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再プログラム化したヒト膵α・γ細胞でインスリン産生

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190403

原文:Nature (2019-02-13) | doi: 10.1038/d41586-019-00578-z | Human cells reprogrammed to create insulin

Matthew Warren

通常はインスリンを産生しない膵細胞を、インスリン産生細胞に改変できることが報告された。さらに、この細胞を移植した糖尿病マウスで、糖尿病の回復が確認された。

膵島(中央)。 | 拡大する

STEVE GSCHMEISSNER/Science Photo Library/Getty

血中のグルコース量を調節するホルモン「インスリン」を産生する膵臓の細胞が破壊されると、糖尿病につながることがある。このほど、インスリンを通常は産生しないヒト膵細胞(α細胞およびγ細胞)を再プログラム化してアイデンティティーを変化させると、インスリンを産生できるようになることが示された。改変細胞を糖尿病マウスに移植すると症状が軽減されたことから、この方法は将来ヒトの治療に応用できる可能性がある。この成果は、ジュネーブ大学(スイス)のPedro HerreraらがNature 2019年3月7日号で報告した1

リンカーン大学(英国)の生物学者Terence Herbertは「この手法は非常に大きな可能性を秘めています。しかし、まだ初期段階です。この技術を臨床で使用するまでにはいくつかの障害を克服しなければなりません」と言う。

血糖値を制御する系の破壊

食後に血糖値が上昇すると、通常、それに応答してβ細胞と呼ばれる膵細胞がインスリンを放出する。インスリンは次に、細胞を刺激して糖の吸収を開始させる。糖尿病の患者では、血糖値を制御するこの一連の系のどこかに不具合があるため、高血糖が生じて、体が傷害されたり、疾患が引き起こされたりすることがある。1型糖尿病では、β細胞が免疫系からの攻撃により破壊される。2型糖尿病では、β細胞のインスリン産生が十分ではない、あるいは、インスリンが十分に産生されていても効果を発揮できない状態(インスリン抵抗性と呼ばれる)になっている。

マウスでは、β細胞が破壊されると、α細胞と呼ばれる別の種類の膵細胞がβ細胞様になり、インスリンの産生を開始することが2010年に報告された2。α細胞は、通常、ホルモンであるグルカゴンを産生していて、膵島(別名、ランゲルハンス島)と呼ばれるホルモン分泌細胞群の中にβ細胞と並んで存在している。これまでの研究で、マウスのα細胞にインスリンを産生させるカギと考えられる遺伝子を制御するのは、2つのタンパク質(Pdx1およびMafA)であることも示されている。

膵島様の細胞塊(pseudoislet)において、Pdx1とMafAをコードするDNAを導入したヒト膵α細胞(下)は、グルカゴン(青)も産生するが、グルコースに応答してインスリン(赤)も産生するようになった。上列は対照群。 | 拡大する

Ref.1

Herreraらは、この2つのタンパク質をヒトのα細胞で産生させると同様の効果が見られるのか知りたいと考えた。

そこでまず、ヒトの膵臓から膵島細胞を採取し、それぞれの種類の細胞に分離した後、α細胞にPdx1とMafAをコードするDNAを導入して「再プログラム化」を行った。その後、ニッチ細胞を混ぜて膵島様の細胞塊を形成させた。

培養1週間後、再プログラム化を行ったヒトα細胞の約40%がインスリンを産生したが、再プログラム化を行わなかった対照細胞はインスリンを産生しなかった。また再プログラム化された細胞では、β細胞に関連する他の遺伝子の発現も上昇していた。「このα細胞は、α細胞とβ細胞の両方の性質を備えたハイブリッド細胞です」とHerreraは言う。

次にHerreraらは、この細胞塊を、β細胞が破壊されている糖尿病マウスに移植した。すると、血糖値は正常レベルに低下した。移植細胞を除去すると、マウスの血糖値は再び上昇した。

Herreraは、「この方法により、糖尿病患者の生活の質を大きく改善できる可能性があります。夢は、α細胞のアイデンティティーを切り替えられる薬剤を見つけ出すことです」と言う。

しかしHerreraは、どんな種類の治療も実現にはほど遠いと言う。研究チームは、まずは、α細胞がよりβ細胞に近づく際に分子レベルで何が起こっているかを解明する必要があると考えている。

他のチームも、膵臓内で新しいインスリン産生細胞を作り出す方法を模索している。いくつかの研究チームは、幹細胞からβ細胞を作り出そうとしている。しかし、1型糖尿病では免疫系がβ細胞を攻撃するので、このような戦略には課題がある。

Herreraらは、この再プログラム化α細胞について、1型糖尿病自己反応性T細胞に対する免疫原性がβ細胞よりも低いことを示している。つまり、この細胞は免疫系からの攻撃をβ細胞ほど受けないのだ。このことからHerreraの方法は、幹細胞を用いる手法よりもβ細胞作製の方法として実現可能性が高いかもしれない。

一方、Herbertは、Herreraらの手法の有効性について確実な結論を出す前に、1型糖尿病患者に存在する他の自己抗体を用いてこの再プログラム化α細胞を調べる必要があると指摘する。

膵臓の可塑性

ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)の膵島生物学者Inês Cebolaは、「膵細胞は、実際に適切なβ細胞にならなくても、何とかインスリンを産生できるということに興味を持ちました。とても衝撃を受けました」と言う。ゲノム調節センター(スペイン・バルセロナ)の膵島生物学者Diego Balboa Alonsoも、「Herreraの研究から、ヒトの膵臓のホルモン系には従来考えられていたよりも可塑性があることが実証されました。素晴らしい研究だと思います」と彼は言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Furuyama, K. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-019-0942-8 (2019).
  2. Thorel, F. et al. Nature 464, 1149–1154 (2010).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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