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ニッケル酸化物の超伝導

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191138

原文:Nature (2019-08-29) | doi: 10.1038/d41586-019-02518-3 | Superconductivity seen in a non-magnetic nickel oxide

George A. Sawatzky

銅酸化物の超伝導の原因は、磁性だけであると考えられていた。今回、銅酸化物に結晶構造が似た非磁性化合物において超伝導が見いだされ、こうした考えに疑問が投げ掛けられた。

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ktsimage/iStock / Getty Images Plus/Getty

1986年、ベドノルツとミュラーは、予想外の発見をした。ランタン-バリウム-銅酸化物La1.85Ba0.15CuO4が35ケルビン(K)という比較的高い温度で電気抵抗ゼロの超伝導体になったのだ1。この発見をきっかけに、物性物理学の分野では、超伝導の実験的・理論的研究が極めて精力的に行われるようになった。その後まもなく、他にも多くの銅酸化物の高温超伝導体が発見され、最高133.5Kで超伝導を示すものも見いだされた2。しかし、30年以上経っても、銅酸化物超伝導の基本機構に関して一致した見解は得られていない。今回、ネオジム-ストロンチウム-ニッケル酸化物Nd0.8Sr0.2NiO2が約9~15Kの温度で超伝導を示すことを、SLAC国立加速器研究所(米国カリフォルニア州メンロパーク)およびスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)に所属するDanfeng Liら3Nature 2019年8月29日号624ページに報告した。この物質は銅酸化物超伝導体に似た結晶構造をとることから、この発見によって銅酸化物系の超伝導の理解が深まると思われる。

金属材料では、電子間相互作用が通常の反発力から引力に変わると、超伝導が発現する。このシナリオでは、電子の電荷とスピン(磁気モーメント)に対する周囲の原子の応答が、間接的に電子対形成を引き起こす。このとき温度が十分低ければ、対になった電子が凝縮して超流体(摩擦なく流れる物質状態)を形成し、電気抵抗がゼロになる4。物質の超伝導を理解するカギは、電子の対を作る「のり」となる機構を明らかにすることである。

従来型の機構では、ある電子の近くで原子の位置がずれると、別の電子を引き付ける領域が形成される4。この現象は、スプリング入りマットレス上に2個の重いボールを置くと、1個のボールが沈み込んでマットレスがくぼみ、もう1個のボールが引き寄せられる領域が生じることに例えられる。しかし、この効果は小さすぎて銅酸化物の高温超伝導を説明できないことが、一部の理論研究で示唆されている。

したがって、銅酸化物については、移動する電子のスピンが磁気秩序(原子スピンの秩序パターン)のずれを生じさせるという機構が考えられた。マットレスの例でいえば、こうしたずれはマットレスのくぼみに相当し、隣り合う銅イオンCu2+の強いスピン間相互作用はマットレスのスプリングに相当する。この機構がどのように作用するかを理解するために、化合物La2CuO4の一部のランタン原子をバリウム原子に置き換えたLa1.85Ba0.15CuO4銅酸化物超伝導体を考えてみよう。

La2CuO4では、ある特定のCu2+の電子は、周りのCu2+の電子に対する強い反発力によって動くことができない。したがって、この物質は電気絶縁体となる5 。また各Cu2+は、奇数個の電子と正味のスピン1/2を持ち、強い反強磁性秩序を有する。つまり、隣り合うイオンのスピンが逆向きである。

La2CuO4中のランタンの一部をバリウムに置き換えると、ドーピングとして知られる過程で正孔と呼ばれる電子の空孔が系に導入される。この正孔は、物質中のCuO2面へと移動し、さらに濃度が十分低ければ、自由に動く電荷キャリアとして振る舞うため、金属的挙動を示す。Cu2+とドープされた正孔を合わせると、電子は偶数個に、正味スピンは0になる。これにより、周囲のCu2+のスピンの向きに大きな擾乱が生じる。こうした正孔ドーピングに伴う磁気的背景の変化が、電子対形成につながるのである。

およそ30年にわたって研究者たちは、スピン1/2イオンが存在する面を持つ他の化合物で超伝導を探してきた。そうした化合物の例が、ランタン面とNiO2面の交互層からなるLaNiO2と、ネオジム面とNiO2面の交互層からなるNdNiO2である。これらの物質中のニッケルイオンNi1+は、超伝導が誘起される際、La1.85Ba0.15CuO4中のCu2+と同じ役割を果たす可能性がある。しかしこれまで、いくつかの研究グループが、粉末状と薄膜状のLaNiO2とNdNiO2を作製した(例えば参考文献6~8参照)が、超伝導も磁気秩序の兆候も見られなかった。

今回、Liらは、NdNiO2薄膜を成長させた後、一部のネオジムイオンNd3+をストロンチウムイオンSr2+に置き換えることによって正孔ドープした。そして、得られたNd0.8Sr0.2NiO2という物質が最高15Kの温度で超伝導を示すことを見いだした。およそ30年間の試行の末、研究者たちはようやく銅酸化物に似た結晶構造をとり、想像以上に高い温度で超伝導を示す非銅酸化物化合物を見つけたのだ。しかし、銅酸化物と異なり、NdNiO2は1.7Kまで磁気秩序の兆候を示さない8。つまり、Liらの発見は、銅酸化物超伝導の原因が磁性だけではない可能性を示している。

この結論は、銅酸化物と正孔ドープNdNiO2が同様の電子構造をとるという仮定に基づいている。だが、3つの理由から、この仮定が妥当ではない可能性がある。第1に、銅酸化物では、正孔は主に酸素原子の2p電子軌道に存在する。この正孔のスピンは、隣のCu2+のスピンと反強磁性結合し、正味スピンは0となる。これに対して正孔ドープNdNiO2では、正孔は主にNi1+に存在し、結果的に、従来型酸化物なら1のスピンを持つNi2+となる9。しかし、おそらく状況は従来型酸化物とは異なるだろう。良質な試料が得られれば、X線分光法を用いて、これが本当かどうか確認できるだろう。

第2に、スピン間の反強磁性結合は、NdNiO2よりも銅酸化物の方がかなり強い可能性がある。この違いは、NdNiO2に磁気秩序が存在しないことと整合するだろう。第3に、LaNiO2のランタン原子の5d電子軌道やNdNiO2のネオジム原子の5d電子軌道が電気的輸送に関与することが、理論研究10によって示唆されている。もし裏付けが取れれば、この結果は状況を完全に変える可能性がある。特に、局所スピンは、近藤系と呼ばれる化合物に見られるように11、非局在伝導電子と結合することによって影響を受けると思われる。そうした系は、温度に対して抵抗率をプロットすると極小値を示す。実際、Liらは、NdNiO2においてこの現象を観測している。

このように、銅酸化物と正孔ドープNdNiO2の電子構造が似ていると結論付ける前に、取り組むべき多くの問題がある。今後の研究では、NdNiO2のニッケルイオンがNi1+であることを確認し、正孔ドープ状態の局所対称性とスピンを決定して、超伝導になる温度が正孔ドーピングとともにどのように変化していくかを調べるべきであろう。また、不要な水素化物や水酸化物が形成された可能性があるため、物質の化学組成も検証する必要がある。にもかかわらず、Liらの研究は、銅酸化物や銅酸化物系超伝導の理解を一変させる可能性があり、おそらく新しい高温超伝導体の発見につながると思われる。

(翻訳:藤野正美)

George A. Sawatzkyは、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)に所属。

参考文献

  1. Bednorz, J. G. & Müller, K. A. Z. Phys. B 64, 189–193 (1986).
  2. Schilling, A. et al. Nature 363, 56–58 (1993).
  3. Li, D. et al. Nature 572, 624–627 (2019).
  4. Bardeen, J. et al. Phys. Rev. 106, 162–164 (1957).
  5. Mott, N. F. & Peierls, R. Proc. Phys. Soc. 49, 72–73 (1937).
  6. Crespin, M. et al. Chem. Soc. Faraday Trans. 2 79, 1181–1194 (1983).
  7. Hayward, M. A. et al. J. Am. Chem. Soc. 121, 8843–8854 (1999).
  8. Hayward, M. A. & Rosseinsky, M. J. Solid State Sci. 5, 839–850 (2003).
  9. Zaanen, J., Sawatzky, G. A. & Allen, J. W. Phys. Res. Lett. 55, 418–421 (1985).
  10. Lee, K.-W. & Pickett, W. E. Phys. Rev. B 70, 165109 (2004).
  11. Kondo, J. Prog. Theor. Phys. 32, 37–49 (1964).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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