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偽ウイスキーにストップ

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190105a

偽装食品を特定する優れた手法の開発が進んでいる

2017年、ウイスキーのオークション競売人Isabel Graham-Yoollは英国ロンドンの出品者のコレクションを調べていて、一部のウイスキーの色が少し違うことに気付いた。また、少し多めに入っている瓶がいくつかあるようだ。彼女は警察に通報し、出品者は詐欺で逮捕された。

この事件の裁判で検事の味方になるのは、ウイスキーに関するGraham-Yoollの専門知識だけではない。新たな検査技術が疑惑のウイスキーの特定に一役買うことになるかもしれない。

偽装食品検出は急速に進展している新分野で、ウイスキー研究者はその最前線にいる。ウイスキーは、複雑な特徴があるため、検査技術を評価するための実験台に適している。主成分(水と大麦などの穀類)と製造法によって、その銘柄に特有の化学的・生物学的な特徴が生まれ、木の樽の中で熟成される間に、あの黄金の色と独特の芳香が生まれる。

「新しい検査技術がウイスキーでうまくいけば、他の種類の蒸留酒にも使えると確信できます」と、スコッチウイスキー研究所(SWRI;英国エディンバラ)で分析業務部長を務めるShona Harrisonは言う。偽装食品・飲料と戦う取り組みは、世界的な取引データの監視から研究室で使われてきた検出機器の応用まで、広範に及ぶ。Harrisonもそうした活動に取り組んでいる研究者の1人で、酒造会社数社から資金提供を受けている。

取引量や価格のデータから目星

ある商品の需要が急増すると、それに応じて偽物が出てくることが多い。例えば偽スコッチは正規の製造元の生産が消費者の需要に追いつかなくなった場所に現れることが最も多い。過去2年間では、ニュージーランドのマヌカハニーが大ヒットした後、多くの偽マヌカが市場に出回った。

安物のウイスキーやハチミツなどの製品に高級ラベルが貼られた場合に被害を受けるのは、主に高級ブランドのオーナーだ。だが商品の中身が別物に入れ替えられた場合、被害は消費者に及ぶ。2017年には、インドで闇取引の蒸留酒を飲んだ人たちがメタノール中毒になって6人が死亡、30人以上が体調を崩した。また、食品偽装は儲かる。偽製品を出荷するごとに数万ドルが懐に入り、しかも刑罰は違法薬物取引に比べるとずっと軽い。

すでに店頭に並んでいる多くの商品を調べて偽装食品を検出しても、遅過ぎるだろう。そこでドイツ・バイエルン州健康・食品安全局に勤める食品技術者Katharina Verhaelenらは、ドイツの食品輸入データを月次で監視するソフトウエアを開発した。このシステムは輸入量と価格に疑わしい変化が生じた品目を見つけ出すもので、ヘーゼルナッツの価格が記録的に高騰した際、その粗悪品を特定するのに役立ったと、Verhaelenの研究チームはFood Control 2018年12月号に報告した。

また、偽装食品の発見・追跡にメディア報道を利用する研究もある。ワーヘニンゲン大学(オランダ)のサプライチェーン研究者Yamine Bouzembrakらは2018年11月に論文発表した研究で、メディカル・インフォメーション・システム(MedISys)という公衆衛生警告プログラムを使った。MedISysはネットニュースを検索して食品汚染の可能性があるケースを表示するシステムだが、これを偽装食品の検出に転用した。去る9月末の段階で5174件の食品偽装事件が発見・確定され、Bouzembrakは、フランス・ナントで開かれるフードインテグリティ会議で欧州数カ国の当局者と会って、この新ツールMedISys-FFを食品汚染の早期警告システムに組み込む可能性について話し合う予定だ。

専用にカスタマイズした分光計

偽装を分子レベルで検出する実用的技術の開発も進んでいる。2017年の会合で、Harrisonはある携帯型の分光計をたまたま知った。液体を透過した光を波長別に分けて強度を測定することで、中身の化合物を同定する装置だ。飲料用にカスタマイズされたこの携帯型分光計は、ワイン中の糖濃度を測定できる。糖濃度はワインの身元確認に使える。

(翻訳:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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