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熱に耐える複合材料

米国ラスベガス郊外のモハーヴェ砂漠にある太陽熱発電所「イヴァンパー・ソーラー・エレクトリック・ジェネレーティング・システム(ISEGS)」
こうした集光型太陽熱発電所では、太陽光を鏡で中央のタワーに集めて熱を発生させ、次にこの熱を用いて動力サイクルを駆動して発電する。Cacciaら1は今回、将来の集光型太陽熱発電所で動力サイクルに必要とされる高温熱交換器向けのセラミックス–金属複合材料を開発した。 Credit: ETHAN MILLER/GETTY

セラミックスと金属を組み合わせた複合材料(コンポジット材料)は、工具やエンジン部品の耐摩耗表面、電気部品から、歯科充填材に至るまで、さまざまな用途に開発されてきた。今回パデュー大学( 米国インディアナ州ウェストラファイエット)のMario Cacciaらは、太陽熱発電所の熱交換器という、全く別の用途に適した高性能のセラミックス–金属複合材料を開発し、Nature 2018年10月18日号406ページで報告した1。この新材料は、発電所での高温環境に耐えられるだけでなく、そうした高温下で従来の熱交換器用材料よりもはるかに優れた熱伝導率と機械的強度を示す。今回の成果は、「次世代発電技術」として注目され開発が進められている、超臨界状態の二酸化炭素(CO2)液相を用いる高効率で環境に優しい発電プロセスを実現に導く可能性がある。

セラミックスと金属はいずれも何世紀も前から使われてきた材料で、それぞれ独特の性質と用途を持つ。例えばセラミックスは、人為的な処理によって得られる無機材料で、陶磁器に代表されるように、形状はシンプルだが耐熱性や耐腐食性が高く評価されている。一方、青銅や鉄といった金属は耐衝撃性が良好で、ヘルメットや蹄鉄などの複雑な形状に加工可能な展性(可鍛性)を持つ。こうした性質の違いから、セラミックスと金属は長い間、それぞれ異なる用途で用いられ、工学分野においても長年別々の道を歩んできた。

ところが20世紀半ばになると、ジェットエンジンの登場に伴い、当時利用可能だったどの金属よりも耐熱性や耐酸化性が高く、急激な温度変化に対応でき、機械的強度に優れた材料の必要性が高まった。これを受けて米国空軍は、そのような特性を併せ持つセラミックス–金属複合材料の開発研究に資金を提供した。この時、この新材料を表現する名称として誕生したのが、セラミックス(ceramics)と金属(metal)を組み合わせた「サーメット(cermet)」という造語である。以来、サーメットは数々の用途向けに開発されてきたが、その用途の多くは小さな部品や表面に限られていた。今回Cacciaらが開発したサーメットは、発電所の熱交換器向けのもので、極端な高温、高圧力、高速熱サイクルに耐えることができる。

このサーメットを作るため、Cacciaらはまず、「プリフォーム」を作製した。プリフォームとは、目的とする最終形態の物体を得るためにさらなる処理工程を必要とする前駆体のことで、陶磁器で例えるなら焼成前の粘土の器がそれに相当する。具体的には、Cacciaらは、炭化タングステン(WC)の粉末を圧縮して目的の物体に近い形状に成形した後、これを1400℃に加熱し2分間保持してWC粒子同士を焼結させ、得られた多孔性のプリフォームに機械加工を施すことで目的とする最終的な形状を得た。

次にCacciaらは、このプリフォームを還元性雰囲気(アルゴンに4%の水素を混ぜた混合気体)中で1100℃に加熱し、同じ温度に保たれたジルコニウムと銅の溶融混合体(Zr2Cu)に浸漬した後、取り出して1350℃に加熱した。この工程では、浸漬によってWCプリフォーム中の細孔に入り込んだ溶融Zr2Cu由来のZrが、加熱によってWC中のWと置き換わる、という反応が起こる。この置換反応では、生成物として炭化ジルコニウム(ZrC)とWとCuが生じ、非反応性の液体Cuは材料が固化するにつれてZrCマトリックスから押し出される。最終的に得られた物体は、約58%のZrC(セラミックス)と36%のW(金属)、反応せずに残留した少量のWCとCuで構成されていた。この方法の優れた点は、多孔性WCプリフォームから高密度の非多孔性ZrC/W複合材料への変換における実体積(空隙を含まない体積)の増加が、プリフォームの細孔が埋まることで受け入れられ、形状が維持されるとともに、全体の寸法が約2%以下しか変化しないことにある(図1)。

図1 多孔性WCプリフォームの二次電子像(a)と、非多孔性ZrC/W複合材料の反射電子像(b)
プリフォームに見られる無数の細孔は、置換反応の生成物によって充填されるため、最終的な複合材料では全体の形状や寸法を保持したまま密度だけが高くなる。 Credit: Ref.1

こうした巧妙な作製プロセスで得られたCacciaらのZrC/Wサーメットには、優れた特性も複数備わっている。例えば、800℃における熱伝導率は、現在高温熱交換器に用いられている鉄(Fe)系合金やニッケル(Ni)系合金の2.5~3倍高く、これは熱交換器の有効性の大幅な向上につながるだろう。また、ZrC/Wサーメットの機械的強度は、高温用途によく用いられるNi系合金よりも高く、室温と800℃の間で加熱と冷却とを繰り返す熱サイクルを10回経た後でも、少なくとも800℃まではその強度に変化は見られなかった。これは、500~800℃で強度が80%以上低下するFe合金(ステンレス鋼)やNi合金とは対照的である2

発電所では、発生した熱エネルギーが熱交換器によって熱機関(蒸気タービンなど)の作動流体へと伝えられ、そこで熱が力学的エネルギーへと変換された後、得られた力学的エネルギーを用いて発電が行われる。こうした熱から電気への一連の変換プロセスは、「動力サイクル」と呼ばれている。米国エネルギー省は現在、産業界の複数のパートナーと共に、作動流体として超臨界CO2を用いる動力サイクルの、10メガワット級試験施設「STEP Demo」の建設を進めている(nature.asia./ND1901nv2a参照)。超臨界CO2動力サイクルは、現行のものと比較して、発電所のコストを低減しつつ効率を高められると期待されているが、その実現には高効率の熱交換器が必要になる。Cacciaらの今回の論文は、集光型太陽熱発電所での超臨界CO2動力サイクルに使用できる熱交換器に焦点を合わせているが、そうした熱交換器は先進的な原子力発電所や化石燃料発電所でも使用できるだろう。

優れた特性を備えたCacciaらのZrC/Wサーメットだが、今後も取り組むべき技術的課題として、耐酸化性の向上がある。というのも、ZrC/Wサーメットは、発電所の熱交換器がさらされるような高温空気中では容易に酸化されてしまうからだ。超臨界CO2は弱い酸化剤にすぎないが、それでも今回のサーメットを破損させるには十分だという。Cacciaらは、ZrC/Wサーメットを薄い銅層で被覆した上で超臨界CO2に少量(50ppm)の一酸化炭素を添加すれば、750℃において高圧力(20メガパスカル)下で1000時間まで酸化を防止できることを示している。それでも、今後、長期耐久性を証明していく必要性はあるだろう。

Cacciaらの予備的な見積もりによると、ZrC/Wサーメット製の熱交換器の作製に必要な費用(原材料コストと処理・加工コストの合計)は、従来型の類似のNi合金製熱交換器よりも低いという。また、ZrC/Wサーメット製熱交換器では出力密度が2倍になるため、そのサイズはNi合金製のものの半分にできる可能性がある。こうした新しい熱交換器を使用すれば、再生可能な集光型太陽熱発電のコスト低減に役立ち、経済面でも化石燃料発電に十分対抗できるようになると考えられる。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190133

原文

Cermet material could aid the development of future power plants
  • Nature (2018-10-18) | DOI: 10.1038/d41586-018-07005-9
  • Craig Turchi
  • Craig Turchiは、国立再生可能エネルギー研究所(米国コロラド州ゴールデン)に所属。

参考文献

  1. Caccia, M. et al. Nature 562, 406–409 (2018).
  2. ASME Boiler & Pressure Vessel Code, Section II, Part D (2013).