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学術界サバイバル術入門 — Training 8:論文掲載の戦略

Credit: macrovector/iStock/Getty Images Plus/Getty

「森の中で1本の木が倒れたとき、周りにそれを聞く人が誰もいなかったら、音はするのだろうか?」という有名な問い掛けがあります。これは研究にも言えることだと私は思います。「いくら優れた研究をしても、誰もそのことを知らなければ、その研究に影響力はあるのだろうか?」

影響力。それこそが研究における目標です。あなたは自分の分野における重大な問題を特定して、それを解決しようとしています。もしそれができれば、あなたは影響力を持ち、名声を築くことができるでしょう。人々は、あなたの考え方に影響を受け、あなたの研究をさらに発展させていくことでしょう。他の研究者たちから共同研究をもちかけられたり、学会の組織委員から講演を依頼されたりするだけでなく、あなたの研究企画書に研究資金提供機関がゴーサインを出す可能性もぐっと高まるでしょう。

ただし、これらの目的を達成するためには、研究成果を効果的に出版するための効果的な論文掲載戦略が必要です。最初に、研究を発表するのに最適な学術誌を選ぶ必要があります。2番目に、印象的なカバーレター(添え状)を書いて、投稿先の編集者にあなたの論文の掲載が適切であると納得させる必要があります。3番目に、査読の過程を首尾よく通過して、論文を徹底的に修正する必要があります。そして、最後に、論文掲載後に広く読まれるように宣伝し、その影響力をチェックする必要があります。今回は、最初の2つのステップに焦点を合わせ、残りの2つについては、次回に詳しくお話しするつもりです。

適切な学術誌を選ぶことは、あなたの研究のために下す決断の中で最も重要なものの1つでしょう。論文は1度しか発表することができないからです。最初に自分自身に問うべき質問は、「対象となる読者は誰か?」です。影響を与えたいのはどのような人々なのか? あなたの研究に興味を持ち、役に立つと思ってくれる人は誰なのか? 共著者たちと相談の上、読者層を絞り込んだら、あなたの考えを最もうまく読者に橋渡ししてくれる学術誌を選びます。

しかし、学術誌の選択肢は多いので、効率的な戦略が必要となります。まず、あなたの研究にふさわしいと思われる学術誌の候補リストを作りましょう。あなたの研究に関連した論文が多く発表されている学術誌の中から選択するとよいでしょう。つまり、あなたが普段よく読んでいる学術誌から選べばいいのです。また、あなたの研究に関連するキーワードをPubMed1やWeb of Science2などのデータベースで検索すれば、あなたの研究に似た研究を掲載した学術誌が一覧として表示されます。それから、例えばSpringer Nature Journal Suggester3、Journal Guide4、Open Access Journal Finder5のような無料のオンライン学術誌選択ツールでは、キーワード検索により学術誌を見つけることができます。

次のステップでは、学術誌の候補リストを以下の6事項に基づいて評価します。

  1. 目的と範囲
  2. 類似の論文
  3. 論文検索データベースの索引
  4. 掲載モデル
  5. 掲載までの期間
  6. 選択性

これらの6項目に従って評価した後に、真剣に考慮すべき学術誌を3〜4冊に絞ります。共著者と話し合って、どの学術誌に一番先に投稿するか、2番目、3番目はどれにするかを決めます。次に、これら全ての著者ガイドラインを読んで、できるだけこの3つの学術誌の全てに合う原稿を書くことが重要です。第一候補の学術誌で不受理となっても、次の学術誌に投稿する際に書き直す手間を省くことができます。

最後に、信頼できる学術誌を選んでいるかどうかを確認するのに役立つサイトThink. Check. Submit6を紹介しましょう。この無料のサイトには、信頼できる学術誌の選び方に関する情報や、論文を不安なく投稿できる学術誌を特定するのに役立つチェックリストが掲載されています。

NatureCell のように専任の編集者がいる出版社では、編集者があなたの論文を読むために時間を割くと確信できます。しかし、ほとんどの学術誌は、アカデミック編集者と呼ばれる人々が論文を読みます。アカデミック編集者は、大学や研究所などでフルタイムの仕事をしており、編集の仕事はボランティアベースで1週間当たり数時間程度しか行うことができません。彼らは、学術誌の発行だけでなく大学や研究所においても多くの責任を負っているので、各論文の査読に割ける時間は非常に限られています。ですから、あなたの研究がその学術誌にふさわしいということを最短時間で最大のインパクトをもって強調するために、印象的なカバーレターを書く必要があります。

カバーレターは1ページに収め、次に挙げる要点を押さえるようにしましょう。そして、パラグラフは短くして、1パラグラフで1つの要点を強調します。また、編集者があなたのトピックについて専門知識を持っているとは限りませんから、論文の本文などで使うような専門的な用語をなるべく減らして、より一般的な言葉を使いましょう。

  • パラグラフ1「紹介」
  • パラグラフ2「内容」
  • パラグラフ3「成果」
  • パラグラフ4「適合性」
  • パラグラフ5「倫理」

上記以外にも、考えるべきポイントがいくつかあります。例えば、あなたがこの研究について、学会または投稿前の問い合わせ(presubmission enquiry)7で編集者の1人と議論したことがあるなら、カバーレターに書いておくべきです。それによって、編集者が最初にこの研究に興味を示し、強い第一印象を受けたことを思い出す助けになるからです。さらに、あなたの論文が以前にArXiv8やBioRxiv9などのプレプリントサーバーで共有されたかどうかも述べるべきです。これが、あなたの論文を受理するかどうかの編集上の決定に影響を与えることはありませんが、学術誌側にとっては知っておきたい重要な事項です。査読後には、プレプリントサーバーにあるあなたの論文を、その学術誌に掲載するために改訂した論文原稿で差し替えてはならないことを覚えておいてください。最後に、あなたの研究の何がユニークなのかを念頭に置きましょう。あなたはその分野で強い関心を持たれるであろう新しい方法を使用しましたか? あなたは観察された現象について興味深い機構的洞察を明らかにしましたか? あなたの研究には、学問的な影響に加えて、社会に与える重要なインパクトがあるでしょうか? これらは、あなたの競争相手と比べて、あなたの研究がより重要であることを強調し、編集者が彼らの学術誌にあなたの論文を掲載することがより適切であると決断するのを助けるでしょう。

これらのヒントに従えば、あなたは、研究成果の発表に最もふさわしい学術誌を選ぶことができるだけでなく、編集者にあなたの研究の価値を気付かせ、原稿を査読者に送る可能性を高めることでしょう。次回は、査読の過程をうまく通過する方法、そして発表後にあなたの論文を広く読まれるよう宣伝する方法についてお話しします。では、また次回に。健闘を祈ります!

(翻訳:古川奈々子)

学術誌の候補リストの作り方

1. 目的と範囲

学術誌のaims and scope(目的と範囲)を慎重に検討して、あなたの研究と類似する研究を発表することを目的とする学術誌はどれか、論文のタイプは適切かを見極めます。

2. 類似の論文

学術誌のウェブサイトの検索ページで、あなたの研究に関連するキーワードを入力して、その学術誌があなたの研究と同様の論文をいつ発表したかを確認しましょう。それが最近ならば、編集者は現在、あなたのトピックに興味を持っていると思われます。

3. 論文検索データベースの索引

候補の学術誌が、同分野の研究者たちが論文検索に使う適切なデータベースの索引に登録されていることを確認しましょう。

4. 掲載モデル

論文が多くの人に読まれるためには、あなたの研究をどのような形(購読誌またはオープンアクセス)で発表するのが適切かを決めましょう。

5. 掲載までの期間

掲載までの期間が分かっているなら、より効率的に短期間で掲載される学術誌を選ぶことを考慮した方がいいかもしれません。

6. 選択性

あなたの研究の新しさと影響力が、その学術誌の選択性に合っているかを確認する必要があります。選択性が高い学術誌、例えばNatureなどは、その分野の画期的な研究結果に興味を持っているため、採択率が低いです。

カバーレターの構成

パラグラフ1「紹介」

論文のタイトルと、その学術誌で関連する論文のタイプを紹介しましょう。

パラグラフ2「内容」

あなたの研究のトピックを紹介します。その研究が現在その分野においてどれほど重要か、あなたの研究の動機となった重要な疑問は何か、そして最後にその疑問を解決するために行った研究の目的を強調しましょう。

パラグラフ3「成果」

簡潔に研究計画について説明し、研究で得られた最も重要な結果を2つ明示しましょう。

パラグラフ4「適合性」

特定された疑問を解決する結論を述べ、あなたの研究で示唆された知見が、なぜその学術誌と読者に直接関連しているかを明確に説明しましょう。役立つヒントとして、このパラグラフではaims and scopeから抜き出したキーワードやフレーズを強調して、あなたの研究がこの学術誌に掲載されるにふさわしいことをさらに示すといいでしょう。

パラグラフ5「倫理」

独創性やオーサーシップ、利害の対立などの出版倫理に関する免責事項を述べるとよいでしょう。必ず、その学術誌の著者ガイドラインに目を通して、編集者が論文に明記することを要求している特定の項目があるかどうかを確認しましょう。

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190517

参考文献

  1. www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed
  2. www.webofknowledge.com
  3. journalsuggester.springer.com
  4. www.journalguide.com
  5. www.enago.com/academy/journal-finder
  6. thinkchecksubmit.org
  7. www.nature.com/nature/for-authors/presub
  8. arxiv.org
  9. www.biorxiv.org