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謎の超新星様天体Cowが出現

2018年6月に突然現れた天体、AT2018cow(図中の十字の交差点)。ヘラクレス座方向にある。左の画像は発見後、中央は発見以前、右は両者の差を取ったもの。 Credit: The ATLAS team

2018年6月、超新星に似ているものの、特異な特徴を持つ天体(爆発現象)が発見され、天文学者の注目を集めている。この天体は、通常の超新星の10~100倍も明るい上、わずか数日でピークの明るさに達し、その正式名を略して「Cow」(雌牛)と呼ばれている。多くの天文学者がこの天体の追跡観測を行い、同年10月、その成因を推定する新たな論文2本が発表されたが1, 2、その正体を巡る議論はまだ決着していない。

この天体は、2018年6月16日、ハワイ諸島で観測を行っていたクイーンズ大学ベルファスト校(英国)の天文学者Stephen Smarttらによって発見された。Smarttは「それは突然、どこからともなく現れました」と振り返る。天体は、アルファベット順の命名ルールにより、AT2018cowと命名された。

間もなく、AT2018cow(略してCow)は、地球から約6000万パーセク(約2億光年)の距離にあるCGCG 137-068と呼ばれる銀河にあることが分かった。通常、超新星はピークの明るさに数週間で到達するが、Cowは数日でピークに達した3。リバプール・ジョン・ムーア大学(英国)の天体物理学者Daniel Perleyは、「この時点までに、どの研究者もやっていたことを放り出してCowを追い始めました」と話す。Cowの観測を行った世界中の主要望遠鏡は数十に上るとみられる。

Cowは、仮に通常の超新星だとすれば明る過ぎるなど、奇妙な点がいくつもある。カリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)の天体物理学者Iair Arcaviは、「この現象による電磁波放出のほぼ全てが、これまでに見たことがないものです。これが何であるかについて、まだ結論は出ていません」と話す。

Perleyらの研究グループ(東京大学、京都大学などの研究者を含む)は、2018年8月に観測結果をarXivプレプリントサーバーに投稿した4。彼らは、Cowは超新星関連の現象、あるいは、太陽の1万倍程度の質量の中間質量ブラックホールがその潮汐力で恒星を破壊している現象である可能性があると報告した。

Perleyらは、スペインのカナリア諸島のラパルマ島にあるロボット望遠鏡を使い、1カ月半にわたってほぼ毎晩、Cowを観測した。彼らは、地球上の各地にある望遠鏡のネットワークも使った。

一方、2018年10月25日、ノースウェスタン大学(米国イリノイ州エバンストン)の天体物理学者Raffaella Marguttiらの研究グループと、カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の天文学者Anna Hoらの研究グループもそれぞれ、Cowの観測結果と成因を推定する論文をarXivに投稿した1,2

この2つの研究グループは独立に同じ結論に達した。つまり、Cowは星の爆発現象であるが、「中心のエンジン」が存在して、それがエネルギーを放出し、周囲の爆発放出物などにエネルギーを供給して爆発放出物を明るく輝かせたために起こった現象だという。両グループは、中心のエンジンの有力な候補として、新たに形成されたブラックホールに物質が降着するプロセスと、高速で自転するマグネター(強い磁場を持つ中性子星)を挙げた。ブラックホールと中性子星はどちらも、大質量星が生涯を終えるときに後に残るものだ。

ブラックホールか中性子星か

Hoらの研究グループは数週間にわたり、チリのアンデス山脈にあるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)などを使って、このイベントが時間発展する際のミリ波放出のスペクトルを観察した。Hoらは、物質が光速の10分の1もの速度で外側へ広がっていることを見いだした2。また、彼らが報告したX線観測結果は、電波を放出している領域を光が横断する時間よりも短い時間スケールで変動し、中心部にコンパクトなエンジン(X線源)、つまり、ブラックホールか中性子星が存在することを示唆した。「私たちは、この現象が通常のメカニズムのどれとも合わないことを示すことができました」とHoは話す。

地球周回軌道上のNASAのX線宇宙望遠鏡NuSTAR(想像図)。 Credit: NASA/JPL-Caltech

一方、Marguttiらは、過渡的現象の観測のため、米航空宇宙局(NASA)のX線宇宙望遠鏡NuSTARを使う観測を提案し、認められていた。Marguttiらはこれを活用した。NuSTARなどによる観測でも、Cowが特異な現象であり、そのX線放出は通常の超新星よりも顕著に強いこと、また、変動が速いことなどが分かった。CowのX線放出の諸特徴は、その中心にブラックホールや中性子星などのエンジン(X線源)が存在しないとするモデルでは説明できなかった。

Marguttiは、「星の爆発を研究する者にとって、これは夢のようなイベントです。Cowの好都合な点は、中心のエンジンが爆発放出物で隠れてしまわず、裸に近かったことです。私たちはコンパクト天体(中性子星やブラックホールなど)の形成をリアルタイムで観察したのです」と話す。

カリフォルニア工科大学の天文学者Mansi Kasliwalは、「Cowは、ブラックホールや中性子星の誕生の直接の証拠になる事例なのかもしれません。大質量星の爆発の最も極端な例について、私たちに教えてくれているのだと思います」と話す。

今のところ、Cowの正体は決着していない。Hoらは論文の中で、「Cowの距離が比較的近いことを考えれば、Cowのような現象は少なくないと考えられる」という趣旨のことを書いている。Marguttiは、Cowのような現象がもっと観測され、今回のような結果につながる条件が解明され始めることを期待している。「ゲームは始まったばかりです」とMarguttiは話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190211

原文

Holy Cow! Astronomers agog at mysterious new supernova
  • Nature (2018-11-02) | DOI: 10.1038/d41586-018-07260-w
  • Davide Castelvecchi

参考文献

  1. Margutti, R. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/1810.10720 (2018).
  2. Ho, A. Y. Q. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/1810.10880 (2018).
  3. Prentice, S. J. et al. Astrophys. J. 865, L3 (2018).
  4. Perley, D. A. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/1808.00969 (2018).