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セロトニンは核に移行してヒストンを修飾する

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190636

原文:Nature (2019-03-28) | doi: 10.1038/d41586-019-00532-z | Modification of histone proteins by serotonin in the nucleus

Marlene Cervantes and Paolo Sassone-Corsi

ヒストンタンパク質の機能は、特定の化学基の付加や除去によって修飾され得る。今回、セロトニン分子の付加という新たなヒストン修飾が見つかった。この修飾も他のヒストン修飾と同様に、遺伝子発現に影響を及ぼすようだ。

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ALFRED PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library / Getty Images Plus/Getty

エピジェネティクスは、DNA塩基配列の変化を伴わない遺伝形質の研究を行う分野だ。膨大な生化学研究で得られた証拠から、複雑で多様な一連の分子機構により、DNA塩基配列の変化を伴わずに遺伝子発現が調節されていることが明らかになり、エピジェネティクスという考え方が広く受け入れられるようになった。このような機構には、DNA分子やRNA分子の化学修飾に加えて、ヒストンの翻訳後修飾がある。ヒストンとは、DNAがクロマチン繊維を形成する際に巻き付くタンパク質のことである。ヒストンの翻訳後修飾には、アセチル基を付加するアセチル化、リン酸を付加するリン酸化、メチル基を付加するメチル化があり、これらは特定のアミノ酸残基に対して起こる1。マウント・サイナイ医科大学アイカーン医学系大学院(米国ニューヨーク)のLorna A. Farrellyらは、Nature 3月28日号535ページで、セロトニンの付加によるヒストンの修飾があることを報告している2。セロトニンは、ニューロン活動の調節に不可欠な役割を担う分子だ。

セロトニンは、アミノ酸の1つであるトリプトファンが代謝されて作られる。セロトニンは神経伝達物質(ニューロン間で働く情報伝達分子)として機能するとともに、ニューロンの成長や生存、分化を助ける栄養因子としても働く。統合失調症やうつ病、自閉スペクトラム症などの神経疾患は、神経系の発生に重要な期間におけるセロトニン依存的シグナル伝達と関連することが知られている3

さまざまなセロトニン受容体を介したシグナル伝達は、クロマチンのリモデリングを引き起こし、クロマチン高次構造は遺伝子発現が可能な状態へと変化する4(図1a)。セロトニン受容体依存的なクロマチンリモデリングは、ヒストンの翻訳後修飾を含むシグナルにより仲介される4。しかし、セロトニンにより引き起こされるシグナルが、クロマチン構造に影響する他の分子シグナルと統合される仕組みについては、まだあまり調べられていない。

図1 細胞内で起こるセロトニン化
a セロトニン分子は細胞膜上で特異的な受容体を活性化して、細胞内シグナル伝達を誘導し、クロマチン(DNAとヒストンタンパク質から構成される)と遺伝子発現(図示せず)を変化させる。
b セロトニンは専用の輸送体を介して細胞内に取り込まれ、細胞質中のカルシウム依存性トランスグルタミナーゼ酵素(TGアーゼ)群を活性化する。TGアーゼは、Rabなどの特定の低分子量GTPアーゼ酵素群にセロトニン分子を付加する(この反応はセロトニン化と呼ばれる)。
c 今回、Farrellyらによって報告された核内でのセロトニン化2。この現象は、セロトニン受容体に依存せずに起こる。トランスグルタミナーゼ2(TGM2)と呼ばれる核内のTGアーゼが、ヒストンH3の5番目のグルタミン残基にセロトニンを付加する。この翻訳後修飾(Q5serと表記)は、主にヒストンH3の別の修飾である4番目のリシン残基のトリメチル化(K4me3)との組み合わせで見られる。K4me3修飾はMLL1などのメチルトランスフェラーゼ酵素により行われ、メチル基はS-アデノシルメチオニン(SAM)からヒストンH3へ転移される。K4me3の存在は、クロマチンが転写的に活性な状態にあることを意味しており、K4me3/Q5serの二重標識は、この状態を強化している可能性がある。 | 拡大する

Farrellyらの研究は、セロトニンが受容体非依存的な様式でクロマチンに作用し得ることを示している。セロトニンがヒストンを直接標的として、セロトニン化と呼ばれる翻訳後修飾を起こすというものだ。この化学修飾は、いくつかの核外タンパク質については10年以上前から知られていた。低分子量GTPアーゼファミリーの酵素には、カルシウム依存性トランスグルタミナーゼと呼ばれる他の酵素により、特定のグルタミン残基がセロトニン化されるものがある5-7(図1b)。低分子量GTPアーゼのセロトニン化は、平滑筋細胞での細胞分裂の誘導や5、β細胞によるインスリンの分泌調節6、血小板においてセロトニンを血中から運び入れるタンパク質の内在化7に役割を担っている。

これまでに核内でのセロトニン化は報告されていなかったものの、その存在を示唆するいくつかの興味深いヒントはあった。細胞内に存在するトランスグルタミナーゼ2(TGM2)という酵素の一部や、細胞に含まれるセロトニンの一部が、核内で見つかっていたのだ8, 9。これらの観察結果は、核内のタンパク質を標的としたセロトニン化の可能性を意味しており、結果的に、セロトニン受容体やそのシグナル伝達経路とは独立に、核内でのセロトニン化が遺伝子発現に影響することも考えられた。Farrellyらは、標識したセロトニンを用いた実験で、ヒストンH3の5番目のグルタミン残基(H3Q5)においてセロトニン化を検出した。ヒストンの翻訳後修飾における他の多くの標的と同様に、このグルタミン残基はヒストンH3のアミノ末端領域に位置している。ヒストンH3、H2A、H2B、H4上には、セロトニン化される部位は存在しないようで、この修飾が非常に特異的であることが分かる。

ヒストンH3のN末端尾部は、全ヒストン中で最も解明の進んでいる領域だ。この10年間で、このタンパク質領域には、単独あるいは組み合わせで、機能的な重要性を持つ多くの修飾が報告されている10。ヒストンH3の4番目のリシン残基(H3K4)に対するトリメチル化(3つのメチル基付加)は、ゲノム領域が転写可能な状態にあることを示す標識として、最も信頼されている。注目すべきは、このリシン残基に対する1番目、2番目、3番目のメチル基の転移が、それぞれ異なる酵素によって行われることだ11

Farrellyらの報告によれば、TGM2によるH3Q5のセロトニン化は、H3K4がトリメチル化されている場合に起こる(図1c)。これらの2つの翻訳後修飾の組み合わせは、H3K4me3Q5serと表記される。修飾されたリシン残基とグルタミン残基は隣接していることから、これらの2つの修飾の安定性(半減期)は相互に依存しているのかもしれない。また、このように近接していることで、特殊なクロマチンリモデリングタンパク質複合体を誘導するように作用する可能性がある。実際、Farrellyらの結果は、H3K4me3Q5serが、クロマチン上で転写促進に働く転写因子TFIIDの機能を手助けする可能性を示唆している。

これらの結果から、さらに別の疑問が湧いてくる。例えば、TGM2は、MLL1のようなH3K4をメチル化する酵素の機能に何らかの役割を担うのだろうか。そうであるなら、今後の研究では、これらの酵素間における機能的相互作用の解明に取り組む必要があるだろう。また、H3K4のトリメチル化や、ヒストンH3の9番目や14番目のリシン残基のアセチル化が相互に影響を及ぼすのと同じように12、H3Q5のセロトニン化も他の翻訳後修飾に影響するのだろうか。それに、セロトニンの細胞内プールは、さまざまな細胞区画におけるセロトニンのその時々の使われ方に依存して、異なる方法で補充されるのだろうか。そして、核外のセロトニンがヒストンのセロトニン化に影響を及ぼす際には、必要に応じて核に輸送されるのだろうか。

クロマチンの構造変化に関連する翻訳後修飾について、そのシナリオはますます広がりを見せている。ヒストンのセロトニン化や、転写に対してセロトニン化が持つ潜在的な影響は、そうしたシナリオにおける氷山のほんの一角でしかない。ヒスタミン化やドーパミン化(同じくモノアミンの神経伝達物質であるヒスタミンやドーパミンによりタンパク質が修飾されること)もここに加えられる可能性があり、ヒストン修飾の暗号を解読する試みはより複雑になるかもしれない。しかし、見方を変えれば、この先には新たな発見につながるエキサイティングな道が広がっているとも言えるだろう。

(翻訳:山崎泰豊)

Marlene Cervantes and Paolo Sassone-Corsiは、カリフォルニア大学アーバイン校(米国)に所属。

参考文献

  1. Borrelli, E., Nestler, E.J., Allis, C.D. & Sassone-Corsi, P. Neuron 60, 961–974 (2008).
  2. Farrelly, L.A. et al. Nature 567, 535–539 (2019).
  3. Daubert, E.A. & Condron, B.G. Trends Neurosci. 33, 424–434 (2010).
  4. Holloway, T. & Gonzalez-Maeso, J. ACS Chem. Neurosci. 6, 1099–1109 (2015).
  5. Watts, S.W., Priestley, J.R. & Thompson, J.M. PLoS ONE 4, e5682 (2009).
  6. Paulmann, N. et al. PLoS Biol. 7, e1000229 (2009).
  7. Walther, D.J. et al. Cell 115, 851–862 (2003).
  8. Sileno, S. et al. J. Proteomics 96, 314–327 (2014).
  9. Csaba, G. & Kovacs, P. Cell Biol. Int. 30, 861–865 (2006).
  10. Tessarz, P. & Kouzarides, T. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 15, 703–708 (2014).
  11. Greer, E. L. & Shi, Y. Nature Rev. Genet. 13, 343–357 (2012).
  12. Karmodiya, K. et al. BMC Genom. 13, 424 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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