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長距離走者の秘密

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190206b

ある遺伝子変異が走行能力に寄与したようだ。

ざっと200万~300万年前、ある霊長類が森からサバンナへすみかを移した。そして脚が長くなり、筋肉が付き、足の幅が広がった。照り付けるアフリカの日差しの下で体を冷やせるように、汗腺も発達した。

近年の研究によると、ちょうど同じ頃、CMAH という遺伝子に変異が生じて種全体に広がった。そして、人類が長距離を走って獲物を仕留められるようになったのはこの遺伝子変異のおかげであるとする説が、マウスで行われた最近の研究で支持された。

カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の生物学者Ajit Varkiによると、この変異によって、CMAH 遺伝子は完全に不活性化した。これが長距離走の能力と関係しているのではないかと彼は考えた。しかし、全てのヒトがこの働かない遺伝子を共通して持っているので、遺伝子変異のタイプ別に走行能力を比較するという通常の方法は使えない。だが彼は、ヒトと同様に不活性なCMAH 遺伝子を持つように育種したマウスを調べて糖尿病とがん、筋ジストロフィーに関する知見を得る研究を何年も行っていた。そこからCMAH 遺伝子の欠損と筋肉との間に関連性がうかがわれたが、確証は得られていなかった。

「10年近く、研究室の人を説得してマウスをトレッドミルに乗せようと試みました」とVarkiは言う。ついに実験がかなった時、「驚くなかれ、CMAH 欠損マウスは訓練していないのに1.5倍長く走り続けたのです」。このマウスの筋肉(特に後脚の筋肉)は酸素の利用効率がよく、疲れにくかった。この研究成果は、2018年9月のProceedings of the Royal Society B に報告された。

今回の研究には加わっていないハーバード大学(米国)の生物学者Daniel Liebermanは2004年、二足歩行のみではなく走ることが人類の進化に大きな役割を果たしたとする仮説を提唱した。走行が現生人類の台頭に果たした役割について、「今回の研究は私たちの予測と一致する初の周到で優れた遺伝学的研究です」と彼は言う。

(翻訳:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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