News

遺伝情報の文字種が2倍の「8文字DNA」

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190508

原文:Nature (2019-02-21) | doi: 10.1038/d41586-019-00650-8 | Four new DNA letters double life’s alphabet

Matthew Warren

遺伝情報を記述する文字種を、人工塩基を加えることで2倍にした「8文字DNA」は、天然のDNAと同様に振る舞うことが示された。

1953年、ロザリンド・フランクリン撮影のX線回折によるDNA結晶の画像。「8文字DNA」も同様に安定している。 | 拡大する

SPL/Getty Images Plus/Getty

地球上に存在する生物のDNAは、わずか4種類の重要な化学物質の配列という形で遺伝情報を保存している。これらの化学物質とは、グアニン、シトシン、アデニン、チミンの4種類の塩基であり、一般にそれぞれG、C、A、Tの略号で表す。今回初めて、人工塩基4種を加えて、DNAの遺伝暗号を8文字にする試みが成功した。この「8文字DNA」は、天然のDNAと同様に遺伝情報を保存したり転写したりできるようだ。

応用分子進化財団(FfAME;米国フロリダ州アラチュア郡)の創設者Steven Bennerが率いる研究チームは、Science 2019年2月22日号の論文で、遺伝情報を担う文字の種類を増やしても理論上は生命を維持できることを示唆した(S. Hoshika et al. Science 363, 884–887; 2019)。「これは、まさに画期的な成果です」と、スクリプス研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の化学生物学者Floyd Romesbergは話す。この研究成果は、地球上で進化した4種類(GCAT)の塩基が取り立てて「神秘的な」ものでも特別なものでもないことを意味するとRomesbergは述べ、「そのことが概念上の大躍進なのです」と言う。

DNA鎖2本が互いに巻き付いて二重らせん構造を作る際には、通常それぞれのDNA鎖にある塩基のCはGと、AはTと対になって結合する。以前から研究者らは、これら2対4種類の塩基に新しい塩基の対を加える試みを行ってきた。例えばBennerは、最初、1980年代に「非天然型」の塩基を作り出した。また、Romesbergの研究室では2014年に、生細胞に非天然型の塩基1対を組み込んだ。しかし今回の研究は、非天然型の相補的な塩基が互いを認識して結合することや、それらの塩基が作る二重らせんが、その構造や情報を保持することを初めて体系的に実証したものだ。

Bennerのチームは、本来の塩基の分子構造に手を加えることで、水素結合で対を作る人工の塩基を作り出した。それぞれの塩基は水素原子を含んでおり、それが結合相手の塩基の窒素原子もしくは酸素原子に引き寄せられる。Bennerによれば、これらはレゴのブロックで凹凸をかみ合わせるようなものだという。

研究チームは、これらの凹凸を調整することで新しい塩基対をいくつか作り出した。それらはSとBや、PとZ(M. M. Georgiadis et al. J. Am. Chem. Soc. 137, 6947–6955; 2015)の対などで、いずれも4種類の天然型塩基に似ている。今回のScience の論文でBennerらは、これらの人工塩基4種類(SとB、PとZ)と天然型塩基4種類をどのようにして組み合わせたかを記述している。

Bennerらは続いて一連の実験を行い、人工塩基を加えて作り上げた人工DNAが、生命活動に必須な特性を天然型DNAと共有していることを示した。研究チームは人工DNA分子を数百個作り出し、それらを作る塩基が予想通りの塩基と結合していることを見いだした。この点は、遺伝情報を確実に保存する上で重要だ。Bennerらは次に、人工塩基を含むDNA二重らせん構造が、人工塩基が何番目にあっても安定したままであることを示した。この点は進化の面で重要である。DNAは塩基配列が変わっても二重らせん構造を崩さずにいられる必要があるからだ。研究チームは、3種類の人工DNAが結晶化しても構造を保持することを、X線回折による結晶構造解析によって示した。

この成果はかなり大きな進展だと、MRC分子生物学研究所(英国ケンブリッジ)の合成生物学者Philipp Holligerは言う。対の形成に水素結合を用いない疎水性分子を塩基として使う他の方法では、こうした塩基を天然型塩基の間に間隔を空けて配置することは可能だが、連続させるとDNA構造が崩れてしまうのだ。

最後に、研究チームは作った人工DNAが正確にRNAに転写されることを示した。転写は、遺伝情報をタンパク質に翻訳する上で重要な段階の1つだ。「情報を保存する能力は、進化の面から見てさほど興味深いものではありません。その情報を、実際に何らかの働きを持つ分子に受け渡せることが重要なのです」とBennerは話す。彼のチームは、転写が起こることを実証するため、タンパク質の鋳型になるのではなく、特定の分子に結合して活性化する「アプタマー」と呼ばれるRNA配列をコードする人工DNAを作り出した。ここから転写されたRNAは、蛍光分子に結合して活性化することができた。

Bennerのチームはさらに新しい塩基の対を開発しており、10文字DNA、さらには12文字DNAでさえも生み出せる可能性が見えてきた。しかし、Bennerらが今回すでにDNAの塩基を8種類まで増やしたこと自体、驚くべきことだとRomesbergは話す。「この研究で、塩基の種類は早くも天然型DNAの2倍になっているのですから」。

Holligerによれば、今回の研究は刺激に満ちた出発点となるが、真の「8文字遺伝系」と言える段階に至るまでには、まだかなりの距離があるという。例えば1つの重要な疑問は、生体内で細胞分裂時にDNA合成を担うポリメラーゼという酵素によって、人工DNAが複製され得るのかどうかだ。

(翻訳:船田晶子)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度