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北極地方の異常な夏に海氷の融解が駄目押し

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191211

原文:Nature (2019-09-13) | doi: 10.1038/d41586-019-02653-x | Dramatic sea-ice melt caps tough Arctic summer

Alexandra Witze

激しい山火事からグリーンランドの氷床の融解まで、北極地方は悲鳴を上げている。

今年の夏、ロシアとアラスカの間に広がるチュクチ海(ベーリング海峡の北方にある北極海の一部)では、海氷はまばらにしか見られなかった。 | 拡大する

YURI SMITYUK/TASS VIA GETTY

2019年7月、ベーリング海での研究航海の途中でアンカレジ(米国アラスカ州)に上陸したChelsea Wegnerは衝撃を受けた。州内各地で発生中の山火事による煙が空を暗くし、ちょうど熱波に見舞われていたアンカレジの気温は観測史上初めて32℃を上回っていたのだ。

メリーランド大学(米国ソロモンズ)の海洋生物学者であるWegnerは、異例の暖かさによりベーリング海の海氷がほとんど全部溶けてしまったことも知った。「現実とは思えない瞬間でした」と彼女は言う。

その後、カナダの砕氷船に乗ってアラスカ沖を航海していたWegnerは、セイウチたちが開放水面で泳ぐ姿を目にした。彼らが普段よじ登って体を休めたり、北極圏の夏の間に出産して子育てをしたりするための海氷は、周囲に浮かんでいなかった。

2019年10月3日、米国立雪氷データセンター(National Snow and Ice Data Center;コロラド州ボールダー)により、この夏の海氷融解について最終的な数字が発表された。1978年に人工衛星を利用した記録が始まって以来、海氷の面積は最小に近い水準となった。

極北の異例の夏が終わった今、北極地方が直面する無数の問題について検証したい。

北極海の海氷が急減

北極海の海氷は、毎年、長い夏の間に溶けて冬に凍るというサイクルを繰り返している。しかし、北極地方の冬から春にかけての予想外の暖かさのせいで十分な量の氷が形成されず、この夏に海氷が激減する原因を作ってしまった(「最小記録に迫る」参照)。

最小記録に迫る
北極海の海氷で覆われている領域は、この夏、1978年に人工衛星での観測が始まって以来有数の小ささになった。(訳註:グラフはサイトにて随時更新中である。http://nsidc.org/arcticseaicenews) | 拡大する

SOURCES (FROM TOP): NATIONAL SNOW & ICE DATA CENTER; XAVIER FETTWEIS, UNIV. LIÈGE; NASA

この傾向が特に顕著だったのがベーリング海である。ウィリアムズカレッジ(米国マサチューセッツ州ウィリアムズタウン)の極域科学者Alice Bradleyは、「ベーリング海では1月から5月頃まで海氷が形成されませんでした。過去には見られなかった現象です」と言う。「2月には、ベーリング海の上空に低気圧が居座って、南からの温かい空気を送り込み、ようやく形成された小さな海氷を北の海域に押しやってしまった。

春と夏を通じて、ボーフォート海(北極海の一部で、アラスカの北方の海)や北極海中央部の海氷は、例年よりも速く溶けた。7月には氷の面積と体積が観測史上最小を記録し、8月初旬にはアラスカ沖の陸地から240km以内の海に海氷が全くない状態となった。

海氷の面積は9月18日に最小を記録後、増加に転じた。2019年の融解シーズンは、2012年9月17日に観測された338万7000km2という最小記録を破ることはなかったものの、海氷が減少のスパイラルに陥っていることを裏付けるさらなる証拠となる。

過去5年間、9月の海氷の面積は1981〜2010年の平均値よりかなり少ないところを推移していた。そして、北極海の海氷の体積も急激に減少している。2019年7月に記録された8800km3という体積は、1979〜2018年の平均値より47%も少ない。

再び海氷が形成される季節が始まっているが、形成される氷の多くは薄い「一年氷」であるため、翌年には溶けてしまう可能性が高い。

グリーンランドの氷床が融解

2019年の夏、グリーンランドの巨大な氷床も熱波に見舞われた。島全体で気温が上昇し、例年の7月末の平均気温より12℃も高くなったのだ。

氷床で最も標高の高い地点にある観測基地「サミット・ステーション」では、7月30日と31日に気温が0度を上回った。これがどんなに珍しいことであるかは、氷床コア記録から分かる。サミット・ステーションの氷は、西暦500年から1994年までの間に8回しか溶けたことがないのだ。

熱波に襲われた5日間で、グリーンランドは550億tの氷を失った。特に8月1日には24時間で130億tもの氷が失われたと見積もられている。これは、1950年に観測が始まって以来、最多の融解量である。

グリーンランド全体で、氷床の表面のうち2019年の夏にいくらかでも溶けた部分は約60%であった(「大規模な融解」参照)。これは、氷床の約98%が何らかの表面融解を起こした2012年の夏に次ぐ記録である。

大規模な融解
2019年の夏、グリーンランドの巨大な氷床では、広い範囲にわたり異例の表面融解が発生した。 | 拡大する

SOURCES (FROM TOP): NATIONAL SNOW & ICE DATA CENTER; XAVIER FETTWEIS, UNIV. LIÈGE; NASA

リエージュ大学(ベルギー)の極域科学者Xavier Fettweisによると、グリーンランドは2019年、小規模なところでは氷床の表面からの水の溶け出しにより、大規模なところでは氷山の分離により、恐らく1.5mm強の海面上昇に寄与したという。

今後、研究者らが夏に融解した氷の質量を、冬の積雪により加わった質量と比較すれば、2019年のグリーンランドは極端な減少が起きた2012年と少なくとも同程度の氷を失ったという結果になる可能性がある。

急上昇する気温

欧州委員会(EC)のコペルニクス気候変動サービス(Copernicus Climate Change Service:C3S)と米国海洋大気庁(NOAA)によると、2019年7月は、世界中で観測史上最も暑い月になったという。なお、過去5年間の全ての年が、観測史上最も暑い7月の上位5位までに入っている。

アラスカ、カナダ西部、ロシア中央部の北極地方の1月から7月までの平均気温は、いずれも例年より2℃以上高かった。7月の最初の週には、アラスカ南部の多くの都市で観測史上最高の気温が記録された。7月と8月には、アラスカ沖の海水温が例年に比べて高かったせいで、数千羽の海鳥が主に飢餓で死んだ。この現象は5年連続で発生している。

アラスカの気温は9月初旬になっても記録更新が続いた。同州北端のいくつかの都市では、観測史上最も暑い9月となった。

スウェーデンでは、7月26日にマルクスヴィンサ(Markusvinsa)村で34.8℃を記録した。これは、北極圏内に位置するこの地域で記録された気温としては観測史上最高だ。7月末にグリーンランドの氷床を溶かした熱波は、そこに到達する前に欧州西部に大きな被害をもたらし、ベルギーとオランダでは観測史上初めて気温が40℃以上になった。

2019年の熱波の影響により、アラスカでは森林火災が例年より長期間続いた。 | 拡大する

Lance King/Getty Images

広がる山火事

高温により、北方森林はいつ爆発するか分からない火薬庫と化した。2019年夏、アラスカでは州の南部と中央部を中心に、100万ヘクタール以上の森林が燃えた。山火事のシーズンは例年になく早い4月に始まり、例年より長期にわたって続いている。州当局は、燃え続ける山火事に対応する消防士を確保するため、公式の山火事シーズンの終わりを例年の8月末から9月末まで1カ月間延長しなければならなかった。

シベリアでは7月以降260万ヘクタール以上の森林が燃え、ロシア東部全域の都市を煙で包んだ(「各地で上がる山火事の煙」参照)。高温と風と雷雨によって火花が起こり、火災を拡大させた。ロシア政府は7月末にシベリアのいくつかの地域に非常事態宣言を出した。

各地で上がる山火事の煙
この夏の高温は、シベリアやロシア国内の他の地域で激しい山火事を引き起こした。

SOURCES (FROM TOP): NATIONAL SNOW & ICE DATA CENTER; XAVIER FETTWEIS, UNIV. LIÈGE; NASA

アラスカとシベリアの山火事の多くは8月には終息に向かい始めたが、それでも北極地方の山火事の持続期間としては記録的な長さとなった。6月だけでも大気中に5000万tの二酸化炭素が排出された。C3Sによると、これはスウェーデンの年間の二酸化炭素排出量にほぼ等しく、過去9年間の7月の北極地方での山火事による二酸化炭素排出量の合計にほぼ等しいという。

山火事がほとんど発生しないグリーンランドでも、この夏の記録的な熱波の間に数件の山火事が発生した。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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