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脳の特定部分に介入

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190406b

超音波ビームで薬剤放出。

神経科学者が、人間の脳を調べたり病気を治療したりするのに使えるツールは限られている。手術や電極の挿入は、侵襲性が高過ぎる。磁気刺激などの非侵襲的な方法もあるが、こちらは正確性に欠ける。これに対しスタンフォード大学(米国)の神経放射線科医Raag Airanらは、脳の小さな領域をピンポイントで非侵襲的に操作できる方法を実証した。

Airanは、長年かけて開発した技術が、必要な精度で機能することを示し、2018年11月にNeuron に報告した。この方法では薬剤分子を詰めたナノ粒子の“かご”を血流に注入する。その後、焦点を合わせた超音波ビームを目的の場所に当ててその場にあるかごを揺さぶり、薬剤を放出させる。薬剤分子は血液脳関門(脳の動脈にある膜で、小分子だけを通す)を通り抜け、脳のその部分だけで脳機能に直接作用する。

ラットを用いた実験では、超音波ビームが集中する3mm角の範囲に薬(麻酔薬を使った)の作用を限定できた。ラットの目に光を当てながら超音波をラットの脳の視覚野の一部に照射した実験で、スイッチを入れると超音波ビームの当たった部分の活動が低下し、超音波刺激を止めると10秒以内に麻酔が切れて元に戻った。

「空間的にも時間的にも精密で、脳内の狙った場所に局所的に介入できるというのは素晴らしい」と、サニーブルック研究所(カナダ)の神経外科医Nir Lipsman(この研究には加わっていない)は言う。実験ではこの他、標的部位と接続している離れた場所で代謝活性が低下するのが観察された。この方法を脳回路のマッピングに使える可能性があることを示している。

また、この方法によって組織が損傷した形跡は認められなかった。「安全性も上々です」とLipsmanは評する。今回の実験はまだ概念実証の段階だが、臨床応用を急ぐべきだとAiranは言う。超音波は医療分野ですでに一般的に使われており、ナノ粒子は放射線科やがん治療でよく使われている化学物質でできている。「後は、これらを組み合わせても危険ではないことを証明するだけでよく、1〜2年のうちに人間で初の試験を実施したいです」とAiranは言う。

(翻訳:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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