News

100万人ゲノム解析計画に遺伝カウンセリングを本格導入

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191116

原文:Nature (2019-08-21) | doi: 10.1038/d41586-019-02509-4 | Huge US government study to offer genetic counselling

Jonathan Lambert

米国政府主導の大規模ゲノム解析計画を運営する米国立衛生研究所は、遺伝カウンセリング企業と提携して参加ボランティアを支援することを発表した。

米国では100万人以上の参加者登録を目指す大規模なゲノム解読プロジェクトが進められている。 | 拡大する

HYDROMET/GETTY

100万人のゲノム塩基配列解読を目指す米国の「All of Us(オール・オブ・アス)研究プログラム」は、参加ボランティアが自分のゲノム解析結果を理解し向き合うのを支援するために、遺伝カウンセリング企業と提携する。「All of Us」は、この種のサービスを提供する米国政府主導のプロジェクトとして最大規模のものとなる。このプロジェクトを運営する米国立衛生研究所(NIH;メリーランド州ベセスダ)は、2019年8月21日、遺伝カウンセリングを請け負うカラーゲノミクス社(Color Genomics;米国カリフォルニア州バーリンゲーム)に5年間で460万ドル(約5億円)の助成金を出すことを発表した。

カラーゲノミクス社は、健康に深刻な影響を及ぼしかねない遺伝的バリアント(乳がん関連遺伝子BRCAの変異など)を持つ参加ボランティア全員に対して、解析結果を渡す際にカウンセリングを行う。同社は、参加者全員に配布する教材も開発し、また、自分のゲノム解析結果をカウンセラーと相談したいと希望する参加者には電話相談で応じる予定である。

「これは、参加者全員に研究の結果を伝える方法として責任あるやり方であり、公平性も高い」と、マギル大学ゲノミクス・政策センター(カナダ・モントリオール)の所長Bartha Knoppersは話す。「彼らは、研究で得られた知見と参加者たちの間をしっかり橋渡しするための土台を作ろうとしているのです」。

2018年5月に発足した「All of Us」は、100万人以上の参加ボランティア登録を目指している。参加者には、電子カルテやゲノム解析データ、血液や尿の試料といった多くの健康関連情報を提供してくれるように依頼する。調査・解析に当たる研究者らは、スマートフォンに入っているような個人活動の追跡アプリケーションで記録されたデータを収集する計画も立てている。収集した情報はオンラインのデータベースに保存され、外部の研究者は「All of Us」から許可を得てそこにアクセスできる。

「All of Us」運営の優先事項の1つとなっているのが、生物医学研究で通常軽視されている民族集団や社会経済的集団に由来する人々の参加登録だ。これまでのゲノム解析研究の大半は、非ヒスパニック系白人を対象に行われてきた。最近の総括によれば、2018年の時点で、疾患のゲノム研究で対象となった人々の78%が欧州系だった(G. Sirugo et al. Cell 177, 26–31; 2019)。こうした偏りがあると、遺伝子検査研究から導かれる結論の適用可能性が狭まってしまい、他の集団に存在する遺伝的バリアントについて、誤解を招く解釈や危険な解釈をしてしまいかねない。

「All of Us」の2019年7月時点の参加者登録数は、米国全体で計17万5000人に上る。その約50%は有色人種となっており、80%は生物医学研究で歴史的に軽視されてきた集団に由来する人々だ。「All of Us」の研究者らは、まだ誰のゲノム塩基配列も解析していないが、2020年前半には解析結果を参加者に提供したいと考えていると、同研究プログラムの副理事を務めるStephanie Devaneyは話す。

ゲノミクスや生理学などのデータを使って個人の治療法をあつらえる「プレシジョン(高精度)医療」の飛躍的進歩には、長期的なデータセットが必要であり、それを得るため「All of Us」では参加者を(理想的には一生涯)追跡し続ける必要がある。そこで、遺伝カウンセリングの出番となる。

「遺伝カウンセリングは、我々が参加者に還元する、つまり、解析結果を参加者に伝えるという我々の使命を果たすために、不可欠なものなのです」とDevaney(40ページ「デジタルデータを活用した研究に必要な同意とは」参照)。

細部を詰める

遺伝カウンセリングの導入は正しい方向に踏みだす一歩だと、ベイラー医科大学(米国テキサス州ヒューストン)の生命倫理学者Amy McGuireは話すが、「物事は細部が難しい」と注意も促している。

ゲノムや生理学データを使って1人1人にあった治療法をあつらえる「プレシジョン医療」の進歩には、長期に及ぶ参加者の追跡が必要であり、参加への見返りとして結果を伝える「遺伝カウンセリング」も不可欠だ。 | 拡大する

Cavan Images/GETTY

いずれにしてもDevaneyや彼女の同僚らは、「All of Us」が参加者に本人のゲノムについて何をどのように伝えるのか、といった細かい点をいろいろと詰める必要がある。健康に対して明白で対応可能な影響を及ぼす遺伝的バリアント(BRCA遺伝子の変異など)の情報については、遺伝カウンセラーが参加者らに伝える予定である。しかし、疾患との明確な関連性がない遺伝的バリアントについては、参加者にどの程度伝えるかを運営側がまだ検討している段階だ。

遺伝的バリアントに関する情報は時と共に変わっていく場合もあるため、運営側に課せられる仕事は一層複雑になる。無害だと現在考えられている変異が、ある日から発がんリスクの上昇を意味すると見なされるようになる可能性もある。「All of Us」のゲノミクス計画部長Brad Ozenbergerによれば、参加者には、自身の遺伝子検査の結果の意味するところが、特定の変異の解明が進むにつれて変わってしまう場合もあると伝えることになるという。ただし、そうした進歩による情報の変化を参加者に知らせる頻度については、彼やその同僚らがまだ詰めているところだ。

遺伝的バリアントの影響は、民族によっても左右されることがある。医師ががん患者に化学療法を施すべきかどうかを判断する助けに用いる特定の遺伝子検査は、欧州系白人でしか試験されていない。これらの検査が有色人種に対しても正確な結果を出せるかどうかは不明なのである。「All of Us」とカラーゲノミクス社は現在、計画の参加者にそうした不確定性を伝える最良の方法を練り上げているところだ。

しかしカラーゲノミクス社によれば、同社は多様な参加者とやりとりをする準備ができているという。「我々はこれまで、たくさんの多様なコミュニティーと共に仕事をしてきました」と、同社の研究科学事業担当部長のAlicia Zhouは話し、その中にはテクノロジー企業や製造会社、アラスカの鉄道職員やトリニダード・トバゴの住民などが含まれると説明している。

(翻訳:船田晶子)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度