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EU新委員長は温暖化対策に注力

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191010

原文:Nature (2019-07-17) | doi: 10.1038/d41586-019-02204-4 | New EU chief makes bold climate pledges

Quirin Schiermeier

欧州委員会の新委員長に就任するウルズラ・フォンデアライエンは、欧州の温室効果ガス排出量の削減目標を強化するなど、地球温暖化対策を重視する姿勢を打ち出した。

2019年7月16日、欧州議会(フランス・ストラスブール)で演説する ウルズラ・フォンデアライエン。 | 拡大する

FREDERICK FLORIN/AFP/Getty Images

欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会の次期委員長に、ドイツの国防大臣ウルズラ・フォンデアライエン(Ursula von der Leyen)を充てる人事案が2019年7月16日、欧州議会で承認された。約3万人の職員を擁する欧州委員会を率いることになるフォンデアライエンは、地球温暖化対策を取り組むべき課題の筆頭に位置付けた。

欧州委員会はEUの政策執行機関であり、法案を作成し、法案が成立すれば加盟国に守らせる役割を担っている。EU加盟国の首相らでつくる欧州理事会(EU首脳会議)が次期委員長候補としてフォンデアライエンを指名し、欧州議会が承認した。フォンデアライエンは、2014年から委員長を務めたジャン・クロード・ユンケル(Jean-Claude Juncker;前ルクセンブルク首相)の後任として2019年11月1日に就任し、任期は5年。女性が欧州委員会委員長に就任するのは初めて。

欧州議会でフォンデアライエンが得た383票の賛成票は、承認に必要な過半数を9票上回るだけだった。反対票は327票。欧州議会議員らは順当に欧州議会の主要会派が推す候補の指名を期待していたため、彼女の指名は予想外であり、一部の反発を招いた。

フォンデアライエンは1958年、ベルギー・ブリュッセル生まれ。政界入りする前は医師で、同じく医師の夫との間に7人の子どもがいる。ドイツキリスト教民主同盟(CDU)に所属し、2005年からメルケル内閣に加わり、家族・高齢者・女性・青少年相などを務めてきた。

フォンデアライエンは、投票前の欧州議会での演説で、地球温暖化と環境を全ての政策分野において優先事項とするつもりだと述べた。彼女は、温室効果ガス排出量のEUの短期目標を、2030年までに1990年比で40%削減という現在の目標から、少なくとも50%削減に強化すると約束した。EUは地球温暖化問題の今後の国際交渉で先頭に立ち、他の主要経済圏にもその削減目標を2021年までに増やすように促す、と彼女は述べた。

フォンデアライエンは、就任後100日以内に「欧州グリーン計画(Green Deal for Europe)」を発表する予定だ。この計画には、2050年までに欧州を気候ニュートラル(温室効果ガス排出による気候への正味の影響がゼロである状態)にするための法律が含まれる見込みだ。「私は、欧州を世界初の気候ニュートラルな大陸にしたいのです」と彼女は述べた。

欧州グリーン計画の概要は、彼女が7月に発表した政治指針で説明されている。計画には、欧州の生物多様性戦略、拡大された排出権取引制度、「炭素リーケージ(漏洩)」を防ぐための税などが含まれる。炭素リーケージとは、企業が排出量規制の緩い国へ生産拠点を移転することだ。彼女は、欧州投資銀行の一部を「気候銀行」に改組し、地球温暖化を防ぐ事業に今後10年間で1兆ユーロ(約120兆円)を融資することも約束した。

気候変動ポツダム研究所(ドイツ)のディレクターOttmar Edenhoferは「科学的観点から言えば、より高い排出量削減目標は不可欠です。彼女は今後、その約束を実行していかなければなりません」と話す。

ドイツ経済研究所(ベルリン)の気候・エネルギー政策の専門家Claudia Kemfertは「提案された政策が実行されれば、欧州は地球温暖化を抑制する国際社会の取り組みにおいてリーダーになるはずです。欧州グリーン計画は革新的です。地球温暖化による損害を防ぎ、また、新たな市場を開くことにより、巨大なビジネスチャンスをつくり出すでしょう」と話す。

しかし、フォンデアライエンが提案した地球温暖化対策には批判の声もある。批判者には、欧州議会の環境保護派政治会派「欧州緑グループ・欧州自由同盟」(Greens/EFA)の議員たちがいる。彼らはフォンデアライエンの就任に反対票を投じた。同会派共同代表のスカ・ケラー(Ska Keller)は、「私たちは、変化を求める人たちに支持されて議員に選出されました。私たちが求めてきた重要なこと、つまり、取り返しのつかない温暖化を避けるための具体的な方策は、彼女の提案では十分ではありません」と話す。

ドイツ国際情勢・安全保障問題研究所(ベルリン)の政策研究者Oliver Gedenは、「排出量削減目標の強化は、EU加盟国が合意によって決める必要がある事柄です。新委員長はEU加盟国の支持を得る必要があります」と話す。

彼女の就任に伴い、内閣に相当する欧州委員会の委員26人も新たに選出される。研究・科学・イノベーション担当委員も、現在のカルロス・モエダス(Carlos Moedas;出身国・ポルトガル)の後任が選ばれる。EUの次の1000億ユーロ(約12兆円)規模の研究資金助成プログラム「ホライズン・ヨーロッパ」の詳細は、2019年末までに欧州委員会と欧州議会によって決定されるだろう。ホライズン・ヨーロッパは、地球温暖化の諸側面の研究にも重点的に資金を配分する見込みだ(2019年5月号「10億ユーロ規模の次期研究計画、最終6候補を選出」、同8月号「欧州研究会議ブルギニョン議長来日!」および「欧州連合の優れた取り組みとは何か」参照)。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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