できるロボット
歩き、走り、物をつかめるようにロボットをプログラミングするのは一苦労なので、ロボットが自分で学習してくれる方が望ましい。しかし実際のロボットを試行錯誤で学習させるとあちこち傷む問題があるため、ロボットの動きをシミュレーションし、学習したスキルを本物のハードウエアにダウンロードする方法を複数の研究グループが開発している。今回、実際のロボットから得たデータを用いてこの種のシミュレーションを改良する新手法が登場し、フィードバックループを完成させた。この結果、速度と敏捷性が向上したロボットが出来上がる。
敏捷で器用な「エニマル」
エニマル(ANYmal)という四足ロボットを使って研究中のスイス連邦工科大学チューリヒ校のチームは、ニューラルネットワーク(人間の脳にヒントを得たソフトウエア)によってそのアルゴリズムを強化した。ロボットが現実の世界でヘマをすると、ニューラルネットワークはロボットの各モーターの変な動きを学習する。この情報がシミュレーションにフィードバックされ、実際のロボットをより正確にモデル化するのに役立てられる。シミュレーションはより効果的な動かし方を生み出し、利用者はこれをダウンロードできる。実験でエニマルは以前の速足のスピードを25%上回り、記録を更新した。さらに、押されてもバランスを回復し、ひっくり返されても起き上がることができた。この成果は、2019年1月のScience Robotics に報告された。
エニマルは、スイス連邦工科大学チューリヒ校のスピンオフ企業であるエニボティクスから購入できる。関節に内蔵されているモーターは腱のようなばねを備えており、これで衝撃を吸収し、エネルギーを貯蔵し、感覚フィードバックを提供している。それぞれの足に3個のモーターがあり、全て交換可能だ。シミュレーションに基づくこの訓練法の開発に協力したロボット工学者Jemin Hwangboは、エニマルは救助作業と石油掘削リグの検査を目的に作られたと言う。防塵・防水の胴体の内部に重いデジタル脳を抱えながら、階段を上りトンネルの中を進むことができる。ケブラー(アラミド樹脂)製の腹部のおかげで50cmの落下に耐える。
「スポットミニ」と「チーター3号」
エニマルの能力に匹敵する四足ロボットを開発している企業は他にもある。ボストン・ダイナミクス社(米国)は2008年、ガソリンエンジンで動く騒がしい「ビッグドッグ」が不安定な地形をやっと歩む滑稽な(そして気味の悪い)動画をネット上に公開して注目を集めた。より新しい「スポットミニ」はその電気駆動版で、体重は25kgだ。
マサチューセッツ工科大学(米国)の機械工学者Sangbae Kim(ボストン・ダイナミクスには所属していない)は、スポットミニは障害物を回避したり乗り越えたりして進むための世界で最も先進的なアルゴリズムを備えていると言う。同社は今年、建設から家庭内支援までさまざまな用途向けにスポットミニの販売を始める計画だ。上部の接続ポートに各種の道具を取り付けられる。例えば重さ5kgのアームを取り付ければ、飲み物を取ってきたり食器洗い機に洗い物をセットしたりできる。この犬はまさに人類最良の友だ。
翻訳:鐘田和彦
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 6
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190608a
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