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帝王切開児は重要な腸内微生物を持っていない

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191104

原文:Nature (2019-09-18) | doi: 10.1038/d41586-019-02807-x | C-section babies are missing key microbes

Ewen Callaway

分娩様式によって新生児のマイクロバイオームが変わる可能性があることを示す、これまでで最も確実な証拠を英国の研究チームが発表した。ただし、その健康への影響は不明である。

経膣分娩と帝王切開では、生まれてきた乳児が保有する微生物群が異なっている。 | 拡大する

mustafagull/E+/Getty

分娩の仕方は、生まれてくる赤ちゃんのマイクロバイオーム(体に定着する微生物群集)に重大な影響を及ぼす、という研究結果がNature 2019年10月3日号117ページで発表された1

これは、過去最大規模の新生児マイクロバイオーム研究で得られた知見であり、膣を経由して生まれた乳児(経膣分娩児)と帝王切開で生まれた乳児(帝王切開児)では保有する微生物群に違いがあることを示した証拠として、これまでで最も有力なものだ。この研究により、帝王切開児では、健康な小児や成人に見られる腸内細菌系統のいくつかが欠如している傾向があることが分かった。一方、帝王切開児の腸内には、病院内でよく見られる有害な微生物が含まれていた。

今回の研究は、英国内の約600件の出産を分析したものだが、分娩様式による腸内微生物のこうした違いが、子どものその後の健康に影響を及ぼし得るかどうかまでは調べていない。とはいえ、病原性細菌の存在は懸念材料だと、この研究の代表著者であるウェルカム・サンガー研究所(英国ヒンクストン)の微生物学者Trevor Lawleyは話す。「帝王切開児に見られる、病院環境と関連する病原体の定着レベルの高さは、衝撃的でした。最初にこのデータを見た際、すぐには信じることができませんでした」とLawley。

経膣分娩児が母親から受け継ぐ微生物群の一部を、帝王切開児が獲得できていないことは、過去の研究ですでに示唆されていた。この観察結果を知った親が、帝王切開で生まれたばかりの我が子に、失われた微生物を回復させようと、膣液を塗り付ける処置を採用する事例も生じている。しかし、この「膣液植え付け(vaginal seeding)」と呼ばれる処置には異論もあり、その安全性や有効性も実証されていない。Lawleyによれば、これまでの研究で新生児の保有する微生物相に分娩様式が影響を与えるのかどうかが明らかにならなかったのは、サンプルサイズが小さく、試料採取の対象も限定的だったせいだという。

明白な違い

今回Lawleyらの研究チームは、英国のロンドンおよびレスターにある3つの病院の助産師や医師と共同し、596人の乳児(経膣分娩314人、帝王切開282人)の糞便に含まれる微生物のDNAを、生後4日・7日・21日目に採取して解析した。

2つの乳児群の腸内微生物相の違いは明白だった。経膣分娩児では、共生細菌の系統(健康な人に普通に存在する)が腸内微生物群集の大部分を構成していたが、帝王切開児には、そうした細菌系統が見られなかった。その代わり、帝王切開児の腸内では、エンテロコッカス属(Enterococcus)やクレブシエラ属(Klebsiella)などの、病院内で一般的に見られる日和見感染細菌が多くを占めていた。両者の違いは非常にはっきりしており、「赤ちゃんから試料を採取すれば、その子が生まれた分娩様式を高い確度で当てられるほどです」とLawleyは話す。

ただし、生後数カ月経つと、2つの乳児群の微生物相は似通ってきた。ところが例外もあった。それは、バクテロイデス属(Bacteroides)というありふれた共生細菌についてだ。この属の細菌は、ほぼ全ての帝王切開児で、出生後の腸内微生物相に存在しないか、もしくは存在しても非常に低レベルだった。平均して生後9カ月の頃でも、帝王切開児の約60%はまだ腸内にバクテロイデス属細菌がごく少ないか、もしくは全く存在しなかった。バクテロイデス属の一部の細菌は、宿主の免疫系に影響を与えて炎症を抑えるのに役立っていることが、これまでの研究で示唆されている。

Lawleyのチームは、帝王切開児の腸内に定着する傾向のある微生物をもっと詳しく評価するため、糞便試料から分離した数百もの細菌株を培養した。ゲノム塩基配列解析から、抗生物質耐性や病毒性の原因となる複数の遺伝子が見つかり、それらの細菌株が、病院内でよく見られる日和見感染細菌に関連することが明らかになった。

健康への影響

Lawleyらの今回の研究は、数千人以上の新生児を児童期まで追跡することを目指す、英国の「乳児微生物相研究(Baby Biome Study)」と呼ばれる大規模な取り組みの一環である。疫学研究から、帝王切開児は後年、喘息や肥満になるリスクが高いことが示唆されている。そうした健康問題に、分娩様式(とそれに伴う微生物相の変化)が関わっているのかどうかは、自分の研究チームが十分な数の子どもを調べることで判定できるようになるはずだとLawleyは話す。

一方、フロリダ大学医学系大学院(米国ゲインズビル)の新生児学者Josef Neuは、微生物相の違いには、恐らく複数の要因が分娩様式以上に関与しているだろうと話す。帝王切開の際には母親に抗生物質を投与するので、それが胎盤を通過している可能性もある。また、帝王切開児は経膣分娩児に比べて、病院内で過ごす期間が長くなる傾向があり、また、通常の微生物相を構成する微生物を多く含む母乳を飲み始める時期が遅くなる傾向もある。

カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の微生物学者Rob Knightによれば、Lawleyらの今回の研究は、どのような微生物系統を与えれば帝王切開児の微生物相を経膣分娩児のものに近付けられるかを明らかにする上で役立ってくれるだろうという。Knightは、2011年に妻が緊急帝王切開で娘を産んだ際に、膣液植え付けを行っており、2016年には、膣液植え付けの小規模な臨床研究を報告している2

Lawleyは、微生物を使った治療法を提供する企業を共同で立ち上げた。彼は、新生児の微生物相を変化させることが可能かもしれないと言いつつ、彼のチームの今回の成果は膣液植え付けの有効性を裏付けるものではないと強調する。「免疫機構が未発達の幼児に未確定の微生物群を植え付けるという考え方は、とても危険です。我々のデータは、膣液植え付けを支持するものではありません。この考え方には非常に不安を感じています」とLawleyは言う。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Shao, Y. et al. Nature 574, 117–121 (2019).
  2. Dominguez-Bello, M. G. et al. Nature Med. 22, 250–253 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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