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明らかになってきた細胞の老化像

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190527

原文:Nature (2019-02-07) | doi: 10.1038/d41586-018-07553-0 | Inhibition of ‘jumping genes’ promotes healthy ageing

Bennett Childs & Jan van Deursen

レトロトランスポゾンと呼ばれるDNA塩基配列は、自身のコピーをゲノムの別の部位に再び組み込むことができるが、これはDNA損傷につながることがある。今回、この過程を阻害することで加齢に伴う健康の衰えを防げる可能性があることが、マウスでの研究で示された。

老化した組織1や病変が生じた組織2には、老化と呼ばれる状態に入った細胞が含まれることが多い。老化細胞は、分裂を停止し、細胞死誘導経路に抵抗性になるだけでなく、炎症性、タンパク質分解性などの生物活性を有する一連の因子を分泌して、組織の機能を障害し得る。老化細胞が分泌するこれらの因子群は、老化関連分泌表現型(SASP)と総称される。老化細胞のこのような性質から、老化に伴う疾患と闘うためにSASPを標的とすることに関心が集まっている。しかし、SASPの構成はさまざまであり、老化細胞が存続している間に変化する可能性がある3。また、SASPの発生・進行に関与するドライバー分子は完全に明らかになっているわけではない。このほどブラウン大学(米国ロードアイランド州プロビデンス)のMarco De Ceccoらは、老化「後期」のSASPに関与する重要な要因が、レトロトランスポゾンと呼ばれる休止状態のDNA塩基配列の再活性化であることを突き止め、Nature 2019年2月7日号73ページで報告した4

レトロトランスポゾンは、しばしば「ジャンピング遺伝子」と呼ばれる。レトロトランスポゾンはメッセンジャーRNAへ転写されると、逆転写酵素を使って元のレトロトランスポゾンと同一のDNA塩基配列を作り出す。そしてこのDNAは、ゲノムの別の部位に再び挿入されるのだ。レトロトランスポゾンはヒトゲノムの約42%を占めているが、そのほとんどは変異によりジャンピング機能が不活化されている5。ジャンピング機能を維持しているレトロトランスポゾンについては、それを防ぐために、タンパク質あるいはRNAを基盤とする調節機構によって、その転写が抑制されていなければならない。というのは、ジャンピングによって遺伝的変異やゲノム不安定性が引き起こされることがあり、がんにつながる可能性があるからだ6。しかし、レトロトランスポゾンは、加齢に伴って再び活性化されることがある7

De Ceccoらは、ヒト細胞が老化により分裂を停止してから16週以内に、LINE-1という1つのタイプのレトロトランスポゾンが高度に活性化されることを見いだし、この段階を老化後期と名付けた。De Ceccoらはまた、通常LINE-1の活性化が抑制されているのは、転写抑制タンパク質RB1が高レベルで発現している一方で、転写活性化タンパク質FOXA1は低レベルでしか発現していないためであることを示した。老化後期の細胞では、この2つのタンパク質の発現が異常になり、LINE-1が再び活性化されるようになる(図1)。

図1 老化の初期から後期まで
老化細胞は分裂を停止し、さまざまな炎症性タンパク質を分泌する。この現象は、老化関連分泌表現型(SASP)として知られる。De Ceccoら4は、経時的なSASPの変化を報告した。
a 老化初期には、(LINE-1などの)レトロトランスポゾンと呼ばれるDNA塩基配列の発現は、転写活性化タンパク質FOXA1のレベルが低いことと、転写抑制タンパク質RB1のレベルが高いことにより抑制されている。そのためレトロトランスポゾンから産生されたメッセンジャーRNAのレベルは低いが、細胞質に入ると逆転写と呼ばれる過程を経てDNAが作り出される。このDNAはタンパク質TREX1によって分解されるので、レトロトランスポゾンは老化初期のSASPには影響を及ぼさない。老化初期SASPにはIL-1βを含むタンパク質の発現と分泌が関与している。
b 老化後期には 、RB1とTREX1のレベルが低下し、FOXA1のレベルが上昇する。その結果、細胞質ではLINE-1 DNAが増加するようになる。このDNAは、サイクリックGMP–AMPシンターゼ(cGAS)やSTING(Stimulator of Interferon Genes)タンパク質が関与する経路に感知され、インターフェロンαやインターフェロンβをコードするIFN遺伝子群の転写につながる。これらのインターフェロンタンパク質は老化後期のSASPに関与し、他のSASP因子群の発現を支える。 | 拡大する

この老化後期SASPにおいては、インターフェロンαおよびインターフェロンβと呼ばれる2つの炎症性タンパク質が分泌される。これらのシグナル伝達タンパク質は、cGAS–STING経路と呼ばれる太古からの抗ウイルス機構の一部であり、この経路は細胞質内にDNAが存在することによって活性化される。ウイルスDNAが細胞質に存在すると、cGAS–STING系はインターフェロンタンパク質群や関連するタンパク質の産生を開始し、それらが組み合わさって感染細胞をアポトーシスと呼ばれる細胞死経路に送り込むことで、感染の拡大を防いでいる。このcGAS–STING経路は、これまでに老化と関連があることが示されている8,9。というのは、老化細胞ではDNA分解酵素であるTREX1の産生レベルが異常に低い10ため、老化細胞の細胞質にはDNAが蓄積するのだ。しかし、老化細胞の細胞質に蓄積するDNAの供給源は完全に明らかになっているわけではなかった。

レトロトランスポゾンの起源は太古の感染ウイルスであるため、レトロトランスポゾンはcGAS–STING経路を活性化できる11。De Ceccoらは、老化細胞に存在する細胞質DNAは、少なくともその一部が、再活性化されたLINE-1エレメントから生じていることを示した。研究チームは、老化後期にはTREX1レベルが異常に低いため、細胞質にLINE-1由来のDNAが蓄積できることも確認した。また、RNA分子を用いてLINE-1の転写を阻害する、あるいはラミブジンと呼ばれる薬剤を用いて逆転写を阻害すると、老化後期にインターフェロン応答が引き起こされることはなかった。このようなLINE-1阻害は、老化「初期」に見られるSASPタンパク質であるIL-1βの産生や、老化に伴う細胞周期停止には影響を及ぼさなかったが、細胞の老化後期において、他のSASP因子(CCL2、IL-6、MMP3などのタンパク質)の消失を引き起こした。このことから、老化後期のインターフェロン応答は、長期にわたってSASPを持続させるのに必要であるが、老化初期のSASPには必要でないと考えられた。

次にDe Ceccoらは、老齢マウスにおいてレトロトランスポゾンの転写がin vivoの後期SASPを促進することを示した。その上、20~26月齢のマウスにおいてラミブジンを用いてレトロトランスポゾンの逆転写を阻害すると、腎臓の血液濾過系の変性や骨格筋繊維の萎縮、慢性炎症の特徴など、老化に関連する幾つかの病状の発生を防ぐことができた。

さらにDe Ceccoらは一連の実験において、LINE-1エレメントがコードするタンパク質ORF1が、老齢のヒトの皮膚の老化細胞に特異的に発現しているが、全ての老化細胞がORF1を発現しているわけではないことを明らかにした。研究チームはin vivo実験を組み合わせることで、マウスにおいてLINE-1の発現が他の老化マーカーの発現よりもピークに達するのが遅いことを明らかにし、またin vitroのデータから、マウス細胞はラミブジンの存在下でも老化状態に入り得ることを実証した。これらのデータから、LINE-1の再活性化は、老化の原因というよりも結果であると考えられる。

この研究がヒトの生物学に与える影響は、推測ではあるが期待に満ちている。例えば、ウイルス感染細胞を死滅させるためにはインターフェロン応答が重要であることから、この応答が体から老化細胞を除去する生得的な能力の中心となる役割を担っている可能性が浮かび上がる。しかし、老化後期のSASPの機構が一般的にヒトに適用されるかどうかを決定するためには、老化した、あるいは病変が生じたヒト組織のさらに徹底的な調査が必要だと考えられる。

老化細胞は、高齢になってさえ稀にしか存在しない2,3。それにもかかわらず、これらの細胞やSASPを除去すると、加齢に伴う健康の低下を防ぐことができるという報告がある1(2016年4月号「老化細胞を除去したマウスは長生き」参照)。そのため、老化細胞を死滅させて除去する戦略(senolytic手法)、あるいは老化細胞を修飾して回復させる戦略(senomorphic手法)に注目が集まっている。最初の老化細胞除去薬は、抗アポトーシスタンパク質Bclを阻害するもので、一般的に有効性が確認されている12(2018年1月号「ゾンビ細胞を退治して若さを保つ」参照)。また今回のDe Ceccoらの研究で、ラミブジンが老化細胞回復薬としての作用を有することが実証された。

老化細胞回復薬は、SASPを抑制するために薬剤が存在し続ける必要があると考えられるため、老化細胞除去薬よりも高頻度での投与が必要かもしれない(老化細胞除去薬は、老化細胞を完全に除去するので、老化細胞がまた蓄積するまでさらなる治療の必要がない)。だがラミブジンは、他の老化細胞回復薬とは異なり、ヒトで実際に長期にわたる抗レトロウイルス療法に用いられていて、重大な副作用が見られていないことから有望だと考えられる。一方、SASPを減弱させるラパマイシンのような老化細胞回復薬には、副作用として強力な免疫抑制作用が伴う13。ただし現時点ではまだ、ラミブジンが健康なヒトの寿命を延長するという報告も、あるいはラミブジンがヒトにおいてレトロトランスポゾンを抑制するという結果も得られていない。

老化細胞回復薬のリスクの1つとして、がんの発生が考えられる。病変が生じた、あるいは損傷を受けた細胞は老化することで増殖しなくなるため、老化は腫瘍抑制において有益な役割を担う場合があるからだ。De Ceccoらの細胞培養実験から、ラミブジンは、老化がもたらす有益な影響の要である「細胞周期停止」を妨げないことが示された。しかし、ラミブジン投与を受けたマウスは6カ月しか追跡されていない。この治療法ががんのリスクを上昇させないことを証明するには、in vivoで長期にわたる追跡調査が必要である。それが確認できれば、今回の研究は、老化細胞の蓄積と結び付けられている疾患(変形性関節症やアテローム性動脈硬化症など)と闘う方法として、逆転写酵素の阻害剤を用いる道を開く可能性があり、恐らくはcGAS–STING経路の阻害剤においても同様の可能性が考えられる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Bennett Childs & Jan van Deursenは、メイヨークリニック(米国ミネソタ州ロチェスター)に所属。

参考文献

  1. Baker, D. J. et al. Nature 530, 184–189 (2016).
  2. He, S. & Sharpless, N. E. Cell 169, 1000–1011 (2017).
  3. van Deursen, J. M. Nature 509, 439–446 (2014).
  4. De Cecco, M. et al. Nature 566, 73–78 (2019).
  5. Cordaux, R. & Batzer, M. A. Nature Rev. Genet. 10, 691–703 (2009).
  6. Scott, E. C. & Devine, S. E. Viruses 9, 131 (2017).
  7. De Cecco, M. et al. Aging 5, 867–883 (2013).
  8. Li, T. & Chen, Z. J. J. Exp. Med. 215, 1287–1299 (2018).
  9. Glück, S. et al. Nature Cell Biol. 19, 1061–1070 (2017).
  10. Takahashi, A. et al. Nature Commun. 9, 1249 (2018).
  11. Brégnard, C. et al. EBioMedicine 8, 184–194 (2016).
  12. Chang, J. et al. Nature Med. 22, 78–83 (2016).
  13. Laberge, R.-M. et al. Nature Cell Biol. 17, 1049–1061 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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