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新パナマ病がついに中南米に上陸

Credit: LUIS ACOSTA/AFP/Getty Images

数十年前からアジアとオーストラリアのバナナを枯死させて甚大な被害をもたらしてきた真菌が、このほど、世界の輸出用バナナのほとんどを生産している中南米で確認された。この真菌は、フサリウム属の真菌Fusarium oxysporum f. sp. cubense(Foc)で、その中でもTR4(tropical race 4)という、熱帯地域のキャベンディッシュというバナナ品種を宿主とするレース(特定の品種に対して病原性を示す病原体)がコロンビア国内で確認されたとして、同国政府は2019年8月8日、非常事態宣言を出した。南北米大陸でTR4が確認されたのはこれが初めてだ。コロンビア国内の農業における伝染病を監視する機関であるコロンビア農牧院(ICA)によると、これまでに約175ヘクタールが被害を受けたという。

コロンビア当局は2019年6月に同国北部のグアヒーラ半島でTR4によるバナナの枯死を疑い、4カ所のバナナ農園で検疫を行った。けれども科学者たちは今、TR4がすでに封じ込め区域を超えて広がっていて、今後数十年間、南北米大陸でのバナナ生産を脅かすのではないかと懸念している。

バナナを枯死させるFocは、1900年中頃、中南米パナマでバナナに農業史上最悪の被害をもたらしたことから、俗に「パナマ病」と呼ばれる。この時に流行したFocはTR1で、当時主に流通していたグロスミッシェル種のバナナは壊滅的な被害を受けた。Focは除去が困難であったことから、TR1に強いキャベンディッシュ種が広く栽培されるようになった。キャベンディッシュ種は現在では、食料品店で売られているバナナの主な品種であり、輸出されるバナナの中で圧倒的に大きな割合を占めている。だがTR4は、このキャベンディッシュ種と、プランテイン(熱帯のバショウ科バショウ属の多年草で、料理用バナナとも呼ばれる)に感染する。

フロリダ大学食品農業科学研究所(米国ホームステッド)の植物病理学者Randy Ploetzは、「これらの疫病は比較的緩やかに進行するため、広範囲に拡散し、まん延するまでにはある程度時間がかかります。けれどもやがて、輸出用のキャベンディッシュ種を生産することはできなくなるでしょう」と言う。

TR4は、1990年代からアジアでキャベンディッシュ種を枯死させ始め、その後、オーストラリアに広まり、さらにアフリカへと拡散した。この真菌はバナナの根に感染し、維管束系を通って隅々まで広がる。そしてバナナは、水と栄養分が取れなくなって枯死してしまう。TR4は、感染した植物を別の土地に移動させることで広まる他、水や土壌を通じて広まることもある。

TR4に有効な殺菌剤は見つかっていないため、さらなる広がりを食い止めることが主な対処法となる(「中南米に忍び寄る脅威」参照)。ICAは、被害を受けた農園のほとんどのバナナの株を処分したと言うが、TR4は約30年は土壌中にとどまり得る。

中南米に忍び寄る脅威
アジア、アフリカ、オーストラリアのバナナに壊滅的な被害をもたらしたTR4が、今、中南米に迫っている。

Nature の出版物は、出版された地図における異議申し立てのある支配権の主張について中立を保っている。

コロンビアの試料についてTR4の検査を主導したキージーン社(KeyGene;オランダ・バーヘニンゲン)の植物病理学者Fernando García-Bastidasは、「土壌の封じ込めは非常に困難です」と言う。「あの農園にどれだけの数の車と人間が立ち入り、TR4を他の場所に運んでしまったか、誰にも分かりません」。封じ込めを行えばTR4が広がるスピードを抑制することができ、コロンビアはできるだけのことをしている、とGarcía-Bastidasは言う。けれども、TR4がひとたびどこかに到達してしまったら、完全に駆除することはほぼ不可能だ。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2019.191003

原文

Alarm as devastating banana fungus reaches the Americas
  • Nature (2019-08-19) | DOI: 10.1038/d41586-019-02489-5
  • Jonathan Lambert