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欧州の生命科学研究と地続きに

Credit: metamorworks/iStock / Getty Images Plus/GETTY

ドイツに本拠を置くEMBO(欧州分子生物学機構)が2019年、Global Investigators Network(GIN) プログラムをスタートさせた(embo.org/funding-awards/global-investigators)。欧州以外の地域のライフサイエンス分野における若手リーダー研究者に対し、欧州の研究者とのネットワーク形成や共同研究の機会の提供と助成を行うプログラムだ。

日本人にとってEMBOといえば、EMBL(欧州分子生物学研究所)を設立し、EMBOジャーナルを発行する組織として有名かもしれない。しかし、EMBOの活動はそれだけではない。欧州の基礎研究者を支援するさまざまな活動を長年にわたり行っている、研究者にとってありがたくも重要な組織なのである。特に、次世代を担う欧州の若手研究者の育成プログラム(Young Investigators Programme: YIP)に力が注がれてきたが、今回、その対象を欧州外へ広げたのがGINだ。

ただし、GINには応募条件があり、応募者はEMBOと提携を結んだ国の研究者でなければならない。そして残念ながら日本はまだ提携国ではないため、現時点では応募できない。しかし、多様な研究者の受け入れが良い効果を生むことは、EUの大型科学技術助成金(フレームワークプログラム:FP)でも認識されている(Nature 2019年8月23日号EditorialおよびNature ダイジェスト8月号「欧州連合の優れた取り組みとは何か」など参照)。そうした背景もあり、EMBOは日本の若手研究者に大きな期待を寄せ、日本との提携に向けた積極的な働きかけを行っているのである。

日本の研究者にとっても、欧州の研究者とのネットワーク構築は魅力的に違いない。欧州のライフサイエンス分野の研究者同士は、EMBOの貢献もあり、国境を超えた情報交換や共同研究もたやすい。自分の研究分野の共同研究者を探すのも容易だから、共同研究のスタートも素早い。GINのプログラムを利用できれば、日本の研究者にとっても欧州は、いわば地続きとなり、人や情報へのアクセスが容易になってくる。しかも、欧州の研究論文の被引用数は大きく、欧州の研究が世界の研究に与える影響も大きい。英国のEU離脱後の欧州における研究の未来を展望したNature の特別号(2019年5月23日号)からも、それはうかがえる。

GINの応募資格は、「研究室で研究グループのリーダーを1年以上6年未満務める」と「ラストオーサーとなった論文が少なくとも1本ある」だ。前者は、日本の大学ならば、教授、准教授、助教などであること(特任であるなしにかかわらず)だろう。難しいと思われるのは、後者だ。日本では、若手研究者の論文のラストオーサーはその指導者、というのが通例だからだ。ほとんどの若手研究者は、後者の応募資格を満たせないのではないか。EMBOのディレクター、マリア・レプチン氏に尋ねてみた。「国ごとの事情は考慮する。重要なのは、独立して研究を実施できる研究者であること」だという。若手研究者も責任著者になり、責任ある立場にあることを示す必要がありそうだ。

なお、現時点で日本から応募可能なEMBOのプログラムとして、短期奨学金がある(embo.org/funding-awards/fellowships/short-term-fellowships)。これは、共同研究あるいは技術習得のための3カ月未満の滞在に対するもので、日本からは2020年に限り、年間を通して応募可能である。また欧州でポスドクを目指す人のための奨学金(embo.org/funding-awards/fellowships/postdoctoral-fellowships)もある。EMBOは、世界各地でさまざまなワークショップや研究会を主催しており、2020年には日本で3回開催が予定されている。興味をお持ちの方は、いずれかへの参加をお勧めしたい。

藤川良子(サイエンスライター)

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2019.191227