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初期人類「ルーシー」の起源に新説

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191106

原文:Nature (2019-08-28) | doi: 10.1038/d41586-019-02573-w | Rare 3.8-million-year-old skull recasts origins of iconic ‘Lucy’ fossil

Colin Barras

2016年にエチオピアで発見された380万年前のヒト族の頭蓋骨化石によって、初期のヒト族の進化系統樹がこれまで考えられていたより複雑な形であることが示唆された。

この380万年前の頭蓋骨化石は、アナメンシス猿人のものとみられる。 | 拡大する

Dale Omori/Cleveland Museum of Natural History

ほぼ完全な古代の頭蓋の化石が、人類の最初期の祖先について新たな事実を語り始めた。2016年にエチオピアで発見された、稀有な保存状態の380万年前のヒト族の頭蓋骨が解析され、分析結果がNature 2019年9月12日号214ページで発表された1。この結果は、人類の最も有名な祖先の1人「ルーシー」の起源に関する見方を一変させる可能性がある。

頭蓋骨を発見・分析したのは、クリーブランド自然史博物館(米国オハイオ州)のYohannes Haile-Selassieが率いる古人類学者チームだ。研究チームによると、この化石はアウストラロピテクス・アナメンシス(Australopithecus anamensis;アナメンシス猿人)のものであり、科学者はこのヒト族の顔を初めてじっくり見ることができたのだという。アナメンシス猿人は、ルーシーが属するアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis;アファール猿人)に先行する種だと考えられていた。しかし、今回出土した頭蓋骨の特徴は、アナメンシス猿人が、少なくとも10万年間はアファール猿人と同じく先史時代のエチオピアで暮らしていたことを示唆している。これは、初期のヒト族の進化系統樹が、科学者たちがこれまで考えていたよりも複雑な形になることをほのめかしている。ただし、まだ決定的な証拠とはいえないとする研究者もいる。

ミズーリ大学コロンビア校(米国)の古人類学者Carol Wardは、今回の分析には関与していないが、「ヒト族の頭蓋骨化石は非常に珍しいお宝です。私にとっては、これは長年待ち望んでいた標本です」と言う(2011年4月号「この骨は歩くために作られた」参照)。

異例なほど良好な保存状態

約400万~300万年前に東アフリカに生息していたアファール猿人は、ヒトの進化を理解する上で重要な種である。類人猿に似たこの種の中から、私たち現生人類につながるヒト属(Homo)が約280万年前に進化してきた可能性があるからだ。この数十年間、研究者たちはエチオピアとケニアで、400万年以上前のアウストラロピテクス属の化石を何十点も発見してきた(2011年11月号「セディバ猿人は人類の祖先か」、2019年3月号「謎の初期人類『リトルフット』の全身を発掘」参照)。ほとんどの研究者はこれらの化石について、より初期の種であるアナメンシス猿人のものだと考えている(2006年9月号「 人類進化の空白を埋めるアナメンシス猿人の化石を発見」参照)。一般に、アナメンシス猿人は徐々にアファール猿人へと変化していったと考えられていて、その場合、2つの種が共存していた時期は全くないことになる。

しかし、今回報告された、エチオピアのウォランソ・ミルと呼ばれる発掘現場で2016年に発見された380万年前のヒト族の頭蓋骨の分析結果は、別の可能性を示している。研究チームが「MRD頭蓋骨」と呼ぶこの標本は、歯と顎の特徴からアナメンシス猿人のものであることが示唆された。アナメンシス猿人の頭蓋骨は、これまで数点の破片しか見つかっていなかったため、この結論は重要だ。

今回の研究に参加したマックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプチヒ)の古人類学者Stephanie Melilloは、「標本の保存状態は異例なほど良好でした」と言う。頭蓋骨は2つの大きな破片として発見されており、これほど古い時代の標本としてはあり得ないほど良好な状態なのだという。「本当に幸運な発見なのです」。

共存の可能性

頭蓋骨化石から復元されたアナメンシス猿人の顔 | 拡大する

Matt Crow/ Cleveland Museum of Natural History/John Gurche/Susan and George Klein

今回の発見により、他のアウストラロピテクスの頭蓋骨化石の再評価が可能になった。その1つが、1980年代にエチオピアで発見された390万年前の額の破片である。この破片がどちらの種のものかは長らく不明であったが、アファール猿人の頭蓋骨には見られるがMRD頭蓋骨には見られない特徴を備えていることが明らかになった。研究チームは、額の破片がアファール猿人個体のものであり、MRD頭蓋骨がアナメンシス猿人個体のものであると仮定した場合、2つの種がこの地域で10万年以上にわたり共存していた可能性があると提案している。

ただし、アファール猿人がアナメンシス猿人から進化してきた可能性はまだあると、Haile-Selassieら研究チームは言う。その進化は「種分化イベント」を通じて起きたのだろうと、彼らは考えている。恐らくアナメンシス猿人の一般集団から小集団が遺伝的に隔離されてアファール猿人へと進化し、やがて、より広く分布していたアナメンシス猿人に取って代わったのだろう。

集団全体が徐々に変化していったのではなく、局所的な種分化イベントが起きたのだという主張は、議論する必要のない末節だと思う人もいるだろうが、とMelilloは認めつつも、ヒト族の種がどのように進化していったかを厳密に理解することは、ヒト族種の進化の道筋を明らかにする上で重要な第一歩なのだと説明する。

アファール猿人とアナメンシス猿人が共存していた可能性について、考える用意ができている研究者もいる。ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)の古人類学者David Straitは、「非常に興味深い主張です」と言う。

しかしStraitもWardも、この説は、MRD頭蓋骨と1980年代に発見された額の破片というたった2つの化石に強く依存しているため、証拠はまだ決定的ではないと考えている。Straitは、今後発見される化石が、この仮説を固めるのに役立つかもしれないと言う。

隣のヒト族

カリフォルニア大学バークレー校(米国)の古人類学者Tim Whiteは、限定的な証拠のみに基づいてルーシーの起源に関する私たちの理解を改めるのは早計だと考えている。しかし、過去数百万年間の任意の時点で複数の種のヒト族が生息していたとする主張は、研究者の間で一般的になってきていると言う。

Haile-Selassieは、400万~300万年前には複数のヒト族種が共存していたと考えている。彼がそう考える理由はMRD頭蓋骨だけではない。彼の研究チームが2012年に報告した、ウォランソ・ミルで発見した340万年前のヒト族の足化石も理由の1つだ2。その足の親指は、他の指と向かい合わせにすることができた(2015年8月号「『ルーシー』の近くで発見された新種の初期人類化石」参照)。これは、当時生息していたことが判明しているヒト族には見られない特徴であったため、その足は、同じ地域に暮らしていた謎のヒト族のものであることが示唆されている。

「私にとって、ウォランソ・ミルで見つかった化石は、初期のヒト族が複数種いたことを明確に証明するものです」とHaile-Selassieは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Haile-Selassie, Y., Melillo, S. M., Vazzana, A., Benazzi, S. & Ryan, T. M. Nature 573, 214–219 (2019).
  2. Haile-Selassie, Y. et al. Nature 483, 565–570 (2019).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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