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イントロンに意外な働き?

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190302

原文:Nature (2019-01-16) | doi: 10.1038/d41586-019-00183-0 | Cryptic DNA sequences may help cells survive starvation

Michael Marshall

遺伝子のDNA配列内にあるアミノ酸情報を担わない領域「イントロン」は、これまで不要な部分と考えられてきたが、細胞の生存に重要な働きをしている可能性がある。

「イントロン」と呼ばれる非コードDNAは、ストレス下で酵母細胞が生存するのを助けている可能性がある。 | 拡大する

STEVE GSCHMEISSNER/SPL/Brand X Pictures/Getty

ゲノム全体に点在する一見意味のなさそうなDNA領域にも、実は機能があるのかもしれない。細胞が飢餓を乗り越えて生き延びるために、こうしたDNA領域が役立っている可能性があることが、新たな研究から明らかになった。食物が乏しくなったときの酵母では、遺伝子内の「イントロン」と呼ばれる非コード領域が細胞増殖速度を制御してエネルギーの節約を助けていることが、独立した2つの研究から示唆されたのだ。この成果はそれぞれ、Nature 2019年1月31日号に発表された1,2

遺伝子はタンパク質合成に必要な情報を担っているが、多くの遺伝子には「イントロン」が含まれている。イントロンは、タンパク質のアミノ酸配列情報を担わない非コードDNA配列であり、その大多数は何もやっていないように見える。

しかし一部の研究者は、イントロンには隠れた機能があるのではないかと考えた。今回の一方の研究では、シャーブルック大学(カナダ・ケベック州)の微生物学者Sherif Abou Elelaが同僚らと、DNAに295個のイントロンがある出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を調べた。彼らは10年かけて、綿密に、それらのイントロンのうち1個だけを欠失した酵母株を数百種類作り出したのだ。「皆に笑われ、クレイジーだと言われました」とAbou Elelaは振り返る。

Abou Elelaらはまず、イントロンを1個欠失した酵母株を通常の実験条件下で培養し、イントロンが全てある「野生型」の株と同じように増殖することを見いだした。ところが、栄養素が乏しい条件下でイントロン欠失株を野生型株と一緒に増殖させると、欠失株の64%が死んでしまったが、野生型は生き延びた。

そこでAbou Elelaらは、イントロンの多くは野生型酵母が食物不足に対処するのを助けているのではないかと推測した。さらなる実験により、イントロンが細胞でこの役割を果たす仕組みが見えてきた。

イントロン1個の欠失

細胞が遺伝子からタンパク質を合成する際には、まず、遺伝子のDNA塩基配列がメッセンジャーRNA(mRNA)へとコピーされ、これがタンパク質合成の鋳型となる。タンパク質の合成に入る前に、スプライソソームと呼ばれる分子装置(タンパク質とRNAの複合体)によってmRNAからイントロンが切除される。しかし、イントロンを1個欠失した酵母の多くでは、残りのイントロンがmRNAから切除されていないことにAbou Elelaらは気付いた。

また、栄養素が乏しい場合、イントロン欠失酵母では、タンパク質合成の場となるリボソームの構成タンパク質(リボソームタンパク質)の遺伝子群が、野生型酵母の遺伝子群に比べて活性化していた。リボソームは大量のエネルギーを必要とするので、飢餓状態の細胞は通常、省エネのためにリボソームタンパク質に関係する遺伝子群を抑制する。しかし、イントロン欠失酵母株は大半のものがこうした抑制をしなかった。

Abou Elelaらは、イントロンを完備した正常な細胞では、食物の供給が不足した際に、それらのイントロンがリボソームタンパク質の発現を抑えてエネルギーを節約するのだと結論付けた。「発芽酵母のイントロンの70〜80%が同一の作用を及ぼします。今回我々が見つけたのは、栄養素が枯渇した場合に細胞が自己調節するための全く新しい方法なのです」とAbou Elelaは説明する。

増殖を制御

もう一方の研究では、マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の生物医学工学者Jeffrey Morganが同僚らと、酵母が栄養ストレス下にある場合にタンパク質をどのくらい効率的に合成するのかを調べた。

すると、DNAにイントロンのある正常な細胞では、mRNAから切除されたイントロンが破壊されたが、飢餓状態の場合は違っていた。細胞が飢餓状態だと、mRNAから切除されたイントロンが細胞内に蓄積されていくことが分かったのだ。

またMorganらは、このイントロン蓄積を、細胞増殖およびリボソーム生合成を調節するTORC1というタンパク質と関連付けた。TORC1を阻害すると、イントロンはそれ以上破壊されなくなったとMorganは話す。この結果から、MorganらはAbou Elelaらと同様の結論に達した。「これらのイントロンが細胞増殖に影響を与える究極の方法は、リボソーム生合成の抑制を助けることだと我々は考えています」とMorgan。

細かい点は異なるが、どちらの研究も、酵母細胞では食物不足の際にイントロンがリボソームタンパク質の合成を抑制して、エネルギーの節約を助けている可能性があることを示したものだ。「両グループの知見の核心部分に当たる観察結果には説得力があると感じます」と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)の分子生物学者Manuel Ares, Jrは話す。「これが真実でなければ、2つの研究グループが共にこの意外な結論に至ることなどあり得ないと思われます」。

Morganらは現在、イントロンが酵母以外の生物種でも同様の役割を果たしているかどうかを明らかにしたいと考えている。「イントロンが、ある生物種ではこの機能を持ち、他の種では持っていないとしたら、その方が驚きでしょう」と、Morganの指導教官である生物学者のDavid Bartelは話す。

コロラド大学デンバー校アンシュッツ医療キャンパス(米国オーロラ)の分子遺伝学者Jay Hesselberthによれば、この研究はヒトなどの哺乳類におけるイントロンの役割にも関わってくる可能性があり、また、非コードDNAの機能の中には我々が見落としているものもあるのではないかという。

BartelもHesselberthの意見に賛同しているが、今回の知見は非コードDNAの大半が機能を持っていることを必ずしも意味するものではないと言い添えている。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Parenteau, J. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-018-0859-7 (2019).
  2. Morgan, J. T., Fink, G. R. & Bartel, D. P. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-018-0828-1 (2019).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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