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ノーベル物理学賞は系外惑星観測のパイオニアに

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191207

原文:Nature (2019-10-08) | doi: 10.1038/d41586-019-02964-z | Physics Nobel goes to exoplanet and cosmology pioneers

Elizabeth Gibney & Davide Castelvecchi

2019年のノーベル物理学賞は、太陽に似た恒星の周りを公転する系外惑星を発見した2人の天文学者と、宇宙の進化を記述する理論を構築した宇宙論研究者に授与される。

2019年ノーベル物理学賞を受賞したディディエ・ケロー(左)、ジェームズ・ピーブルズ(中央)、ミシェル・マイヨール(右)。 | 拡大する

L TO R: UNIV. CAMBRIDGE; TORBJÖRN ZADIG; INAMORI FOUNDATION

宇宙論研究者ジェームズ・ピーブルズ(James Peebles)と天文学者ミシェル・マイヨール(Michel Mayor)およびディディエ・ケロー(Didier Queloz)が、宇宙の進化と宇宙の中で地球が占める場所についての発見により、2019年のノーベル物理学賞を受賞した。

1995年、ジュネーブ大学(スイス)のマイヨールと、彼の当時の学生だったケローは、太陽に似た恒星の周りを公転する惑星を初めて発見した(M. Mayor and D. Queloz Nature 378, 355-359; 1995)。彼らの研究から、今日の天文学で最も活気がある分野の1つが始まった(2016年2月号「太陽系外惑星探査:次の20年」参照)。彼らは惑星の重力によって恒星がわずかにふらつく現象を利用して、ペガスス座51番星の周りを公転するペガスス座51番星bを発見した。この手法は、現時点で存在が知られている4000以上の系外惑星の一部の研究に利用されている(2013年1月号「わずか4.4光年先に、地球大の惑星!」参照)。

一方、プリンストン大学(米国ニュージャージー州)のピーブルズは、宇宙の歴史の現代的な理解の基礎となる理論的枠組みを構築した(P. J. E. Peebles and J. T. Yu Astrophys. J. 162, 815; 1970)。中でも重要なのは、ビッグバンの「残照」である宇宙マイクロ波背景放射(cosmic microwave background:CMB)の理論の基礎を打ち立て、宇宙の進化に関する現在の「標準モデル」の確立に寄与したことである。このモデルでは、暗黒物質として知られる謎の物質が、銀河や銀河団などの宇宙の大規模構造の形成に中心的な役割を果たしたとされている。

900万スウェーデン・クローナ(約1億200万円)の賞金の半分をマイヨールとケローが分け合い、残りの半分をピーブルズが受け取る。

宇宙科学研究所-CSIC(スペイン・バルセロナ)の天文学者Guillem Anglada-Escudé は、マイヨールとケローの発見から「現代の系外惑星科学が始まりました」と言う。それ以前にも、系外惑星は発見されていた。ただしその惑星は、パルサーと呼ばれる、死んだ恒星の核が高速で自転している中性子星の周りを公転していた。太陽に似た恒星の周りを公転する、つまり、生命が存在できる可能性のある系外惑星は、2人が発見したペガスス座51番星bが最初であった。2人の発見は、当初意外なものとして受け止められた。ペガスス座51番星bは巨大ガス惑星だったからである。天文学者たちは、このタイプの惑星は惑星系の外側の軌道を公転していると考えていたが、ペガスス座51番星からペガスス座51番星bまでの距離は太陽から水星までの距離よりも近かった。これは、他の惑星系が私たちの太陽系に似ているとは限らないことを示唆する初期の兆候となった。

Anglada-Escudéは、彼らの発見は疑いの余地がほぼなく、速やかに確認された点で、特筆に値するものだったと説明する。

最初の光を探る

一方、ピーブルズの理論は、宇宙論研究者がCMBと宇宙の始まりについてよりよく理解することを可能にした。

ストックホルム大学(スウェーデン)の分子物理学者で、2019年ノーベル物理学賞選考委員長であるMats Larssonは、この賞の授与を発表したときに、「ピーブルズによる理論的発見がなければ、過去20年間の素晴らしく高精度なこの放射の測定結果から、私たちはほとんど何も理解できなかったでしょう」と語った。

ピーブルズは「冷たい暗黒物質」理論と呼ばれる宇宙進化モデルを考案した。これは、高温・高密度状態から始まった宇宙が膨張して冷えてゆく際に、宇宙論的構造がどのように形成されたかを記述する理論である。その後、この理論に暗黒エネルギーに関するアイデアが追加されて、現代宇宙論の標準的な枠組みとなった。

暗黒物質の性質はまだ正確には解明されていないが、CMBの研究や、空の広大な領域での銀河の地図の作成など、宇宙のいくつかの高精度観測からは、この理論を裏付ける結果が得られている。パリ天体物理学研究所(フランス)の天文学者François Bouchetは、「もっと前に受賞してもおかしくない業績です」と言う。

系外惑星と宇宙論の研究が同じ賞を分かち合うのは異例だが、どちらの研究も「宇宙の中で人間が占める場所について、新鮮な視点を与える」ものであることは明らかだ、とBouchetは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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