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低・中所得国での耐性菌増加と食肉需要に関連

Credit: Qiu Haiying/VCG via Getty Images

鶏、豚、牛などの家畜に投与される抗生物質に対する耐性が、インドや中国東北部で上昇していることが明らかになった。この憂慮すべき傾向は、開発途上国における食肉生産の増加と関係しているという。この調査結果は、Science 2019年9月20日号で報告された。

アジア、アフリカ、南アメリカの家畜が保有する抗生物質耐性菌を調査したこの研究1によれば、ケニア、ウルグアイ、ブラジルにも薬剤耐性菌のホットスポットが出現している。これらの地域では、家畜の成長促進と感染症予防のために抗生物質を投与するような集約的な畜産経営が行われるようになり、2000年以降、食肉生産量は急激に増加している。

耐性菌のホットスポット
食肉生産が急増している国では、家畜はより多くの薬剤耐性菌を保有している。

論文の共同著者であるチューリヒ工科大学(スイス・バーゼル)の疫学者Thomas Van Boeckelは、「(家畜で)抗生物質耐性が上昇していること、そして低所得国や中所得国では特に急速に上昇していることを示すいくつかの証拠が、初めて得られました」と話す。増大する脅威への対策を各国政府が講じるべきであり、世界規模での連携もまた必要だと彼は指摘する。

耐性が時間とともにどのように出現してきたかを明らかにするために、Van Boeckelらは4つの一般的な細菌(サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、大腸菌)に焦点を当て、開発途上国で行われた901の疫学研究を分析した。その情報に基づいて、多剤耐性がすでに出現している場所と出現しつつある場所とを地図上に落とし込んだ。

彼らの結果はまた、家畜の体重増加促進目的で最も広く使われている抗生物質4種(テトラサイクリン系、スルホンアミド系、キノロン系、ペニシリン系)に対する耐性率が最も高いことを示している。細菌が耐性を獲得した薬剤の割合は2000〜2018年の間に鶏と豚で約3倍に、牛では2倍に増えた。

抗生物質耐性の専門研究機関であるルサラ財団研究所(メキシコシティ)の微生物学者Carlos Amábile-Cuevasは、ホットスポットが存在する国のいくつかは毎年何千tもの食肉を輸出しているため、状況は深刻だと話す。世界中で消費される鶏肉と豚肉の約5分の1が、そうした地域で生産されているのである。

各国政府が家畜に対する抗生物質の使用を法的に規制したとしても、一方で抗生物質を使って生産された食肉を輸入していたのでは意味がない。「この問題に国境はないのです」とAmábile-Cuevasは指摘する。

1950年代から抗生物質を使ってきた高所得国は、耐性が上昇しつつある国で安全な畜産経営が行われるよう財政支援すべきだとVan Boeckelは主張する。「この世界的な問題は私たちが生み出したのですから、私たちには大きな責任があります」と彼は言う。

翻訳:藤山与一

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2019.191203

原文

Alarm as antimicrobial resistance surges among chickens, pigs and cattle
  • Nature (2019-09-20) | DOI: 10.1038/d41586-019-02861-5
  • Emiliano Rodríguez Mega

参考文献

  1. Van Boeckel, T. P. et al. Science 365, eaaw1944 (2019).