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生命を1から組み立てる

ボトムアップ式に作成された合成細胞から生命と非生命の境界が見えてくる可能性がある。

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ILLUSTRATION BY DAVID MCLEOD

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190223

原文:Nature (2018-11-08) | doi: 10.1038/d41586-018-07289-x | How biologists are creating life-like cells from scratch

Kendall Powell

材料はたったの8つ。2種類のタンパク質、3種類のバッファー、2種類の脂質分子、それから化学エネルギーを少々。たったこれだけの材料から、跳ねたり脈打ったりする、ぶよぶよした小塊の集団を作ることができる。これらは、自力で分裂するのに必要な機構のいくつかを備えた、細胞に似た原始的な構築物だ。

マックス・プランク生化学研究所(ドイツ・マルティンスリート)の生物物理学者のPetra Schwilleにとって、自分の研究室で生まれた踊る小さな塊は、ボトムアップ式に合成細胞を作るための重要な一歩である。彼女は10年前からこの研究に取り組んでいる。

「生命と非生命の違いはどこにあるのでしょう? 私は昔からこの問題に魅了されていました」とSchwilleは言う。彼女は、合成細胞を作る難しさは、生きている系を作るのに必要な構成要素を見極めるところにあると考えている。いつの日か完全な合成細胞を作れるようになったときには、彼女はそれを動かす要素を1つ残らず知っているはずだ。

人工細胞を作ろうとする科学者たちの挑戦が始まったのは、20年以上前のことだった。彼らは適切な条件下で各種の生体分子を組み合わせることで、生命の多種多様な側面を模倣しようとした。そうした側面は大きく3つのカテゴリーに分類されている。生体分子を空間的に分離する「区画化」、生命維持のための生化学反応である「代謝」、細胞への指示を蓄えて管理する「情報制御」である。

合成細胞研究のペースは加速している。その一翼を担っているのが、近年のマイクロ流体技術の進歩であり、それにより細胞を構成する微小な要素の動きを協調させられるようになった。科学者たちはすでに、細胞に似た小さな塊を望みどおりの形に変える方法や、簡単な細胞代謝の系を設計して組み立てる方法を編み出し、生きている細胞に人工のゲノムを移植する方法をも突き止めている。しかし、これらの要素の全部を1つの細胞に詰め込むのは、まだ困難だ。

それにもかかわらず、この分野には新しい楽観論の風が吹いている。2017年9月には、オランダの17の研究室の研究者がBuilding a Synthetic Cell(BaSyC)というグループを結成した。BaSyCのディレクターでデルフト工科大学(オランダ)に研究室を持つ生物物理学者のMarileen Dogteromは、自分たちの目標は10年以内に「細胞に似た、成長し、分裂する系」を作ることだと説明する。このプロジェクトは、オランダ科学研究機構(NWO)のグラビテーションプログラム(国内の優秀な研究者を集結することで、卓越性と新規性を有し同国の国際的地位を高め得る研究を促進することを目的としたプログラム)から、1880万ユーロ(約23億6000万円)の助成金を受けている。

2018年9月には、米国立科学財団(NSF)が、最初の合成細胞プログラムに1000万ドル(約11億円)の助成を行うことを発表した。また、Schwilleを含む欧州の数人の研究者は、合成細胞の作製を欧州委員会のFET(Future and Emerging Technologies)プログラムの最重要プロジェクトの1つに選定するように提案している。これに選定されれば10億ユーロ(約1250億円)の助成金を受けられることになる。

ボトムアップ式の合成生物学に取り組む研究者たちは、あと10年もすれば、最初の「完全に人工的な細胞」が誕生すると予想する。「そこに到達できることを確信しています」とSchwilleは言う。

膜の中に閉じ込める

細胞のような生命体のいくつかの側面を再現すること、特に、細胞を包み込み、内部の構成要素を分離させる「膜」を模倣することについては、複数の研究グループが大きな成果を挙げている。適切なタイミングと場所で分子を協調的に働かせるためには、分子を適切に配置することがカギとなる。例えば、10億個の細菌を割り、その中の構成要素を試験管に集めることができても、生物学的過程は長くは続かないだろう。互いに離れていなければならない構成要素もあれば、すぐ近くに存在していなければならない構成要素もあるからだ。

デルフト工科大学の生物物理学者Cees Dekkerは、「私はこれを、分子の社会学のようなものだと考えています」と言う。

膜を模倣するということは、基本的に、脂質膜の表面または内部に生体分子を配置することを意味する。Schwilleのチームは膜を操る専門家だ。彼らは今から10年ほど前に、脂質をシート状にした人工の膜にMinタンパク質(細菌の細胞分裂機構を制御するタンパク質)を加える研究を始めた。彼らは、Minがこの膜に乗ったり降りたりして、これを波立たせたり渦を巻かせたりすることを発見した1。けれどもSchwilleによると、脂質でできた立体的な球にMinタンパク質を付加したところ、構築物はシャボン玉のように壊れて消えてしまったという。彼女のグループや他のグループは、マイクロ流体技術を用いて細胞サイズのリポソームを作ることにより、この問題を解決した。リポソームは、脂質と水を懸濁するとできる脂質膜を持つ小胞で、膜そのものや膜の内部に複数のタンパク質を挿入しても耐えることができる。

Cell-sized liposomes created on a microfluidic chip.

Cees Dekker lab, TU Delft

Schwilleの研究室に所属する大学院生Thomas Litschelらは、Minタンパク質を水に溶かし、その混合物の液滴を、高速で回転する試験管の中に向かって押し出した。試験管の中は油と水の二層になっていて、最初に油の層に入った液滴は遠心力に引かれて移動しながら徐々に脂質に包まれてゆき、界面を超えて水の層に入ると直径10~20µmのリポソームになる。植物や動物の平均的な細胞と同じくらいの大きさだ。こうしたリポソームは巨大単膜リポソーム(giant unilamellar vesicle;GUV)と呼ばれ、いろいろな方法で作ることができる。Litschelの実験では、Minタンパク質はGUVを脈動させたり、踊り回らせたり、真ん中をくびれさせたりした2

Schwilleのグループは、膜にパターンを形成させ、自己組織化させることができるMinタンパク質に関する知識を、合成細胞作りに利用したいと考えている。「私たちはこれらの分子を非常によく理解しています」と彼女は言う。「Minのような比較的単純な要素を使ってどこまでいけるか、確かめてみたいのです」。Litschelの研究が示唆するように、Minタンパク質を用いることで、分裂できる膜を作成したり、合成細胞の一方の端に構成要素を集めたりすることができるかもしれない。Schwilleは、物理学者がダクトテープとアルミ箔を用いて実験の微調整を行うように、これらの便利な生物学的分子を用いて、細胞に似た構築物を改造できるようになることを期待している。「私は骨の髄まで実験屋なのです」とSchwille。

Dekkerのチームも、マイクロ流体チップを使ってお気に入りのタンパク質をリポソーム中に閉じ込めた(「泡発生装置」参照)。チップ上では、脂質分子を含む液体を導入する2つのチャネルが水溶液を導入するチャネルと合流し、細胞サイズのリポソームを吐き出すようになっている。このリポソームはさまざまな生物学的分子を保持することができ、膜を貫通した形で入れることも、内側に浮遊させることもできる3

泡発生装置
マイクロ流体チップを用いてリポソームを作ることができる。リポソームは細胞膜に似た脂質分子でできた泡だ。1つの手法では、六叉路の流れを利用してリポソーム中に水溶液を閉じ込め、これをちぎって液滴にする。脂肪族アルコールの1-オクタノールを加えることで、水溶液を包む脂質二重層が形成される。やがて、余った脂質と1-オクタノールが1カ所に集まって自然に分離し、完全な形のリポソームが残る。 | 拡大する

ADAPTED FROM REF. 3

彼のグループは球形のリポソームに圧力をかけ、変形させ、より細胞に近い形にする実験を行った。マイクロ流体デバイスのおかげで、研究者は、回路のような役割をするマイクロチャネルを使って、リポソームを精度よく動かし、分類し、操作できるようになった。Dekkar研究室は2018年、リポソームを力学的に2つに分割できるチップを設計した。このチップの内部ではリポソームの流路がY字に分かれていて、分岐の角にリポソームを押し付けて真っ二つにするのだ4

「私たちの目標はリポソームを内側から分裂させることなので、これは私たちが求めているものではないのですが、興味深い情報は与えてくれます」とDekkerは言う。例えば、細胞を分割するのに必要な力や、リポソームがどのような物理的操作に耐えられるかなどを知ることができる。同じ流れで、彼のチームは生きている大腸菌の細胞の形も操作している。ナノ加工したシリコン容器の中で育てることで、幅を広くしたり、四角形にしたりするのだ。こうすることで、細胞の形状が分裂機構にどのような影響を及ぼすかを確認したり、さまざまな大きさや形の細胞の中でMinタンパク質がどのように働いているかを評価したりすることができる5

「私たちはナノ加工技術を用いて、普通の細胞生物学者が絶対にしないような実験をしています」と彼は言う。「でも、こんなことができるのは、生物物理学者の中でも私のような変わり者くらいですよ」。

エネルギーを作らせる

リポソームの泡を破裂させることなく構成要素を追加できるようになった今、研究者たちは、分子を協調的に働かせる方法を計画できるようになった。生命に似たもののほとんど全てが細胞エネルギーを必要とする。このエネルギーは通常はATPの形をとる。ATPは外部から合成系に加えることができるが、ボトムアップ式に合成細胞を作ろうとしている生物学者の多くは、真の合成細胞は動物細胞のミトコンドリアや植物の葉緑体のような(どちらもATPを作る器官である)自前の発電所を備えていなければならないと主張する。

マックス・プランク医学研究所(ドイツ・ハイデルベルク)のJoachim Spatzのグループは、小胞中でATPを産生できる原始的なミトコンドリアを作った。

彼らはこの研究に新しいマイクロ流体技術を利用した。まずは、GUVを安定させるために、粘性の高い高分子殻に包まれた油中水滴の中にこれを入れた。次に、マイクロ流路中を進むGUVに、大きなタンパク質を注入した。タンパク質は小胞の内側に取り込ませることも、膜の表面に埋め込むこともできる(「組み立てライン」参照)。

組み立てライン
ピコ注入システムを利用することで、リポソームに、特定の機能を持つタンパク質を付加することができる。高分子で被覆されることで安定化したリポソームは、マイクロ流路中を進んでゆく。ピコ注入サイトで電気パルスを与えてタンパク質を注入すると、タンパク質を膜の内側に取り込ませたり、膜に埋め込んだりすることができる(図)。 | 拡大する

ADAPTED FROM REF. 6

研究チームはこれらの膜にATP合成酵素を付加した。ATP合成酵素は分子の水車のような働きをする酵素で、プロトンが膜を通過するときに前駆体分子からATPエネルギーを作る。研究チームはGUVの外側に酸を追加してプロトンを増やすことで、内側でATPを産生させた6

Spatzの説明によると、GUVに再度マイクロ流路を回らせてタンパク質を注入することで、構成要素を連続して追加することができたという。次のステップとしては、系に自動的にプロトン勾配を作らせるような構成要素を追加することなどが考えられる。「私たちの体内に実際にあるものに似た、重要なモジュールです」とSpatzは言う。

マックス・プランク研究所には合成生物学グループがもう1つあり、それを率いる生化学者Tobias Erbは、別のアプローチで細胞代謝経路の構築に取り組んでいる。彼が特に興味を持っているのは、光合成微生物が環境から二酸化炭素を取り込んで、糖などの細胞構成要素を作る経路である。

マックス・プランク陸生微生物学研究所(ドイツ・マールブルク)のグループリーダーであるErbは、真っさらな状態から細胞代謝経路を組み立てるアプローチをとっている。「私たちは工学の観点から設計の方法を考えます」と彼は言う。「その後、研究室で作るのです」。

Erbのグループは、CO2をリンゴ酸(光合成の際に生成する主要な代謝産物)に変換できるシステムを大ざっぱに設計した。予想では、この経路は光合成より効率が良いはずだった。彼らは次に、データベースを検索して、それぞれの反応を実行できそうな酵素を探した。既存の酵素に手を加えて特製の酵素を作る必要があるものもいくつかあった。

最終的に、大腸菌、アーキア(古細菌)、シロイヌナズナ、ヒトなど9種の生物から17種類の酵素が見つかった。けれどもあいにく(予想通りかもしれないが)、その反応の効率は悪く、遅かった7。「私たちが作った『酵素チーム』は、うまく協調してくれませんでした」とErbは言う。しかし、酵素にさらに手を加えた「バージョン5.4」は、光合成より20%も効率よく機能したという。

Erbのグループの生物学者たちはこの研究を拡張し、粗製の合成葉緑体作りに着手した。ミキサーでホウレンソウをすり潰し、自分たちが作った酵素系の入った試験管にホウレンソウの光合成機構を加えたところ、紫外線を照射するだけで、ATPの産生と、CO2からリンゴ酸への変換を行わせることができた。

Erbによると、試験管の中のこの系は短時間なら問題なく機能するが、ゆくゆくは葉緑体のように区画化したいと思っているという。彼はそのために、複雑な区画を作って制御する技術を持つミネソタ大学(米国ミネアポリス)のKate Adamalaなどの合成生物学者と共同研究を行っている。

Adamalaのグループは、リポソームに単純な遺伝子回路を導入し、これらを融合させて、より複雑なバイオリアクターを作るというやり方で、プログラム可能なバイオリアクターを構築しようとしている。彼女はこれらを「タンパク質を作るシャボン玉」と呼んでいる。

彼女のグループがバイオリアクター作りに用いているのは、Schwilleのグループの装置に似た回転する試験管システムだが、この装置で作られるリポソームはもっと小さい。彼らはそこへ、特定の機能を持つようにデザインしたプラスミドと呼ばれる環状DNAと、DNAからタンパク質を作るのに必要な機構を付加した。

Adamalaらはこの方法で、膜孔から入ってくる環境中の抗生物質を感知して生物発光シグナルを発するリポソームバイオリアクターなどを作っている8

単純なバイオリアクターを逐次融合させることで、より複雑な遺伝子回路を構築することができる。しかし、システムに10個前後の構成要素を入れると、うまく働かなくなってくる。Adamalaによると、これは合成細胞作りの主要な課題であるという。実際の細胞では、互いの機能の妨げになる可能性があるタンパク質は、さまざまな機構によって隔てられている。生物学者は、実際の細胞よりもはるかに単純な合成細胞について、そうした制御を行う別の方法を見つけなければならない。外部から制御を行う、つまり、どのリポソームをいつ混ぜるかを実験者が決める方法の他に、化学タグを使ってどのリポソームが融合できるかを調節する方法や、リポソームを徐々に放出していくシステムを用いる方法もある。

情報を持たせる

細胞の合成におけるもう1つのカギは、適切なソフトウエアを組み込むことだ。合成した細胞が科学者の指示に従い、自分自身を複製できるようになるためには、情報を蓄えたり取り出したりする仕組みが必要だ。生きている系では、微生物なら数百個、ヒトなら数万個の遺伝子がこの役割を担っている。

合成細胞が機能するために必要な遺伝子の数を巡っては活発な議論がある。Schwilleらはこの数字を数十個に抑えたがっているが、Adamalaらは200~300個は必要だと考えている。

生物から出発しようと考えた研究者もいる。J・クレイグ・ベンター研究所(JCVI;米国カルフォルニア州ラホヤ)の合成生物学者John Glassらは、地球上の既知の微生物の中でも特に小さいゲノムを持つ細菌、マイコプラズマ・ミコイデス(Mycoplasma mycoides)に目を付けた。彼らはその遺伝子を系統立てて破壊し、細胞が生きていく上で欠かすことのできない遺伝子を特定した。こうして得られた情報に基づいて実験室で遺伝子を化学的に縫い合わせ、最小ゲノムを作った(2016年6月号「遺伝子を限界まで削ぎ落とした人工生命」参照)。

この合成ゲノムの遺伝子は473個で、もとの生物の約半分だった。研究チームはこれを類縁種のマイコプラズマ・カプリコルム(Mycoplasma capricolum)に移植した9。2016年、彼らはこの最小限の合成ゲノムが、成長は遅いが自由生活を営む生物を「立ち上げ」られることを示した10。Glassは、473という数字を大きく減らすことは難しいだろうと考えている。どの遺伝子を取り去っても、細胞は死んでしまうか、ほとんど成長できなくなってしまうからだ。彼とJCVIの同僚らは、自分たちが作った最新版の合成細胞「JCVI-syn3.0a」に基づき、細胞の最低限のTo Doリストの青写真となる「細胞の仕事」のリストを作成している。ただ、細胞が生きていく上で必要不可欠とされた473個の遺伝子のうち、機能が明らかになっているものは100個程度で、それ以外の遺伝子はどんな働きをしているのか特定できていない。

NSFから100万ドル(約1億1000万円)近い助成金を受けたGlassとAdamalaは、次の段階として、DNAをタンパク質に変換するのに必要な機構を備えた合成リポソームにJCVI-syn3.0aゲノムをインストールし、リポソームが生きられるかどうか確認しようと考えている。それができたら、細胞のソフトウエアとハードウエアの両方が一から合成されたものということになる。

その合成細胞が成長し、分裂することができたら、文句なしの大躍進だ。けれども多くの人は、生きている系を本当の意味で再現したいなら、進化し、環境に適応することができなければならないと主張する。この目標は、結果の予測が非常に難しいだけでなく、最大の挑戦でもあるとSchwilleは言う。「できたものが、いつも自分を複製するだけなら、それは生命ではありません。個人的には、それだけでも大喜びですが!」と彼女は言う。「細胞が生きてゆくためには、新しい機能を進化させる必要があります」。

JCVIのGlassのチームは、栄養分を豊富に含む培養液中でより速く成長する生物を選ぶという方法で、JCVI-syn3.0aの適応進化を調べる実験室進化実験を行っている。これまでに約400回の分裂を経て、元の生物よりも約15%速く成長する細胞が得られている。いくつかの遺伝子配列の変化も生じているが、微生物が新しい細胞機能を進化させたり、適応度が飛躍的に高まったりした証拠はまだない。

Erbは、合成細胞を面白いものにするためには、進化する機能を追加するしか方法はないと言う。生物システムのわずかな乱れは、能力の向上を可能にする。「私たちエンジニアには完全な合成細胞を作ることはできません。自己修正する系を作って、自力で良くなっていくようにしなければなりません」と彼は言う。

合成細胞の研究から、地球以外の惑星上で生命がどのような姿をとるかも見えてくるかもしれない。また、研究者が完全に制御できる合成バイオリアクターから、がんの治療、抗生物質耐性菌との戦い、汚染された場所の除染などの問題に新しい解決策が出てくる可能性もある。そうした生物を人体や環境の中に放出するのは危険だが、トップダウン式に作り出された生物で未知で予測不可能な行動をするものは、さらに危険かもしれない。

Dogteromは、生きている合成細胞は、他の哲学的・倫理的な問題も提起すると指摘する。「それは生命なのでしょうか? 自律性があるのでしょうか? 私たちがコントロールするのでしょうか?」。彼女は、科学者と市民の間で、このような会話が交わされることになるだろうと言う。合成細胞が暴走する可能性については、Dogteromはあまり心配していない。「最初の合成細胞は、既存の生物の出来の悪いコピーになるはずです」。合成生命のエンジニアである彼女たちにとって、細胞を無害にする制御スイッチや細胞死のスイッチを組み込むことなど朝飯前だ。

Dogteromや他の合成生物学者たちは、生命のフロンティアを果敢に切り拓いてゆく。「今は絶好のタイミングです」と彼女は言う。「パーツのリストであるゲノムが手に入ったからです。最小細胞が生きているような振る舞いをするには、わずか数百個の遺伝子があればいいのです。数百個のパーツといえば大変な挑戦ですが、数千個というわけではありません。面白くてたまりません」。

(翻訳:三枝小夜子)

Kendall Powellは、米国コロラド州ラファイエット在住のフリーランスの科学ジャーナリスト。

参考文献

  1. Loose, M., Fischer-Friedrich, E., Ries, J., Kruse, K. & Schwille, P. Science 320, 789–792 (2008).
  2. Litschel, T., Ramm, B., Maas, R., Heymann, M. & Schwille, P. Angew. Chem. Int. Edn https://doi.org/10.1002/anie.201808750 (2018).
  3. Deshpande, S., Caspi, Y., Meijering, A. E. C.& Dekker, C. Nature Commun. 7, 10447 (2016).
  4. Deshpande, S., Spoelstra, W. K., van Doorn, M., Kerssemakers, J. & Dekker, C. ACS Nano 12, 2560–2568 (2018).
  5. Wu, F., van Schie, B. G., Keymer, J. E. & Dekker, C. Nature Nanotechnol. 10, 719–726 (2015).
  6. Weiss, M. et al. Nature Mater.17,89–96(2018).
  7. Schwander, T., von Borzyskowski, L. S., Burgener, S., Cortina, N. S. & Erb, T. J. Science 354, 900–904(2016).
  8. Adamala, K. P., Martin-Alarcon, D. A., Guthrie-Honea, K. R. & Boyden, E. S. Nature Chem.9, 431–439 (2017).
  9. Gibson, D. G. et al.Science 329,52–56(2010).
  10. Hutchinson, C. A. et al. Science 351, aad6253 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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