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10億ユーロ規模の次期研究計画、最終6候補を選出

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190510

原文:Nature (2019-02-11) | doi: 10.1038/d41586-019-00541-y | Europe’s next €1-billion science projects: six teams make it to final round

Alison Abbott

欧州連合(EU)の次期大型科学研究プロジェクトの最終候補に、人工知能(AI)や仮想タイムマシンなどの6計画が選ばれた。

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35007/E+/Getty

欧州の10億ユーロ(約1240億円)規模の大型科学研究プロジェクトの次期計画最終候補として、欧州委員会は、医療、エネルギー、人工知能(AI)、文化遺産などの分野から、6つの研究計画を選んだことが分かった。

科学者らによると、欧州委員会は2018年12月、16の研究計画の中から6つの最終候補を選んだという。6つの研究チームには2019年3月1日、100万ユーロ(約1億2400万円)が与えられ、各チームは計画の実現可能性に関する詳細な提案を2020年にかけて作り上げる。その後、最大で3つの計画が選ばれ、選ばれた計画は2021年にスタートする。

欧州委員会はすでに、3つの10億ユーロ規模の大型科学研究プロジェクトを進めている。脳、グラフェン、量子技術の3つで、これらのプロジェクトは、大型研究計画群である「未来・新興技術(Future and Emerging Technologies)フラッグシップ」という枠組みに属している(2016年7月号「ヒト脳プロジェクトが計算ツールを公開」、2017年8月号「欧州の10億ユーロの量子技術研究計画」参照)。各プロジェクトはそれぞれ、10年間で約10億ユーロの研究資金を得る。今回の6候補から選ばれた計画は、未来・新興技術フラッグシップに取って代わる、新しい枠組みに属することになる見通しだ。

今回、最終候補に選ばれた研究計画は、AIで人間の能力を(置き換えるのではなく)どのように高めることができるかを調べる計画、細胞療法と遺伝子治療の臨床応用を加速させる計画、個別化医療を進める計画、太陽光を使って大気中の物質を燃料などに変える計画、触媒や化学過程の開発で太陽エネルギー利用の効率改善を目指す計画、「タイムマシン」と呼ばれる人文科学分野の計画の6つだ。タイムマシンは、欧州の都市の歴史的記録のデジタル検索を可能にする方法を開発しようとする計画だ。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校のコンピューター科学者で、タイムマシン計画の研究責任者の1人であるFrédéric Kaplanは、「タイムマシンが選ばれたことは、うれしくもあり、驚きでもありました」と話す。この計画はすでに、イタリアのベネチアの歴史的記録に取り組んできた。「文化遺産に関しては、私たちは門外漢でした。それでも、ここまで来られたのはすごいことです」とKaplanは話す。

未来・新興技術フラッグシップは、EUの主要な研究資金計画である「ホライズン2020」の一部だ。欧州の学術界と産業界から専門知識と資金を持ち寄ることにより、重要な科学的・技術的課題に取り組み、各分野でパラダイムシフトを起こす進歩を達成することを目的に設計された。研究計画の募集後、2013年に「ヒト脳プロジェクト(HBP)」と「グラフェン・フラッグシップ」が始まり、その後、EUの政治家たちの要請を受けて、2017年に「量子技術フラッグシップ」が加わった。同様のトップダウン型の決定により、電池技術に関するもう1つのフラッグシップが現在、検討されている。欧州委員会は、各計画に10億ユーロの半分を与え、残りは計画のコンソーシアム自体が集めるよう求めている。

ホライズン2020の後継研究資金計画が、2021年に始まり、2027年に終了する「ホライズン・ヨーロッパ」だ。ホライズン・ヨーロッパにも、未来・新興技術フラッグシップに取って代わる大型研究計画が含まれることになるとみられる。

しかし、ホライズン・ヨーロッパの仕組みは、ホライズン2020とは異なる見込みだ。初期の構想では、「ミッション」と呼ばれる研究プロジェクトの集まりが導入され、社会に短期間で直接的な影響を与える、明確で評価可能な目標が設定されるという。今後の大型研究計画も、これまでの大型研究計画と基本的な考え方は同じだが、その構造と資金面は変わりそうだ。

欧州議会のスポークスパーソンは、「資金を無駄に使う過ちを避けるため、フラッグシップの潤沢な予算の管理をより厳しくしたい」という意向を示している。欧州委員会は、ホライズン・ヨーロッパはまだ制度設計の初期段階にあるので、今後の「フラッグシップに似た大型研究計画」がホライズン・ヨーロッパの中でどのような位置を占めるかの詳細はまだ分からないとしている。

イタリア学術会議(CNR)タンパク質生化学研究所(Institute of Protein Biochemistry ;CNR-IBP、ナポリ)の研究ディレクターである細胞生物学者Daniela Cordaは、ホライズン2020のプログラム委員会のイタリアからの委員でもある。Cordaは「(今後の計画の)アプローチはこれまでとはかなり異なっていて、事がどのように折り合っていくかはまだはっきりしていません」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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