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研究者と最先端イメージングをつなぐABiS

ABiS(エービス)がスタートして3年がたった。ABiSの正式名称は「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」。生命科学分野の研究者に対し、最先端のイメージング技術を提供することをミッションとするプロジェクトだ。文部科学省の事業であり、科研費の支給を受けている研究者(課題)であれば、その支援を利用でき、これまでに数多くの研究成果に結び付いている。

ABiSの中核となる機関は2つ。自然科学研究機構 生理学研究所(生理研)と基礎生物学研究所(基生研)である。生理研と基生研は、もともと大学共同利用機関としての役割を担っており、所有している高度な顕微鏡装置は、他の研究機関の研究者も利用できるようになっていた。しかし、近年のイメージング技術の進歩と多様化は極めて著しく、「2研究所だけでは、全ての技術をカバーできない」(鍋倉淳一生理研副所長)。そこで、新たに広範囲の大学・研究機関からの研究者・技術者の協力や参加を受け、ABiSが誕生することとなったのである。

ABiSでは、技術を提供して研究をサポートする側を「支援者」と呼び、技術の提供を受けて自らの研究に利用する側を「利用者」と呼ぶ。利用者は、年2回の応募時期に利用の申請をすればよいのだが、最先端のイメージング技術ということもあり、どの装置が、あるいはどの支援者が自分の研究に最適なのか分からないこともあるだろう。そういう場合には、ABiSが丁寧にコンサルテーションを行ってくれるので、適切なアドバイスが得られるはずだ。「気軽に申し込んでください」と、鍋倉副所長も勧める。申請時には、自分の研究内容を、予備実験の結果とともにきちんと説明すればよい、と利用経験者は語っている。

二光子励起顕微鏡で植物の奥深くを見る

図1 実験材料であるシロイヌナズナをチェックする植田美那子特任講師。

名古屋大学の植田美那子特任講師は、ABiSの支援を受けて、シロイヌナズナの受精卵が非対称分裂する仕組みの解明を進めることができた(図1)。使用したのは、二光子励起顕微鏡。生きた細胞や組織の奥深くを撮影することが可能だ。これを利用して、厚い種皮の外側から、受精卵内部の様子をライブイメージングで写し出したのである。20分に1回のインターバルで24時間撮影し、受精卵では、液胞の形や位置がダイナミックに変化することを見いだした。そして、この液胞の変化が、受精卵の非対称分裂に必須であることを実証した1(図2)。植田特任講師が利用した顕微鏡は名古屋大学ライブイメージングセンターの所有。「最先端の高度な顕微鏡なので人気があり、ABiSの支援がなければ、同じ名古屋大学に所属する研究者であっても、なかなか利用できない。本当にありがたかった」(植田特任講師)。

図2 受精に伴って変化する液胞を捉えた二光子励起顕微鏡画像(b)を基に、液胞の形のみを抽出して三次元で構築した(a)1。a左は野生株、a右は変異体。また、液胞の形の変化(c)を、液胞の丸さ(上:円形度、下:周長)の変化としてグラフ化した(d)。

ABiSにおいては、名古屋大学ライブイメージングセンターは、植物のイメージングに関する1つの拠点となっている。このセンターチーフの佐藤良勝特任准教授は、これまでに多くの支援を担当し、撮影を行ってきた。その際、最も大事なことは、「最初に、利用者ときちんとコミュニケーションを図ること。つまり、利用者が何を見たいかを明確に知っておくこと」と言う。それを知った上で、蓄積したイメージング装置を使いこなすノウハウを生かし、例えば試料の準備、波長の設定、露光時間などのパラメーターを設定するのである。

卵管への遺伝子導入技術とともに支援を得る

図3 ABiSへの応募から共同研究の論文発表に至るまでの経験を日本分子生物学会で発表した菊池浩二講師(右)と藤森俊彦教授。Map7タンパク質(上段)とそのホモログの7D1(下段)がどちらもマウス卵管上皮細胞の卵巣側に偏在することを画像化2(左図の白い部分、右図の緑色の部分)。

熊本大学の菊池浩二講師は、基生研の藤森俊彦教授の支援を受けた(図3)。菊池講師は、細胞の形や並び方(極性)を調節する仕組みを調べていて、あるタンパク質(Map7/7D1)の細胞内での位置を画像化し、そのタンパク質が極性に大きく関与することを見いだした。まず培養細胞で発見し、次にショウジョウバエの翅上皮組織でも確認したのである2

「この発見をさらにインパクトの高い内容にするため、哺乳類でも確認したい」と菊池講師は考えた。しかし、哺乳類の組織を実験で扱った経験はない。そこで藤森教授に支援を依頼したのだ。藤森教授は、in vivoエレクトロポレーションという方法で卵管に遺伝子導入する技術を持ち、その第一人者である。この極性の研究においては遺伝子導入操作も必要になるので、藤森教授からは、共焦点顕微鏡の利用と遺伝子導入の両方に関して支援を受けることとなった。

菊池講師は、独立を目指す若手研究者。まだ、自分で使えるスタッフはいない。新たな生物種での試料の準備、撮影、さらに画像解析までを1人でこなすのは大変なことだ。「菊池講師の研究はとてもしっかり計画されており、こういった熱心な若手を支援することは大いに意義があること」と藤森教授は語る。

電子顕微鏡やMRI支援

図4 右上 脳の神経細胞(赤)と活性化アストロサイト(青)。ミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)撮影画像を基に三次元像を構築したもの3。大野伸彦教授の支援による名古屋市立大学 澤本和延教授の研究。

上記で紹介した二光子励起顕微鏡や共焦点顕微鏡は光学顕微鏡であるが、ABiSでは、電子顕微鏡とMRIについても、しっかりとした支援体制が組まれている。例えば、最近論文発表に結び付いた成果には、ミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)による脳のアストロサイトの微細構造の観察3(大野伸彦・自治医科大学医学部解剖学講座組織学部門教授による支援)(図4)や、位相差クライオ電子顕微鏡によるタンパク質複合体(V-ATPase)の単粒子解析4(村田和義・生理研形態情報解析室准教授による支援)、拡散MRIを用いた成人もやもや病の解析5(青木茂樹・順天堂大学教授による支援)(図5)などがある。

図5 左下 成人もやもや病の脳微細構造変化をとらえたMRI画像5。日本神経放射線学会の加藤賞を受賞(青木茂樹教授の支援による東京医科歯科大学・原祥子氏の研究)。

ABiSでは撮像と画像解析技術のトレーニングセミナーも開催している。MRI技術のトレーニングでは、医療現場で脳を撮影している人の参加も多い。トレーニングを担当する下地啓五・東京都健康長寿医療センター病院放射線診断科専門部長は、「MRI画像の撮り方も画像の解析も、技術は進歩し続けている。そうした新しい技法をどんどん紹介しています」という。新しい技術は、それまで見えていなかったものを見えるようにし、新たな研究へと導いてくれる。

画像解析により定量的データを導く

画像解析への支援体制を充実させていることもABiSの特徴の1つだ。画像データのデジタル化に伴い、撮影画像から定量的データを引き出すことの重要性が増しており、高度な画像解析においては情報学や統計学を使いこなすことも必要となる。

図6 画像解析を支援する檜垣匠准教授。植物の研究者でもある。

前述の植田特任講師による植物の研究では、熊本大学の檜垣匠准教授が画像解析を支援した(図6)。檜垣准教授は植田特任講師とディスカッションを重ね、植田特任講師の興味が、液胞の「形の丸さ」であることをつかんだ。そこで、「面積に対する周長の短さ」で定義される「円形度」(円に近いほど、面積に対して周長が短くなり、円形度は最大値の1に近づく)によって液胞の形の変化を数値化したのである(図2)。利用者とのコミュニケーションに時間を割いたことは、ここでも重要である。「画像に含まれる情報は多面的であり、そのうちの何に興味を持っているのかを見極めることが、最も大切なステップの1つ」と檜垣准教授は振り返る。

同じく檜垣准教授による画像解析の支援により、Nature Plants に論文を発表した京都府立大学の佐藤雅彦准教授は、「論文投稿のリバイスの過程でデータの定量化を求められました。大型機器が使用できることに加え、画像解析を支援していただけるのは貴重です」と語る。佐藤准教授はこの研究で、植物の根毛が真っすぐに伸びるためには、根毛の側面を硬くする仕組みが重要であることを解明した6(図7)。

図7 シロイヌナズナの根毛で、ある種のリン脂質が減少すると微小管が断片化することを示した佐藤雅彦准教授の研究。画像解析はABiSの支援で檜垣准教授が担当し、共焦点顕微鏡画像に基づき、微小管の密度を数値化した6

世界的なネットワークとの連携

将来的には、画像データを共通のプラットフォームで保存し、共有する国際的なシステムが構築されるだろうと、上野直人基生研副所長は考えている。それは、他の人が撮影・解析した画像データの再利用を可能にし、国際的な共同研究も生まれやすくするだろう。画像解析の基本的スキルを学んでおくことは、そのときに役に立つに違いない。

国際的プラットフォーム形成における中心になると期待される世界的ネットワークとして、すでにGBI(グローバルバイオイメージング。母体組織は欧州バイオイメージング)が設立されており、ABiSもそれに参加している。GBIは、新しい装置や技術の共有に加え、画像データの標準化や質の維持のための活動にも重きを置いている。

一方で、「画像解析については、全国的に国内の人材が不足している」と上野副所長は指摘する。そこで、ABiSでは生物画像解析に関してもトレーニングコースを設け、画像解析の基本的スキルを実験研究者に広めることにも取り組んでいる。

支援から共同研究へ

イメージング技術が急速に進歩し、多様化し続ける現在、日本の研究者がそれらを利用して高度に、しかも効率よく研究を進めるためには、ABiSのようなネットワークによる支援体制が、時間的にも財政的にも効率的で望ましいであろう。

だが、支援者の負担が大きすぎないだろうか。幸い、ABiSの支援者からの回答はどれも、頼もしいものだった。「支援者というよりは共同研究者として参加させてもらっており、研究の発展が楽しみ」と檜垣准教授。佐藤良勝特任准教授は「各種の生物やいろいろな分野の専門家の利用者と出会え、その実験ノウハウを間近で見て学べることは貴重な体験」と話す。

鍋倉副所長は、「支援者と利用者のwin-winの関係を築けることが望ましい。研究はぜひ論文化してほしい」と付け加える。また、「高度な装置の維持費は高額であるし、ラボに技術支援員の増員が必要な場合もあることから、支援者の負担が過度にならないような財政的支援の拡充も必要」と指摘する。ABiSのプロジェクトは、6年間の期限付きで始まった事業だが、その継続と発展が、日本の研究力アップに大きな貢献をもたらすことは間違いないだろう。

また現在は、科研費の支給を受けた研究が支援の対象であるため、採択された研究の代表者もしくはその代表者と共同研究を行う者に利用が限られるが、その対象ではない研究でも、優れたものに対してはこうした支援が得られ、日の目を見るチャンスがつかめるような仕組みを期待する人も多いに違いない。

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190323

参考文献

  1. Kimata Y. et al . Proc. Natl Acad. Sci. USA 116, 2338-2343 (2019).
  2. Kikuchi K. et al. EMBO Rep. 19, e45471 (2018).
  3. Kaneko N. et al. Science advances 4, eaav0618 (2018).
  4. Tsunoda J. et al. Scientific Reports 8, 15632 (2018).
  5. Hara S. et al. Disease. Stroke 49, 2504-2507 (2018).
  6. Hirano T. et al. Nature Plants 4, 888-97 (2018).