News & Views

イオン風で飛ぶ飛行機を実現

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190235

原文:Nature (2018-11-22) | doi: 10.1038/d41586-018-07411-z | Flying with ionic wind

Franck Plouraboué

飛行機は通常、プロペラやタービンを用い、化石燃料の燃焼で動力を得る。今回、燃焼と可動部分なしに、電力とイオンの運動による風で飛ぶ飛行機が実現した。

イオンクラフト(あるいはリフター)と呼ばれる小型で軽量の装置は、燃焼や可動部分なしに空気中で推進力を得ることができる。イオンクラフトはこの数年間、テクノロジーマニアたちのソーシャルメディア上での議論で人気の話題になった。しかし、イオンクラフトの基礎になっている物理的メカニズムは1世紀以上前から知られていた1。空気中の電荷を帯びた分子が電場にさらされると、分子は加速される。この荷電分子が中性の分子と衝突すると、その運動量の一部を中性分子に移動させ、イオン風と呼ばれる空気の運動を引き起こす。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のHaofeng Xuらは今回、イオン風による推進を使って定常水平飛行を持続できる、翼幅(左右両翼端の距離)5mの飛行機を実証し、Nature 2018年11月22日号532ページで報告した2。概念実証となるXuらの今回の実現は、今後の改良が必要ではあるが、従来よりも強化された推進システムの開発への道を開いた。

Xuらが製作したイオン風推進飛行機 | 拡大する

Ref.2

Xuらの飛行機では、エミッターと呼ばれる細いワイヤーを取り囲む領域に電場がかけられる(図1a)。電場は十分に強いため、以下の連鎖反応を引き起こす。つまり、この領域の自由電子が空気分子と激しく衝突し、空気分子を電離させてより多くの電子を作り、それらの電子がさらに多くの空気分子を電離させる。こうした電子カスケードは、エミッターの周辺に荷電空気分子を作り出す。これはコロナ放電と呼ばれる現象だ。最終的に、荷電分子はエミッターから漂い去り、コレクターと呼ばれる素子に向かう電場によって加速され、推進力を生むイオン風を作る(図1b)。このプロセスは、液体の中では起こらず、気体の中でのみ起こる。だから、Xuらが論文中で用いている「電気空気力学」という言葉は正当な表現だと言える。

図1 イオン風推進
Xuらは、飛行機がイオン風と呼ばれる空気の運動を使って定常水平飛行を持続できることを実証した2
a Xuらの飛行機では、エミッター(その断面が示されている)と呼ばれる細いワイヤー(直径0.2mm)を取り囲む領域に電場(図には示されていない)がかけられる。電場は電子カスケードを引き起こし、自由電子は空気分子(カスケードの中では示されていない)と衝突してより多くの電子を電離させる。このプロセスは、エミッターの近くに荷電空気分子を作る。これがコロナ放電だ。電場に依存して、負あるいは正の荷電分子がエミッターから漂い去る(赤い矢印)。荷電分子は中性の空気分子と衝突し、イオン風を作る(黒い矢印)。
b この飛行機は、一連のエミッターとコレクターと呼ばれる装置を用いる(両者の間隔は60mm、電位差は40kV)。エミッターとコレクターの長さ方向はイオン風の方向に垂直だ。荷電空気分子の流れは、主にエミッターとコレクターを結ぶ方向(赤い矢印)に沿って起こる。イオン風は主にエミッターとコレクターの間の領域で加速される(黒い矢印)。 | 拡大する

これまでの実験で、イオン風推進による航空機の定常水平飛行は可能かもしれないが、その達成は現在技術的に可能な範囲の限界にある、ということが示されている3。このためXuらは、実現可能な選択肢を求めて、可能な飛行機デザインの全てを体系的に調べ尽くす必要があった。彼らは、幾何学的プログラミングと呼ばれる技術を使い、飛行機の翼幅を最小化する、設計変数の最適なセットを見つけた。翼幅を最小化するため、飛行機の重量、必要電力、コストも小さくなる。

この最適化技術により、翼幅5m、質量2.5kg、飛行速度毎秒4.8m、推力3.2N、必要電力600Wという値で、実現可能なデザインが見つかった。Xuらは、このデザインに基づいて実際の大きさの飛行機を作った。Xuらは、この飛行機を10回飛行させ、それが定常水平飛行を達成することを示した。

1960年代、さまざまな研究結果により、イオン風による推進は見切りをつけられたように思われた4,5。それらの研究は、入力電気エネルギーのうち推進に使われるのは約1%にすぎないことを示した。この値は、今回Xuらが報告した2.6%という値とそれほど違わない。しかし、それでもなお、航空機にとってイオン風推進は、少なくとも次の3つの理由により、魅力がある。

第一に、エネルギー効率は航空機の速度が上がると相当改善することが今では分かっている。例えば、速度が毎秒300mに達するなら、効率は50%にもなり得る2,6。第二に、これまでの多くの研究により、飛行機の翼の空気力学的性状をイオン風で高めることが可能なことが示されている7。第三に、この技術は、今後の航空機の進歩の主要な方向と考えられている「分散型推進」という方法を容易にする可能性がある8

航空機の推進は、定められた時間に定められた面を通過する空気の総質量である、自由流質量流量で定量化される。この量は、推進システムの断面積に比例し、また、推進システムによってもたらされる空気速度の増加にも比例する。分散型推進では、推進システム群が航空機の長さに沿って分散配置される。これは総断面積を増加させ、ひいては自由流質量流量を増加させる。しかし、それは空力抵抗(航空機と空気の間の摩擦力)も強める。Xuらが行ったように細いワイヤーを推進システムとして使えば、総断面積を大きく増やすことを可能にする一方、空力抵抗にはほとんど影響しない。

Xuらの推進システムのスケーラビリティは、今後の課題だ。イオン風推進は数トンの航空機を飛ばすことができるだろうか。この現実的問題は未解決だが、予測によると、太陽電池飛行機「ソーラーインパルス2」のような航空機は、イオン風のみを使って定常水平飛行を持続できる可能性がある9。イオン風推進システムの利点は、プロペラの場合とは対照的に、エネルギー変換率に影響することなく、未来の飛行機のエネルギー貯蔵装置である電池に直接接続できるという点だ。今後数十年間で、イオン風を使うドローンや航空機がエネルギー節約専用の二次的推進システムとしてイオン風推進システムを備えるようになり、その推進システムはもしかすると太陽電池パネルに接続されているかもしれない。

こうした技術的発展は、荷電分子生成と、その結果として生じるイオン風(こうした推進システムで中心的役割を果たす)に関する統合された物理学をよりよく理解することにつながるはずだ。イオン風で得られる推進力は、このシステムに流れる電流に比例し2,10、この電流はエミッターとコレクターの構成に強く依存する。Xuらの達成のおかげで、イオン風推進の概念と最適化の研究が今、始まろうとしている。

(翻訳:新庄直樹)

Franck Plourabouéは、フランス国立科学研究センター(CNRS)、トゥールーズ国立工科大学、およびポール・サバティエ大学の合同研究所であるトゥールーズ流体力学研究所(フランス)に所属。

参考文献

  1. Chattock, A. P. Phil. Mag. 48, 401–420 (1899).
  2. Xu, H. et al. Nature 563, 532–535 (2018).
  3. Gilmore, C. K. & Barrett, S. R. H. Proc. R. Soc. Lond. A 471, 20140912 (2015).
  4. Robinson, R. Am. Inst. Elect. Engineers Part I 80, 143–150 (1961).
  5. Stuetzer, O. M. Phys. Fluids 5, 534–544 (1962).
  6. Bondar, H. & Bastien, F. J. Phys. D 19, 1657–1663 (2000).
  7. Kriegseis, J., Simon, B. & Grundmann, S. Appl. Mech. Rev. 68, 020802 (2016).
  8. Sehra, A. K. & Whitlow, W. Jr, Prog. Aerosp. Sci. 40, 199–235 (2004).
  9. Monrolin, N., Plouraboué, F. & Praud, O. AIAA J. 55, 4296–4305 (2017).
  10. Monrolin, N., Praud, O. & Plouraboué, F. Phys. Rev. Fluids 3, 063701 (2018).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度