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木星の低密度コアは巨大衝突の証拠?

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191129

原文:Nature (2019-08-15) | doi: 10.1038/d41586-019-02401-1 | Signs that Jupiter was mixed by a giant impact

Tristan Guillot

木星の低密度の中心核は、木星が形成される最終段階に、天王星ほどの質量の原始惑星が木星に衝突した結果かもしれないことがシミュレーションで分かった。この結果は、巨大衝突は惑星の形成期には頻繁に起こっている可能性を示している。

木星と、木星探査機ジュノー。 | 拡大する

Vadim Sadovski/Getty

米航空宇宙局(NASA)の木星探査機ジュノーは、この数年で木星の重力場を極めて精密に測定した1,2。この測定の結果、木星の水素とヘリウムからなる流体のエンベロープ(外層)の組成は一様ではないことが明らかになった。つまり、エンベロープの内側の部分は、外側の部分よりも重元素(水素とヘリウムよりも重い元素)を多く含んでいる3,4。中山大学物理・天文学科(中国珠海市)のShang-Fei Liu(劉尚飛)ら(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター特任助教、堀安範を含む)は、この非対称性は、初期の木星と、地球の約10倍の質量を持つ1つの原始惑星(微惑星が集積して抜きんでて大きく成長した天体)の正面衝突によって生じたという仮説をNature 2019年8月15日号355ページで提案した5。今日見られる木星の構造は、木星の原始の中心核(コア)と原始惑星の中心核が合体し、木星のエンベロープと部分的に混ざり合ったと考えることで説明できる、とLiuらは提案する。

衝突のシミュレーション結果
10地球質量の中心核を持つ木星と10地球質量の原始惑星の正面衝突のシミュレーション結果(断面図)。色は物質の密度を示し、黄色が高く、濃い青色が低い。左上:衝突前。右上:原始惑星が木星に潜り込んで中心核にぶつかる直前。左下:木星の中心核の破壊後。右下:衝突から約10時間後。 | 拡大する

Ref.5

惑星サイズの岩石天体には衝突の痕跡があふれている。例えば、月はクレーターで覆われているし、月そのものが地球と大きな天体との45億年前に起こった衝突によってできた6。流体惑星の表面には衝突の直接的な痕跡は残らないが、土星、天王星、海王星の自転軸の傾き[土星(27°)、天王星(98°)、海王星(30°)]は、過去に起こった激しい衝突を示している可能性がある7。というのも、現在もある惑星の他に、地球質量の10倍のオーダーの巨大な原始惑星が初期の太陽系に存在したに違いないことが分かっている8。一方、木星の自転軸の傾きは3°と小さく、衝突を免れたように思われる7。しかし、Liuらによると、そうではなかった。

木星の大部分は水素とヘリウムでできている。しかし、その大気組成9と重力場の観測は、木星が中心核という形と水素・ヘリウムエンベロープの中に、無視できない割合のより重い元素を含んでいることを示す。エンベロープは流体で、大部分は対流性であると考えられている10。だから、ジュノーの観測で木星のエンベロープの組成は一様ではないことが明らかになると、その観測結果は驚きをもって受け止められた。実際には、中心核は、部分的にエンベロープで薄められ、木星半径のほぼ半分にまで広がっているらしい3,4(図1)。

この内部構造を直接的に作り出すためには、木星の中心核ができた後、エンベロープの成長の前半の期間に、10~20地球質量3,4の重元素を初期の木星に供給すること(降着)が必要だろう。また、この物質の降着は、木星が現在の質量の約半分に成長した後、止まる必要があるだろう。

惑星形成モデルは、この仮説がありそうもないことを示す。これらのモデルでは、木星が約30地球質量に達する頃、降着によるエンベロープの成長は速く11、木星はミリメートル以上の大きさの塵粒子を効率的に押し出す12。その結果、エンベロープは重元素に乏しいはずだ。その後に起こる、微惑星(小惑星の大きさの惑星の前駆天体)や小さな惑星による重元素の供給は効率が悪く、観測されたような、深さとともに増加する重元素存在度を説明できない。エンベロープによる中心核の浸食は起こり得るが10,13、シミュレーションによると、このプロセスはエンベロープに存在する組成勾配を大きくするのではなく、小さな組成勾配をもなくす傾向がある14

Liuらが提案した解決策はシンプルだ。彼らのモデルでは、重元素の高密度の中心核を持つ1つの原始惑星が、形成中の木星と衝突する。2つの天体の中心核は合体し、部分的に木星のエンベロープと混ざり合う。この説明は、約10地球質量の大きな原始惑星と、ある程度正面衝突に近い衝突を必要とするが、この2つの必要条件は可能性がかなりありそうだ。Liuらは、冷却とその後のエンベロープの外側部分の対流混合は重元素の一部のみを混ぜ、木星の薄まった低密度の中心核は比較的影響を受けずに残ることを示した(図1)。この描像は、ジュノーが見いだした低密度の中心核3,4と、木星大気での重元素の全球的な存在度9を一挙に説明するかもしれない。

図1 木星の3つの段階
Liuらは、現在の木星の内部構造は、初期の木星と、天王星と同程度の質量を持った原始惑星との巨大衝突の結果だと提案した5
a Liuらのモデルでは、衝突前、木星と原始惑星の両方に、重元素の高密度の中心核と水素・ヘリウムエンベロープがある。色は物質の密度を示し、白は密度が低く、暗いオレンジは密度が高い。
b 衝突の直後、2つの中心核は合体し、木星のエンベロープと部分的に混ざり合って薄まった低密度の中心核を作る。
c 時間が経過すると、薄まった低密度の中心核は残るが、部分的にエンベロープに浸食され、エンベロープが重元素に富むようになる。 | 拡大する

今後、Liuらのモデルは改良されるべきだろう。特に、太陽系形成の現実的なシナリオと結び付ける必要がある8。さらに、このモデルでの重元素の混合は、熱と元素の拡散、つまり、拡散対流と呼ばれるプロセスを考慮すべきだ13。また、Liuらの結果は、ジュノーで得られた木星の重力場、分光観測で得られた木星の大気組成10とも定量的に比較されるべきだ1,2

Liuらのモデルは、巨大衝突は惑星の形成期に頻繁に起こる可能性があることを示す。この可能性は、太陽系の惑星の自転軸の傾きを説明するかもしれない。また、ホットジュピターと呼ばれる、巨大系外惑星の一部が、100地球質量を超える重元素をどうやって降着させたのかも説明するかもしれない15,16。この重元素量の特徴は、従来の形成モデルで説明することが極めて難しい。ホットジュピターは、その主星の近くに位置していて、そこは主星の引力が極端に強い領域だ。その結果、こうした系外惑星は、原始惑星を追い払うのではなく、一連の巨大衝突によって原始惑星を効率的に集め、重元素含有量を増やすことができるのかもしれない。

巨大惑星は、流体の表面を持ち、衝突イベントの痕跡を表面には記録できないものの、今日観測される惑星系に至るまでの激しい過去に関する手掛かりを保持している。Liuらによって提案されたモデルは、現在の観測を太陽系形成の初期に関連付けることを可能にする。今回のような研究を太陽や他の星の周囲の巨大惑星に広げれば、研究は前進するはずだ。太陽系を引き続き探査することは不可欠だ。特に、初期の太陽系にたくさんあった巨大な原始惑星の残留物とも考えられる、天王星と海王星の探査は欠かせない。

(翻訳:新庄直樹)

Tristan Guillotは、コートダジュール天文台(フランス・ニース)に所属。

参考文献

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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