菌学者Andrzej Górskiは、「これは画期的な論文です。他の研究から、ファージが炎症に影響を及ぼすことや、アレルギー予防に役割を担っている可能性が示唆されていました2が、今回の論文によってファージがヒトの健康を損なう仕組みが初めて明らかにされました。これらのファージは細菌を溶菌しないだけでなく、良くも悪くも、ヒトの免疫系にも影響を及ぼし得るのです」と言う。

コロラド大学(米国オーロラ)の微生物学者Breck Duerkopは、「これは驚くべき発見です」と言う。ヒトの体内に存在する膨大な数の細菌集団、つまりマイクロバイオームについて、これを機により広範に考慮していく必要があると指摘する。「宿主とマイクロバイオームの相互作用は、これまでほとんど見落とされていましたが、今回、そこにさらに複雑性が加わったと思います」。

現時点でBollykyらは、この知見の臨床面をより直接的に明らかにしようとしている。Bollykyらは、今回用いたPfファージワクチンの特許を取得しており、ブタにおいて、火傷や皮膚創傷に対するこのワクチンの効果を試験中である。Bollykyによれば、Pfファージを調べる際、インフルエンザウイルスや肝炎ウイルスなどのヒトウイルスと同等に扱っているという。研究チームは、Pfファージが体と相互作用する仕組みや、Pfファージを標的とすることが感染症の治療に役立つかどうかを明らかにしていく予定だ。けれどもBollyky自身は、他の研究チームが、緑膿菌とPf ファージに似たやり方でヒトに感染する別の細菌とファージの組み合わせを広く探索し始めることを望んでいる。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Sweere, J. M. et al. Science 363, eaat9691 (2019).
  2. Febvre, H. P. et al. Nutrients 2019, 666 (2019).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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