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自己免疫疾患を抑制する制御性CD8 T細胞

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191135

原文:Nature (2019-08-22) | doi: 10.1038/d41586-019-02271-7 | Regulatory T cells subdue an autoimmune disease

Hye-Jung Kim & Harvey Cantor

CD8 T細胞と呼ばれる免疫細胞は、通常、病原体を殺傷するが、今回、自己反応性CD4 T細胞を抑制する亜集団の存在が示された。この細胞集団は、マウスを自己免疫疾患から防御していた。

抗原提示細胞により活性化されたT細胞。 | 拡大する

JUAN GAERTNER/SPL/Getty

免疫系は、複雑な機構を進化させることで、宿主自身の組織を温存しながら、迅速に侵入微生物を破壊する応答ができる。この繊細なバランスの調節は、主に免疫系の重要な2つのタイプのT細胞に依存している。これらのT細胞は、細胞表面に発現するタンパク質(CD4あるいはCD8)によって区別されていて、それぞれCD4 T細胞、CD8 T細胞と呼ばれている。一般的に、CD8 T細胞の役割は、侵入微生物に感染した細胞を排除したり、非自己細胞や異常な細胞を破壊したりすることだと考えられている。しかし、このほどスタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア州)のNaresha Saligramaら1は、CD8 T細胞が自己反応性CD4 T細胞を抑制し、多発性硬化症のマウスモデルにおいて自己免疫疾患を軽減するという別の役割を持つことを示し、Nature 2019年8月22日号481ページで報告した。

この研究グループは以前の研究2で、自己免疫疾患であるセリアック病の患者が、この疾患のアレルゲンであるグルテンタンパク質に曝露された際、グルテンを特異的に認識できるCD4 T細胞が活性化されただけでなく、CD8 T細胞のサブセットも活性化されることを示した。この結果は予想通りであったが、CD8 T細胞がこの状況下でどのような働きをしていたかは正確には分からなかった。今回Saligramaらは、同様の協調的なT細胞応答が、多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)において検出されるかどうかを調べて報告した。この自己免疫疾患モデルは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG;神経細胞を覆うミエリンと呼ばれる脂肪層の構成要素)をマウスに注入することで誘発できる。マウスにMOGを免疫後、(免疫細胞の中では)CD4 T細胞およびCD8 T細胞の両方の細胞集団が顕著に増殖して、クローン性の増殖による細胞集団が生じた(図1a)。

図1 CD8タンパク質を発現するT細胞による、自己免疫の制御機能
Saligramaら1は、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)と呼ばれる多発性硬化症のモデルを用いた。このモデルは、マウスにタンパク質であるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を注入することで自己免疫疾患を誘発できる。
a CD8 T細胞およびCD4 T細胞と呼ばれる免疫細胞は、抗原と呼ばれるペプチド断片を認識するT細胞抗原受容体(TCR)を細胞表面に発現している。抗原の認識が起こると、T細胞は増殖する。EAEでは、疾患が進行すると、MOGを認識するCD4 T細胞(濃い赤色)と未知の標的を認識するCD8 T細胞(濃いオレンジ色)の両方が増殖した。
b Saligrama らは、酵母細胞を用いて、マウス主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合したペプチドのライブラリーを作製し、CD8 T細胞由来のTCRをベイトとして用いてスクリーニングすることで、CD8 T細胞のTCRによって認識されるペプチドの特定を行った。
c マウスに、MOGおよび特定したペプチドの両方をワクチン接種すると、対照マウスと比較してEAEの重症度が軽減された。この効果は、CD44、CD122、Ly49のタンパク質を発現するCD8 T細胞の増殖と関連していた。これらの細胞は、MHCタンパク質によって提示される抗原の認識を伴う過程で、CD4 T細胞の増殖を抑制した。 | 拡大する

Saligramaらは、このように誘導された各T細胞集団について、T細胞抗原受容体(TCR;T細胞受容体とも呼ばれる。T細胞上に発現する、抗原を認識するタンパク質)を特定し、そのTCRが認識できる抗原(免疫応答を刺激する外来あるいは自己のペプチド断片)の特定を試みた。TCRが抗原を認識すると、T細胞の活性化および増殖が引き起こされる。MOGの注入によって誘導されたCD4 T細胞は、MOG由来のペプチド断片を認識したことから、ミエリンに被覆された神経細胞を特異的に攻撃し、疾患を引き起こすようにプライミングされていることが分かった。しかし、CD8 T細胞クローンのTCRはMOGを認識せず、調べた約350のミエリン由来ペプチドのいずれも、それらのクローンのTCRを活性化できなかった。では、これらのCD8 T細胞クローンはどのように活性化されたのだろうか?

Saligramaらは、CD8 T細胞クローンのTCRを活性化するペプチド抗原を見つけ出すために、約108種類のさまざまなペプチドからなるライブラリーを作製し、各ペプチドを、免疫系において主要組織適合遺伝子複合体(MHC;T細胞に抗原を提示するのに必須の構成要素)のクラスIaタンパク質に提示させた。このペプチド–MHCライブラリーを酵母細胞に発現させ、CD8 T細胞由来のTCRをベイトとして用いて、TCRとペプチド–MHCとの結合を調べることで、TCRによって認識される抗原ペプチドを捕らえようとした(図1b)。TCRに結合するペプチドを特定するこの手法は、広く用いられていない。大規模なライブラリーの作製が難しいためだ。発現させる各ペプチド–MHC複合体が構造の忠実度や安定性を十分備えていて、抗原スクリーニングが可能な感度や効率を持つ大規模なライブラリーが必要なのだ3。しかしSaligramaらの技術は、これらの問題を克服している。Saligramaらの手法の強みは、数字を一目見れば理解できる。単一のTCRを用いて、約5 ×108種類のペプチド–MHC複合体をスクリーニングすることで、TCRに結合できる約10個のペプチド–MHC複合体が特定されたのだ。これは大きな干し草の山の中から小さな針を見つけ出すのに似ている。

複数回のスクリーニングを行うことで特定されたペプチドは、マウスのタンパク質と一致するものが見つからなかった。そこでSaligramaらは、これらのペプチドは通常体内に存在する自己ペプチドの代わりとして働くと考え、それらを「代替」ペプチドと呼ぶことにした。これらのペプチドを認識するT細胞がEAEに関与する仕組みを決定するために、代替ペプチドとMOGの混合物をマウスに免疫した。ワクチン接種に用いた代替ペプチドを認識するCD8 T細胞は、増殖し、EAEを促進するCD4細胞の増殖を抑制した。これは、おそらくMOG反応性のCD4 T細胞上に発現するペプチド–MHC複合体を認識したためと考えられる(図1c)。ただし、これらのCD8 T細胞が体内で認識するペプチドはまだ特定されていない。このように免疫応答を抑制できる細胞は制御性細胞と呼ばれる。これらの制御性CD8 T細胞の最初の増殖が、CD4 T細胞によって提示されるペプチドに依存するのか、あるいは実際には他のタイプの免疫細胞によって提示されるペプチドに依存するのかどうかも、今回の研究では明らかになっていない。

特定のT細胞クローンが発現するTCRの特定法と塩基配列解読法が進歩したことで、TCRを基盤とする重要な治療法の開発につながった。しかし、TCRに結合するペプチド–MHC複合体のアイデンティティーは、一般的に解明されていない。Saligramaらの手法の重要な特徴は、ペプチドを修飾してMHCクラスIaに対する親和性を高め、ライブラリーのほとんどのペプチドにMHCへの結合を保証したことである。これらの修飾は、ペプチド–MHC複合体のTCRへの結合の強度も上昇させることになり、従って、制御性CD8 T細胞を刺激する能力も高めた可能性がある。この点は制御性CD4 T細胞と類似しているかもしれない。以前の研究4から、ペプチドのMHCクラスIIタンパク質への結合を増強したり、インスリン由来の自己ペプチドのT細胞活性化効果を増強したりする変異を導入することで、インスリン特異的な制御性CD4 T細胞の分化を刺激するペプチド–MHC複合体が生じることが示唆されている。おそらく、ペプチド–MHC複合体のTCRへの結合の強度は、制御性CD8 T細胞に対する同様の刺激効果を持っていると考えられる。

Saligramaらの手法の欠点の1つは、特にクラスIaタイプのMHCとペプチドの複合体を認識する細胞の研究に偏っていることかもしれない。他の研究5から、今回見つかったのと同様の制御性CD8 T細胞がMHCクラスIbタンパク質とペプチドの複合体も認識することが明らかになっている。Saligramaらによって特定された制御性CD8 T細胞が異なる2つの細胞系譜から構成されるのか、また、それらが補完的に働いて、異なる組織で発現するMHCクラスIa あるいはクラスIbを監視することにより自己免疫を阻止するのか。そうした疑問を明らかにすることは興味深いかもしれない。

CD4 T細胞の自己免疫応答を減弱させるCD8 T細胞集団についてのSaligramaらのさらなる研究は、これらのCD8 T細胞が「エフェクター」CD8 T細胞とは異なる特殊な細胞系譜であるかどうかの研究となっていった。エフェクターCD8 T細胞は、侵入微生物に応答するように遺伝的にプログラムされている。Saligramaらは、制御性の活性がCD8 T細胞の小さな亜集団(5%未満)に見られること、この細胞集団は細胞表面に特定の3つのタンパク質(CD44、CD122、Ly49)を発現していることを見いだした6。この細胞集団のRNAを解析すると、最も典型的なエフェクターCD8 T細胞のプロファイルとは異なっていること、また、ナチュラルキラーT細胞と呼ばれる細胞のプロファイルや他の自己免疫疾患で特定された制御性CD8 T細胞のプロファイル5と共通の特徴を持つことが示された。

CD8 T細胞は、CD4 T細胞のように、微生物を標的とするエフェクター細胞系譜と自己反応性CD4 T細胞を抑制する制御性細胞系譜に分けられる可能性がある。細胞の表面マーカーを指標に単離された細胞の追跡は、CD4 T細胞の制御性細胞系譜の定義に役立った。同様にSaligramaらの手法は、CD8 T細胞の制御性細胞系譜の存在を証明する可能性がある。

最後に、Saligrama らは、多発性硬化症を最近発症した患者においてCD4およびCD8の T細胞が協調的に誘導されることを観察した。このことから、Saligramaらのマウスでの知見がヒトにも適用できることが示唆される。ヒト制御性CD8 T細胞と推定される集団を確実に単離できる細胞表面マーカーを特定できれば、そのような細胞がヒト自己免疫疾患に関与するかどうかに関して手掛かりが得られるに違いない。さらに、そのような細胞が認識する抗原を特定できれば、新しい臨床治療法への道が開く可能性がある。

(翻訳:三谷祐貴子)

Hye-Jung Kim & Harvey Cantorは、ハーバード大学医学系大学院およびダナ・ファーバーがん研究所 (米国マサチューセッツ州ボストン)に所属。

参考文献

  1. Saligrama, N. et al. Nature 572, 481–487 (2019).
  2. Han, A. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 13073–13078 (2013).
  3. Gee, M. H. et al. Cell 172, 549–563 (2018).
  4. Daniel, C., Weigmann, B., Bronson, R. & von Boehmer, H. J. Exp. Med. 208, 1501–1510 (2011).
  5. Nakagawa, H., Wang, L., Cantor, H. & Kim, H.-J. Adv. Immunol. 140, 1–20 (2018).
  6. Anfossi, N. et al. J. Immunol. 173, 3773–3782 (2004).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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