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謎の初期人類「リトルフット」の全身を発掘

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190308

原文:Nature (2018-12-07) | doi: 10.1038/d41586-018-07651-z | ‘Little Foot’ hominin emerges from stone after millions of years

Colin Barras

ついに全身が掘り出された古いヒト族化石には、際立った特徴が見られる。このため、これまで謎に包まれていたこの個体が新種に分類される可能性もあるという。

リトルフットの化石を持つ、ウィットウォーターズランド大学の古人類学者Ronald Clarke。 | 拡大する

MUJAHID SAFODIEN/AFP/Getty Images

20年にわたった困難続きの発掘の末に掘り出されたある古い骨格が、初期の人類の進化に関する新情報をもたらそうとしている。「リトルフット」と呼ばれるこの骨格に関して、このほどプレプリント論文が複数発表された。その最初の1編は、この化石が約367万年前の女性のものであり、ヒトらしい二足歩行を行っていたことを示す最古級の兆候が認められることを示唆している。また、彼女が属する種は、多くの研究者にとってなじみの薄い特殊なものである可能性もある。

リトルフットというのはこの個体の通称で、骨格の最初の発掘部分に含まれていた小さな足の骨にちなみ、想像上の生物「ビッグフット」をもじったものである。1994年、ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ・ヨハネスブルク)の古人類学者Ronald Clarkeは、ヨハネスブルクの北西約40kmに位置するスタークフォンテン洞窟の野外実験室で、発掘した化石の入った箱をくまなく探っていた。そして、中にあった少数の小さな骨が、1体のアウストラロピテクス属(Australopithecus)のものであることに気付いた。アウストラロピテクス属は類人猿に似たヒト族で、ヒト属(Homo)がまだ勢力を広げていなかった約400万~200万年前にアフリカに存在していた1

その後Clarkeらは、洞窟深部の硬い岩石の基質に埋もれていた骨をさらに発見した。発掘隊は、ハンマーとたがね、そして精密な道具を使って、リトルフットの砕けやすい骨を1片ずつ慎重に掘り出し始めた。「骨の化石は、実は岩石の基質よりも軟らかいのです」と骨格の発掘を行った研究チームに協力したリバプール大学(英国)の筋骨格生物学者Robin Cromptonは説明する。「発掘には途方もない労力が必要でした。完全な状態で掘り出すことができたのは、ほとんど奇跡です」。

2017年の後半までには、骨格の90%以上を復元できるだけの骨が掘り出され、これまでで最も完全に近いアウストラロピテクス属の標本となった。2018年11月29日、研究チームは、リトルフットに関する2編の論文をプレプリントサーバーbioRxivに投稿した。1編はその標本の年代2、もう1編はその四肢と移動運動3に関するものだ。

続く12月4~5日には、第3、第4の論文が投稿された。それぞれ、リトルフットの頭蓋の分析結果と、それに基づき既知のヒト族種との関係性について考察したもの4と、リトルフットの腕の分析から、生存中に受けた傷に関するもの5だ。Cromptonによれば、手や歯、内耳に関する論文も近々発表予定だという。論文の多くは、最終的にはJournal of Human Evolution の特集号に掲載される見込みだ。

ほぼ完成したパズル

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MUJAHID SAFODIEN/AFP/Getty Images

bioRxivの論文は、この化石の年代に関してそれ以前の研究論文で示された考え方を具体化している。一方で新しい発見も示し、リトルフットが身長約130cmの成人女性だったことを示唆している。それは、一部の現生人類集団の平均的な女性よりも10cm低いだけだ。「リトルフットはかなり大きかったのです」とCromptonは言う。四肢と移動運動に関する論文3は、現生人類のように脚が腕よりも長いことを明らかにしており、Cromptonによれば、リトルフットは確実にそうした特徴を持つといえる最古のヒト族になったという。それは、リトルフットが他の多くのアウストラロピテクス類以上に地上での直立歩行に適応していたことを意味する(2016年12月号「3D印刷で『ルーシー』の死因を探る」参照)。

リトルフットは頭蓋、骨、そして歯の形状が極めて特異であるため、Clarkeらはこれをアウストラロピテクス・プロメテウス(Australopithecus prometheus)という特別な種に分類した4。この種名は、ヨハネスブルクの北方約250kmで発見された頭蓋断片6に基づいて1948年に最初に提案されるも決着を見ていないものだ。研究チームはアウストラロピテクス・プロメテウスについて、約100万年にわたって初期のヒト属種と共存していたパラントロプス属(Paranthropus)というヒト族群の祖先であることも示唆している4

しかし、同じくウィットウォーターズランド大学の考古学者であるLee Bergerは、アウストラロピテクス・プロメテウスを復活させるという判断に異を唱え、2018年12月14日付でAmerican Journal of Physical Anthropology にて発表した論文7で、アウストラロピテクス・プロメテウスという種名は適切な定義がなされていないと主張している。リトルフットをアウストラロピテクス属の特殊な種に分類するならば新しい種名が必要だ、というのがBergerの意見だ。

Bergerはまた、年代と移動運動に関して論文に具体的な情報がないことにも落胆している。「データがありません。化石の測定値がほとんどないのです」とBergerは訴える。リトルフットに関する分析を始めてから日が浅いものの、Bergerは自分の論文で化石の詳細な測定値を示したいと考えているのだ。

この指摘に対してCromptonは、移動運動に関する論文は概論であり、チームによる他の論文でさらに具体的なデータを用いて、リトルフットの移動方法を明らかにしようとしていると応じる。オックスフォード大学(英国)の人類学者Gabriele Machoは、移動運動に関する論文に記載されている具体的なデータが満足なものでないことは認めるが、その欠陥はチーム内で認識されているはずだと話す。Machoは、より詳細な論文がすぐに投稿されるのを待っている。「はっきりしているのは、この骨格が非常に重要なものだということです」とMachoは語る。「そのことに疑いはないのです」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Bruxelles, L., Clarke, R. J., Mairee, R., Ortega, R. & Stratford, D. J. Hum. Evol. 70, 36–48 (2014).
  2. Bruxelles, L. et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/482711 (2018).
  3. Crompton, R. H. et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/481556 (2018).
  4. Clarke, R. J. & Kuman, K. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/483495 (2018).
  5. Heile, A. J., Pickering, T. R., Heaton, J. L. & Clarke, R. J. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/486076 (2018).
  6. Dart, R. A. Am. J. Phys. Anthropol. 6, 259–284 (1948).
  7. Berger, L. R. & Hawks, J. Am. J. Phys. Anthropol. 168, 383–387 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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