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免疫療法に反応しやすい腫瘍を見分ける方法

Credit: STEVE GSCHMEISSNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty

多数のDNA変異がある腫瘍は、変異が少ない腫瘍よりも、チェックポイント阻害剤による免疫療法に良好な反応を示し、免疫療法を受けた人の生存期間の延長と関連することが示唆された。一連の証拠は2019年1月14日に、Nature Genetics で発表された1。だがこの研究結果は、このような手法を信頼できる検査として臨床へ橋渡しすることの難しさも浮き彫りにした。

免疫療法は重篤な副作用を引き起こす場合があるため、最も良好な反応を示す人を選択する方法が探し求められている。だが免疫系は複雑であり、治療に反応しやすい腫瘍と、治療を無傷で回避できる腫瘍を決める要因を明らかにするのは難しい。

腫瘍が正常組織と遺伝学的に異なっているほど、免疫系は腫瘍を認識して排除する可能性が高いとする1つの仮説がある。今回、スローン・ケタリング記念がんセンター(米国ニューヨーク)のがん研究者Luc Morrisらは、チェックポイント阻害剤を用いた治療を受けた患者約1600人の進行がんについて、DNA塩基配列を解析した。さらに、この治療を受けていない患者約5300人の進行がんのDNA塩基配列も解析した。この研究では、黒色腫や乳がんを含む10種類のがんを調べた。

Morrisらは、これらのがんの大部分において、腫瘍変異量(TMB)レベルが高い方が、チェックポイント阻害剤に良好な反応を示す可能性が高いという関連を見いだした1。この知見は、最近報告された他の予備的な研究の結果とも一致している2

今回のデータから、免疫療法への良好な反応が予測されるTMBレベルは、がんのタイプによって異なることも分かった。この手法を臨床検査に応用する際には、がんのタイプ別にTMBの閾値を設定する必要があるかもしれない。

非常に複雑

これは克服できない難題ではないが、患者を選択するための検査はすでに複雑で、それをさらに複雑にする可能性がある。腫瘍ゲノム中の変異を計算するには、全ゲノムあるいはゲノムの特定の部分の塩基配列解読を行わなければならない。DNA塩基配列解読法が異なっていたり、結果として得られるデータを解釈するためのアルゴリズムが異なっていたりすると、矛盾する結果が導かれることがある。また、全ての変異を等しく評価すべきであるのか、あるいは一部の変異が他の変異よりも免疫応答を引き起こす可能性が高いかどうかについては明らかになっていない。

このような問題は未解決だが、「いくつかの製薬会社は、自社が開発中の免疫療法の臨床試験で、患者を選択する検査にTMBの測定を加え始めています」と、コーウェン投資銀行(米国マサチューセッツ州ボストン)のバイオ技術分析家Chris Shibutaniは言う。しかし、この手法を検討中の企業の1つ、ブリストル・マイヤーズスクイブ社(米国ニューヨーク)では、TMBで選択した患者に生存期間の延長は見られなかった。Shibutaniはこの結果について、TMBレベルの高・低の線引きをどこで行ったかなど、多数の要因に起因する可能性があると指摘する。

またMorrisは、「全生存期間の結果は、臨床試験中に対照群から免疫療法群に変更になった参加者によって影響を受けたかもしれません。チェックポイント阻害剤による治療で、患者の全生存期間に差がなかったとしても、TMBレベルが低い患者より、TMBレベルが高い患者の方が腫瘍の増殖が抑制された可能性があります」と言う。

Shibutaniは、TMBレベルや特定のタンパク質の濃度に関する情報など、複数の特性を組み合わせて評価することを考えている。「これは『KISSの原則(簡潔性は成功へのカギ)』のまさに反対なのです。当然、やるべきことは、より多くなるのです」。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190402

原文

Highly mutated cancers respond better to immune therapy
  • Nature (2019-01-14) | DOI: 10.1038/d41586-019-00143-8
  • Heidi Ledford

参考文献

  1. Samstein, R. M. et al. Nature Genet. https://doi.org/10.1038/s41588-018-0312-8 (2019).
  2. Rizvi, H. et al. J. Clin. Oncol. 36, 633–641 (2018)