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炭素だけからなるリング状分子の合成・単離に成功

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191109

原文:Nature (2019-08-15) | doi: 10.1038/d41586-019-02473-z | Chemists make first-ever ring of pure carbon

Davide Castelvecchi

18個の炭素原子がリング状につながったシクロカーボンが合成・単離され、その構造が初めて調べられた。この分子は半導体の性質を持つと予想されており、エレクトロニクスへの応用が期待される。

炭素の円環
炭素だけでできたリング状分子シクロ[18]カーボン(C18)が初めて合成・単離され、原子間力顕微鏡で画像化された。 | 拡大する

SOURCE: K. KAISER ET AL. SCIENCE (2019); IBM RESEARCH

ほとんどの化学者が随分前に単離と構造評価を諦めた、18個の炭素原子だけからなるリング状分子「シクロ[18]カーボン」(C18)。このほど、オックスフォード大学(英国)の化学者Przemyslaw GawelらとIBMチューリヒ研究所(スイス)のKatharina Kaiserらの共同研究チームによって初めて合成・単離され、その構造が調べられた。この研究の結果は、2019年8月15日、Scienceで発表された(K. Kaiser et al. Science http://doi.org/c9mq; 2019)。

研究チームは、まず炭素と酸素からなる三角形の分子C24O6を合成し、それに電圧パルスをかけて操作することで、シクロ[18]カーボンを合成した。初期の研究では、この分子は半導体として振る舞い、類似の結合様式の直線状炭素鎖は分子スケールの電子部品として役立つ可能性があると示唆されていた。

純粋な炭素は、ダイヤモンド、グラファイト、ナノチューブなど、さまざまな形態をとる。各炭素原子は、別の炭素原子との間に数種類の構造の化学結合を形成する。例えば、各炭素原子が4個の炭素原子と結合すると、ダイヤモンドに見られるようなピラミッド状のパターンを作る。各炭素原子が3個の炭素原子と結合すると、原子1個分の厚さのグラフェンシートに見られるような六角形パターンを作る。この六角形パターンは、バルクのグラファイトやカーボンナノチューブ、フラーレンと呼ばれる球状分子にも見られる。

また、各炭素原子は、2個の炭素原子と結合を形成することもできる。ノーベル化学賞を1981年に受賞したコーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の化学者Roald Hoffmannをはじめとする研究者は以前、各炭素原子が2個の炭素原子と結合することによって炭素原子だけからなる鎖状分子が形成されることを、理論研究で示していた。結合パターンとして、各炭素原子が両側に二重結合を形成する(隣り合う原子が電子2個を共有する)クムレン型、もしくは、片側に三重結合、もう片側に単結合を形成するポリイン型が考えられることから、多くの研究チームが、これらのパターンに基づく環状分子や鎖状分子の合成・単離を試みてきた。

しかし、このタイプの構造は、グラファイトやダイヤモンドよりも化学的反応性が高いので、特に曲がったときに安定性に欠けるとGawelは言う。安定な鎖や環を合成するには、通常、炭素以外の元素を取り入れる必要がある。一部の研究で、ガス雲の中で炭素だけからなる環状分子が形成される可能性が示唆されたが、決定的な証拠は見つからなかった。

炭素の環が見えた

今回Gawelらは、念願のシクロ[18]カーボンを合成・単離し、原子間力顕微鏡(AFM)像を得た(「炭素の円環」参照)。まず、Gawelの共同研究者であるオックスフォード大学の化学者Lorel Scrivenは、溶液中で行う標準的な「湿式」化学合成を用いて、炭素と酸素からなる三角形の前駆体分子C24O6を合成した。この分子は、炭素でできた大きな三角形の環の各頂点に、炭素でできた正方形が結合した構造をとり、各正方形に酸素原子が2個ずつ結合している。Scrivenは合成後、この試料をIBMチューリヒ研究所に送った。IBMの共同研究者は、走査トンネル顕微鏡としても機能する原子間力顕微鏡(STM-AFM)の高真空チャンバーの中で、塩化ナトリウム層の上に載せたC24O6分子に電圧パルスをかけて操作し、6個のCOを除去しようと試みた。試行錯誤を繰り返した後、走査画面にリング状のシクロ[18]カーボンが現れた。「こんなふうに見えるとは思っていませんでした」とScrivenは言う。

今回、IBMの研究者らは、シクロ[18]カーボンが三重結合と単結合が交互に並んだポリイン型の結合様式を持つことを示した。以前の理論研究では、シクロ[18]カーボンはポリイン型の結合を有するのか、あるいは二重結合だけからなるクムレン型なのかについて、一致した結果が得られていなかった。

ポリイン型の炭素鎖やリングは、半導体的に振る舞うと予想されるため関心を集めている。また、今回の研究から、長い直線状の炭素鎖も半導体になり得ることが示唆されており、これらの分子は将来、分子サイズのトランジスターの部品として役立つ可能性があるとGawelは言う。

研究チームは、当面、シクロ[18]カーボンの基本特性を研究するつもりでいるが、この分子は1個ずつしか作ることができない。このため、より多くの分子を合成できる別の手法を試し続けるという。「今のところ、研究は非常に基礎的な段階です」とGawel。

大阪大学(台湾国立交通大学にも所属)の化学者、戸部義人は、新しい研究分野を切り開く「実に見事な成果です」と話す。「私も含めて多くの科学者が、シクロカーボンを単離してその構造をSPM(走査型プローブ顕微鏡)を用いて決定しようと試みましたが、できませんでした。気相での分光法で推定されたクムレン型のD18h構造(正18角形)と異なる点も非常に興味が持たれます」。

Hoffmannも「素晴らしい研究ですね」と称賛しつつも、今後の課題として、塩化ナトリウム層の表面から剝してもシクロ[18]カーボンが安定かどうかや、より高い効率で、少なくとも一度に1分子以上のシクロ[18]カーボンを合成できるかどうかを明らかにする必要があると述べる。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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