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グリーンランドの氷河下からメタンが放出されている

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190433

原文:Nature (2019-01-03) | doi: 10.1038/d41586-018-07762-7 | Methane beneath Greenland’s ice sheet is being released

Lauren C. Andrews

グリーンランド氷床下の堆積物中で生成するメタンが、夏季の融解水によって大気中に放出されていることが報告された。この結果は、氷河の融解がこの温室効果ガスの重大な全球的ソースとなっている可能性を示唆している。

図1 堆積物に富む融解水の流出(グリーンランド・ラッセル氷河)
Lamarche-Gagnonら1は、写真のような氷河末端からの流出水に、多くの地上河川と同等の濃度のメタンが含まれていることを明らかにした。 | 拡大する

JEREMY HARBECK/NASA

氷河や氷床の下に存在する堆積物には炭素が蓄積されており、ある条件の下で、それは強力な温室効果ガス「メタン」に変換される。しかし、そうしたメタンの形成と放出は、北極のメタン収支の要素として定量化されていない。Nature 2019年1月3日号の73ページでは、Guillaume Lamarche-Gagnonらが、夏季のグリーンランド氷床において、海岸まで到達しない氷河から流出する水に溶解しているメタンを直接測定した結果を発表している1。氷河末端流出水(proglacial discharge;図1)として知られるこの水はメタンが過飽和状態となっており、この流出水から大気中に放出されるメタンの量は、他の地上河川から放出されるメタンに匹敵する。この研究結果は、氷河下水文系の様態と進化が、北極のメタン循環の制御に寄与することを示唆している。

大気中のメタン濃度は過去に大きく変動しており、炭素に富む堆積物、氷河下の高い圧力、酸欠状態、および低温がそろうと、大量の貯蔵メタンが形成されて氷床や氷河の下に閉じ込められるのではないかと考えられている2。氷河が後退してこのメタンが急激に放出されると、急激な温暖化が引き起こされる可能性があるが3、将来そうした氷河メタンの大規模な放出が起こり得るかどうかについては議論がある4

氷河下の堆積物がメタンのソース(排出源)なのかシンク(吸収源)なのかに関して、野外観測で得られた証拠はどっちつかずだ。南極西部で行われた氷床コアの掘削では、氷河末端および氷河下の堆積物にメタン生成微生物が発見されたが5、南極の氷底湖堆積物6や氷河末端堆積物7の分析結果は、生成するメタンのほぼ全量が細菌による酸化で消費され、大気中には放出されないことを示している。つまり細菌によるこのメタン循環は、氷河下水文系がメタンシンクとして振る舞う可能性を示唆している。

Lamarche-Gagnonらは、グリーンランドのよく調べられたある氷底集水域(1つの共通の流出点に流れ込む氷底水の範囲)においては、氷河下の微生物によるメタンの酸化が大気中へのメタン放出の抑制には不十分であることを明らかにした。これにより、氷河下の堆積物は局地的なメタンソースとして振る舞うものと考えられ、氷河下のメタンに関する他の最近の研究8,9の結果が裏付けられた。Lamarche-Gagnonらはさらに、グリーンランドの氷河下環境からの連続的なメタンフラックス(流束)が、氷河下融解水の流出効率によって変化することも突き止めた。

グリーンランド氷床の末端付近の氷河水文系は、メタンを搬出しやすいものになっていると考えられる。冬季には、前の夏の融解水の一部が、動きのない氷河下水文系に貯蔵される10。Lamarche-Gagnonらは、冬季にこのように貯蔵されることで、融解水が無酸素環境で堆積物と相互作用し、それによって融解水のメタン濃度が上昇する、という仮説を立てた。

春季の氷河下水文系は、氷面融解水がクレバスや氷河甌穴(ムーランとも呼ばれる。融解水により氷河の表面に形成された管状の縦穴で、ほぼ鉛直方向に延びており、融解水を氷床底へと導く流路の1つ)から流れ込んで増水し、再び活動的になる。この増水によって氷の動きが大きくなることは知られていたが11、Lamarche-Gagnonらはさらに、これによりメタンに富む氷河下の水が氷縁へと押し流されていることを明らかにした。氷河下水文系の活発化に続く個別の増水事象を複数観察したLamarche-Gagnonらは、さまざまなタイプの融解水パルス(氷面にたまった水が氷河甌穴を介して大量流出するものや、一時的な高温期により急速に氷面が融解するもの、および活動的な氷河下水系の上流が拡大するもの)により、氷河下のメタンが遊離し得ることを示唆している。

氷河甌穴(写真)。融解水はこの穴から氷床底へと流れ落ちていく。 | 拡大する

wanderluster/E+/Getty

Lamarche-Gagnonらの観察結果には、堆積物に富む氷河末端流出水が現れた後、メタン濃度がピークに達する傾向があることも示されている。メタン搬出のピークが氷河末端流出水からわずかに遅れることから、メタンに富む水の流出は、氷の動きが最大になったことに伴い水平方向に水が流れた直後、そして、氷河下の拡張された水路へ、通常は孤立している氷床底領域の水が水の差圧により流れ込む時期12,13に起こることが示唆された。Lamarche-Gagnonらは、氷河下の水路の形成と成長がメタンに富む貯蔵融解水を急激に排出させ、細菌による酸化が起こる高酸素の氷河下水文系との接触時間を制限していると考えた。

氷河下で生成したメタンの搬出および氷床の後退に伴うこのメタン放出の将来的増加が大気に及ぼす影響は、捉えられていない複数の要因に依存すると考えられる。グリーンランドにおけるメタンの生成量と搬出量の潜在的な増加は、氷床底で形成される液体水の面積によって制限される可能性がある14。また、炭素に富む堆積物が氷床下や氷河下にどの程度広がっているかについても、特にグリーンランドでは明らかになっていない(堆積物15と固い岩床16の両方の存在が確認されたばかりだ)。

グリーンランドにせよ南極にせよ、氷河末端のメタンフラックスを増加させるには、それがわずかであれ、貯蔵融解水を効率的に排出させることができる氷河下水文系の長期的拡大が必要と考えられる。グリーンランドでは、氷河下の効率的な排水が、氷床端から40kmほどさかのぼったところから起こっていることが多い。グリーンランドにおける氷面融解水の生成は拡大が続くと考えられるが17、氷床の表面と底面の形状が氷河下の効率的な排水の範囲を制限すると考えられ18、氷流の性質が氷面から底までのつながりを制限する可能性もある19

南極の氷河下には、堆積物と液体水が広大な範囲に存在することが分かっている。将来、氷面融解水が増加して氷面から底までのつながりが増えると、メタンが生成して貯蔵されている地域で氷河下の排水の効率化が促進される可能性がある。しかし、水流が低速である場合や氷河下の水たまりが大きい場合には、氷河下のメタンの可動性の高まりが全て抑制され、メタンが細菌によって高度に酸化される可能性がある。そうしたシナリオでは、氷河下のメタンの搬出が氷の末端付近の領域に限定されると考えられる。

Lamarche-Gagnonらの研究は、地球の氷結部分が、予想外の形で、そして潜在的に重要な形で、その周囲の地球システムとどのように相互作用し得るのか、という例を示している。氷河下の堆積物がメタンを変換して貯蔵する能力、そして氷河下水文系がこのメタンを大気中に搬出する能力を明らかにするモデリングおよび観察研究は、北極地方のメタンのソースとシンクに関する理解を深め、その将来の変化に関する判断を的確に行うための重要な作業になるだろう。

(翻訳:小林盛方)

Lauren C. Andrewsは、NASAゴダード宇宙飛行センター (米国メリーランド州グリーンベルト)に所属。

参考文献

  1. Lamarche-Gagnon, G. et al. Nature 565, 73–77 (2019).
  2. Wadham, J. L. et al. Nature 488, 633 (2012).
  3. Weitemeyer, K. A. & Buffett, B. A. Glob. Planet. Change 53, 176–187 (2006).
  4. Petrenko, V. V. et al. Nature 548, 443–446 (2017).
  5. Christner, B. C. et al. Nature 512, 310–313 (2014).
  6. Michaud, A. B. et al. Nature Geosci. 10, 582 (2017).
  7. Dieser, M. et al. ISME J. 8, 2305–2316 (2014).
  8. Christiansen, J. R. & Jørgensen, C. J. Sci. Rep. 8, 16623 (2018).
  9. Burns, R. et al. Sci. Rep. 8, 17118 (2018).
  10. Chu, W. et al. Geophys. Res. Lett. 43, 12484–12492 (2016).
  11. Hoffman, M. J., Catania, G. A., Neumann, T. A., Andrews, L. C. & Rumrill, J. A. J. Geophys. Res. 116, F04035 (2011).
  12. Cowton, T., Nienow, P., Bartholomew, I. & Mair, D. J. Glaciol. 62, 451–466 (2016).
  13. Hoffman, M. J. et al. Nature Commun. 7, 13903 (2016).
  14. MacGregor, J. A. et al. J. Geophys. Res. Earth Surf. 121, 2015JF003803 (2016).
  15. Walter, F., Chaput, J. & Luthi, M. P. Geology 42, 487–490 (2014).
  16. Harper, J. T., Humphrey, N. F., Meierbachtol, T. W., Graly, J. A. & Fischer, U. H. J. Geophys. Res. Earth Surf. 122, 2017JF004201 (2017).
  17. Leeson, A. A. et al. Nature Clim. Change 5, 51–55 (2015).
  18. Meierbachtol, T. W., Harper, J. T. & Humphrey, N. F. Science 341, 777–779 (2013).
  19. Poinar, K. et al. Geophys. Res. Lett. 42, 2015GL063192 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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