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酔っ払いの記憶

犯罪捜査中の警察官は酔った目撃者からの事情聴取を控えるだろう。だが目撃者の酔いがさめるまで待つのは最善の策ではないかもしれない。たとえ酔っていても、1週間後に比べればよく覚えていることが新しい研究で分かった。

イエーテボリ大学(スウェーデン)の心理学の上級講師Malin Hildebrand Karlénらは136人の被験者を集め、半数にウオッカとオレンジジュースを混ぜたものを、残りの半数にはジュースだけを飲ませた。アルコール群は女性の場合で15分間に体重1kg当たり0.75g、男性は同0.8gのアルコールを摂取した(体重70kgの女性でワインをグラス3.75杯、同体重の男性で4杯飲んだのに相当)。その後、全被験者は1組の男女が口論と小突き合いのケンカをしている短い映画を見た。次に各グループの半数の人に、映画に関して覚えていることを自由に思い出してもらった。残り半数の人には帰宅してもらい、1週間後に面談した。

1週間後よりは記憶鮮明

この結果、すぐに質問された人たちは、酔った人もしらふの人も、1週間後に質問された人たちよりも映画の出来事をより正しく覚えていた(アルコール群同士、しらふ群同士の比較で)。この効果は血中アルコール濃度が0.08%(米国のほとんどの地域で自動車運転の許容限度となっている値)以上の人にも当てはまった(アルコールの代謝速度は人によって異なるので酩酊度合いはいろいろ)。この結果は、酔った目撃者からは酔いがさめるのを待つのではなくすぐに聞き取りを行うべきであることを示唆している。2018年10月にPsychology, Crime & Lawに報告。

フロリダ国際大学(米国)の心理学助教Jacqueline Evans(この研究には加わっていない)は、今回の発見は過去の研究と一致しているという。Evansらは以前、ほろ酔い加減の目撃者を調べて得た同様の結果を論文にまとめ、2017年にLaw and Human Behaviorに発表していた。

記憶の一部の特徴は酔った人もしらふの人も大して違いがないことも分かった。両群共、映画に描かれていた小突き合いを特に詳しく覚えていた。「酔った目撃者の証言内容に対する関心が高まるはずです。もう少しまともに受け止めることになるでしょう」とHildebrand Karlénは言う。

翻訳:鐘田和彦

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190406a